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.政治  投稿日:2024/10/25

新聞テレビが報じない自民党の防衛費GDP比2パーセント公約の撤回


清谷信一(防衛ジャーナリスト)

【まとめ】

・石破政権は、防衛費のGDP比2%引き上げ公約を外し、防衛政策を見直している。

・自民党の防衛費増額政策は無計画で財源の不透明さが指摘されているが、具体的な議論が欠けている。

・メディアは、防衛政策の転換点や増額の課題について十分に報じておらず、政局やスキャンダルに偏っていると批判されている。

 

新聞、テレビ、通信社など記者クラブメディアは今回の衆議院総選挙に関する報道を加熱させているが、政局絡みやスキャンダルに偏っていないだろうか。

 

今回の選挙で石破政権は、岸田内閣が衆議院、参議院の二回の選挙で掲げていた、防衛費をGDP比率2パーセントまで引き上げるという公約を掲げていない。これは防衛費をGDP比2パーセントという政策を見直す、と考えていいだろう。

 

そうであれば、防衛政策の一大転換であり、いま焦点となっている防衛費増額にともなう財源確保の議論も変わってくるだろう。現在は 2023年度から2027年度までの5年間の防衛力整備計画で43兆円の防衛費を支出することになっているが、この計画終了後に防衛費の見直しが行われる可能性もある。

 

これは自民党の公開している公約を見ればわかる話だ。記者クラブメディアは各党の公約を読んでいないか、過去の公約との比較をしていないのではないかだろう。書いてあるものしか見ないのでは記者は失格だ。何か書かれていないか、という話が重要であることが少なくないからだ。過去の政策を読んでいれば、その差異が気になるはずだ。

 

記者クラブメディアの記者が知っているならば、防衛政策の大きな見直しとなりうるのに、なぜ石破首相に会見で質問しないのか。

 

2021年10月の衆議院選挙では岸田政権は防衛費をNATO(北大西洋条約機構)並みのGDP(国内総生産)比2%以上へ増額すると自民党の公約として発表した。

 

だが、算定根拠を我が国基準なのか、NATO基準による算定なのかも決めていなかった。現在前者であれば1パーセント、後者であれば1.3パーセントほどであり、金額でいえば1.3倍も異なる。どちらの基準を取るのか、筆者は岸信夫防衛相に聞いたが明確な回答は得られなかった。実は自民党の公約ではどちらの算定基準を採用するか決めていなかった。これは政権与党の選挙公約としては極めて杜撰である。実は筆者はこの話を当時石破茂氏から聞いていた。

 

この件問題を指摘したのは知りうる限り、筆者だけである。記者クラブメディアは発表されたGDP比2パーセントという数字だけを取り上げて報道したり、議論した。その後財務省が財政審議会の資料で取り上げて、一般に知られるようになった。

 

この大幅な防衛費の増額を自民党が昨年から唐突に言い出した。その急先鋒は暗殺された安倍元首相だ。彼は日本の防衛費をNATO並のGDP比2パーセントにする、その財源は国債だといいだした。昨今メディアはその財源については言及するが、そもそもなぜ急に軍拡をするようになったのか。その原点について報道も分析もしていない。

 

 この防衛費をGDP比2パーセントへの大幅増額を言い出したのは、約100名の議員を派閥に抱え、大きな影響力を持っていた安倍晋三元総理であった。安倍元首相は周辺環境の危機を叫び、国内総生産(GDP)比2パーセントへの引き上げに否定的な意見に対して「(必要な防衛費を)積み上げなければいけないという議論は小役人的発想だ」と述べていた。(参考:日本に「継戦能力なし」=安倍氏 | 時事通信ニュース)。また初めに2パーセントの数字ありきで、使い方は上げてから考えればいいと言っていた。

 

 これは政権与党として極めて無責任だ。本来は周辺環境がどの程度変わったのか具体的に述べて、それに対応するためにどのような政策を取るのか。例えば3自衛隊の隊員をどの程度増やすのか、護衛艦や装甲車、戦闘機などの装備をどの程度増やすのか、その装備の稼働率をどの程度増やすのか、あるいは弾薬備蓄をどの程度増やすなどの具体的な必要なここの予算を概算でも提示すべきだ。

 

 ところがそのような説明責任は果たさず、防衛費を2倍にすれば国貿が全うできる。財政的な裏付けは必要なく、国債を刷ればいくらでも防衛費は増やせて軍拡ができると安倍元首相は主張していた。

 

それは恐らく第二次安倍政権の経済政策、アベノミクスが完全に失敗だったからだろう。だからこそ安倍元首相は首相としてその責任を回避するために持病を理由に政権を放り出したのではないか。

