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.国際  投稿日:2024/11/20

監視社会の闇で深まる悲劇:中国で相次ぐ無差別殺傷事件


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2024#47

2024年11月18-24日

【まとめ】

・中国で無差別殺傷事件が相次ぎ、社会不安が広がっている。

・背景に、経済格差の拡大、精神的なストレス、政府による過度な監視などの要因が考えられる。

・中国政府は問題の深刻さを認識しているものの、根本的な解決策は見えていない。

 

今年の外交安保カレンダー執筆も今週が47週目、日本の総選挙と米国の大統領選挙が終わり、漸く東京もワシントンも落ち着きを取り戻し始めたかに思える今日この頃だ。これまでは毎週のように選挙関連のトピックばかり書いてきたが、もう、さすがに選挙と人事は飽きてしまった。という訳で、今週は選挙以外の話を書くことにする。

筆者が気になったのは、最近中国国内で相次いでいる無差別殺傷事件だ。11月に入り、広東省珠海市で、男が車で歩行者を次々とひき殺し多数の死傷者が出た事件に続き、江蘇省無錫市にある職業学校では、卒業試験に不合格になった男が学生らを刃物で切りつけ多数の死傷者が出た事件がほぼ連続して発生している。

これらの事件はいずれも大規模で、中国国内外でも大きく報道された。だが問題はこれだけではない。6月には蘇州で日本人親子が刺傷される事件があり、9月には深圳で日本人学校に通う10歳の男児が中国人男性に襲われ死亡する事件も起きている。当時これは「氷山の一角」だろうと筆者は書いたが、やはりそうだった。

日本の 外務省は中国政府に対し、事件の真相解明と再発防止策の徹底を求めるとともに、在留邦人に対して安全に十分注意するよう呼びかけている。しかし、外務省から離れ一市民として改めて聞いてみると、「安全に十分注意せよ」と言われても、「結局何をするかは個人の責任なんだろ?」と言いたくなるほど、空しく響いた。

やはり、中国社会はどこか壊れ始めているのではないか?社会主義の国なのに、国民の最低限の社会保障セイフティネットすら整備せず、社会の経済格差を是正することもなく、ただただ成長と金儲けに邁進する社会が健全な訳はないだろう。中でも驚いたのは次の記事である。

11月14日付の香港・星島日報によれば、最近中国当局は8種類の「失った人々」を見つけたら「当局に報告する」よう指示したそうだ。その8種類の人々とは、「投資失敗、工作失業、生活失意、情感失意、関係失和、心態失衡、精神失常、年少失管理」だという。

日本人ならこれらの漢字を読んだだけで大体の意味は分かるだろう。投資の失敗から失業、生活や家庭、人間関係に失望した人、心が病んでしまった人など、およそ現代中国経済・社会の厳しい競争やストレスの犠牲になった人々がほぼ網羅されている。これらを一々報告し始めたらキリがないのではないか、と思うほどだ。

問題は相当根深く、当局が関連ニュースを削除したぐらいでは封じ込めなど無理だ。あの監視社会の中で、あれだけ締め付けを続けても、無差別殺傷事件が続くことは、明らかに尋常ではない。中国政府は深刻に受け止めているに違いないが、その答えが8つの「失」の報告しかないのだとすれば、中国人民は救われないだろう。

続いては、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。

11月19日 火曜日 G20首脳会議(ブラジル)

ウクライナ大統領、欧州議会でリモート演説

EU国防大臣会合(ブラッセル)

インド首相、ガイアナ訪問(3日間)

11月20日 水曜日 中国国家主席、ブラジル公式訪問

フランス大統領、チリ訪問(2日間)

イタリア首相、アルゼンチン訪問

11月21日 木曜日 ロシア外相、ベラルーシ訪問(2日間)

ASEAN国防大臣会合(ラオス)

11月22日 金曜日 COP29が閉幕(アゼルバイジャン)

11月24日 日曜日 ルーマニアで大統領選挙

ウルグアイで大統領選決選投票

スイスで4半期ごとの国民投票

最後はいつものガザ・中東情勢だ。先週はイスラエルのネタニヤフ政権が西岸地域入植地に対する「主権」を宣言するという「癖球」が投じられたが、残念ながらワシントンからあまり強い反応はなかった。それよりも、今週は、ネタニヤフ政権に再び逆風が吹いている。

ガザの停戦を遅らせるためネタニヤフ政権が機密情報をリークした容疑で浮上し、その関連で首相府報道官らが逮捕されたと報じられたからだ。真相は現時点では不明だが、相変わらず、イスラエルは騒がしい・・・。今週はこのくらいにしておこう。

いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真:広東省珠海市の空撮 出典:Viviane Moos / GettyImages




この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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