 

安倍元首相はアベノミクスで、10年間でGDPを600兆円にすると公言していたが、2020年度のGDPは536兆円にすぎない。それも、GDPの統計を操作した上での数字だ。同様に10年間で個人所得を150万円上げるともいったが、実際はむしろ24万円も低下しており、達成目標に174万円も足りない。

 

また円安誘導によって輸出増大を狙ったが、ドルベースでの輸出は横ばいで、貿易収支は赤字に転落している。そしてGDPでは人口が約8300万人、日本の7割に過ぎないドイツに追い抜かれ、一人当たりでのGDPは韓国や台湾にも抜かれてしまった。

そして自民党清和会(安倍派)や国防部会は急に、自衛隊の弾薬が足りない、装備の稼働率が低すぎると騒ぎだした。だがこれは、今始まった問題ではなく、歴代の自民党政権が放置してきた問題だ。

実は稼働率の問題は、福田内閣時に石破防衛大臣が初めて調査を命じた。それまで各幕僚監部では装備の稼働率を調査したことはなかった。つまり防衛省、自衛隊も自民党国防部会も装備の稼働率には関心がなかった。またメディアも関心を持ってこなかった。

 

安倍元首相は「北大西洋条約機構(NATO)加盟国並みの国内総生産(GDP)比2パーセントという目標をしっかりと示し、検討してもらいたい」と述べている。(参考:安倍元首相、防衛予算のための国債発行の必要性に言及 – 産経ニュース)

だが小野寺元防衛大臣ら軍拡強硬派は、NATO基準は「水増しだ」と批判をしている。そもそも米国がNATO諸国に要求している水準であるGDP比2パーセントに合わせるといっておきながら、NATOの基準では増額が少ない、もっと増やしたいというのはロジックが破綻している。

 

自民党国防族は、防衛省のシンクタンクである防衛研究所高橋杉雄氏(現防衛研究所・防衛政策研究室長)らが頻繁にメディアに露出して「GDP2%が妥当である」などと言っているが、自民党国防族の主張のカーボンコピーであり、専門家の発言とは信じられない発言だ。しかも発言は個人の見解だと強弁してきた。しかし、防衛研究所の見解と読者・視聴者は理解するだろう。自民党は本来政治的な思惑とはニュートラルであるべき防衛研究所を世論操作の道具として使用したのだ。こんなことは以前にはなかった異様な事態であった。

 

岸田政権は防衛費の大幅増額を決め先のように2023年度から2027年度までの5年間における防衛力整備計画で43兆円という計画を策定し、またあわせて防衛費増額のためには財源が必要だと主張した。

 

だが現状は約5500億円を建設国債に充てており、「借金軍拡状態」である。一番簡単なのは事実上の「官製脱税」である「ふるさと納税」の廃止である。いまや「ふるさと納税」は一兆円を超えており、そのうち5500億円、防衛費に当てられている建設国債ほどが返礼品や業者の手数料として税金から漏れている。

 

筆者は2022年12月16日の防衛大臣記者会見で浜田防衛大臣(当時)に質問この件を質問したが、自民党は防衛費増大の財源として「ふるさと納税」の廃止の検討はしていないと述べた。ふるさと納税はこれを提唱し実現したのは安倍政権時代の菅義偉官房長官である。同氏は自民党の実力者でありふるさと納税を未だに誇っているので、これを廃止しようとは言い出せない空気があるのだろう。

 

防衛省の装備調達や維持費は他国の数倍が当たり前で、一桁高いものも存在する。このような無駄遣いをまずは見直すべきだ。また隊員数の維持も難しい。昨年度の自衛官の採用は予定の半分程度しか達成できなかった。今後も少子高齢化は進むわけで、自衛官の数を確保するのは難しいだろう。部隊の拡大どころか、現状維持も不可能だろう。そのような現実を果たして与党自民党は理解しているのか。

 

このような事実を踏まえれば、石破政権が選挙公約から防衛費のGDP比2パーセントを下げたことは大きく注目すべきところのはずだ。

 

 これを新聞などの記者クラブメディアは誰も問題にせず、高橋杉雄氏ら防衛研究所の高がテレビやメディアに「私人の資格、私人として発言だと」出まくって世論工作に協力してきた。彼らはまずは金額ありきだ、使い道は後で考えればいいと言ってきた。まともな安全保障の研究者の言うことではない、曲学阿世の徒である。

 

写真)自民党総裁選で勝利した安部元首相と、対抗として出馬した石破茂現首相(2018.9.20 東京)

出典)Photo by Carl Court/Getty Images




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