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.政治  投稿日:2024/11/6

「103万円の壁」見直し論議に「社会保障の壁」の議論も


安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

【まとめ】

・自民党と国民民主党は「103万円の壁」の見直しをメインに調整を急いでいる。

・メディアには、減税のメリットより税収減のデメリットを説く論調が多い。

・社会保障の壁をどうするかについても議論が必要だ。

 

自民党と国民民主党は、「103万円の壁」の見直しをメインに調整している。

国民民主の主張は、現在の非課税枠である基礎控除(48万円)と給与収入の額に応じた給与所得控除(最低55万円)の計103万円を178万円まで引き上げるというもの。

国民民主の躍進についてはすでにさまざまな分析がなされている。弊社のインターンの大学生のほとんどが比例で国民民主党に投票したことからも、若者が同党に期待していることがわかる。ある4年生は、「各党の政策を比較して、国民民主の政策なら私たちの手取りが増えるだろうと考え投票した」と、明確に話していた。この学生は保険業界に就職することが決まっている。

「103万円の壁」の見直しについて国民民主の主張はシンプルだ。「年収の壁」の103万円から178万円への引き上げの財源は税収の上振れで賄える、というもの。

しかしメディアには、減税のメリットより税収減のデメリットを説く論調が多い。約7.6兆円超の税収減が財政を毀損し、将来の大増税につながる、というのだ。まるで財務省の代弁者のようだ。

朝日新聞は、「多くの人が減税、税収は激減…国民民主『103万円の壁』対策を試算」(2024年11月1日ウェブ版)で、大和総研の是枝俊悟主任研究員の話として、「規模が7兆~8兆円と大きいため、ただでさえ巨額の借金を抱える国の財政の信認がゆらぐ心配も出るでしょう。将来、増税されるのではないかという不安から、消費が控えられる可能性もあります」などと紹介している。

一方、第一生命経済研究所の永濱利寛氏は、「基礎控除引上げの財源を考える ~インフレ1%あたり▲11~12 兆円の政府債務残高/GDP 押し下げ効果~」(2024年10月31日)と題するリポートを発表。そのなかで、「GDP デフレーターの+1%上昇で、政府債務残高/GDP を▲1.5〜▲1.7% ポイント押し下げる要因になり、これを金額に換算すれば11〜12兆円規模の財政改善要因とな る。こうしたことから、GDP デフレーターベースで+ 0.6〜0.7%のインフレ持続で政府債務残高 /GDP を上昇させずに、基礎控除75万円引き上げ分となる 7.6兆円の財源捻出が可能となる」と主張。 そのうえで、7.6 兆円の減税をしても、それにより経済が活性化することで税収増が見込めることや、年収103万円以内に年間所得を抑制していたバートタイム労働者の労働供給や所得の増加による自然増収効果などから、「丸々財政が悪化するわけではない」としている。

こうしたなか、財源論だけでなく、社会保障に焦点をあてた論調も増えてきた。同じく第一生命経済研究所の熊野英生氏はリポート、「国民民主党案では『年収の壁』をなくせない ~石破政権の丸飲みリスク~」にて、「社会保険料についての106万円と130万円という壁があるから、依然として労働供給の歪みはなくならない。基礎控除額を上げる措置が実質的な減税になるだけで、「年収の壁」対策として大きな意味がない」と断じる。

「106万円の壁」とは、学生以外のパート、アルバイトの社会保険加入の目安金額だ。社会保険の適用事業所(従業員数101人以上)で、週20時間以上働き、月8万8千円以上の収入があると、厚生年金と健康保険の社会保険に加入することになる。

「130万円の壁」とは、親や配偶者の社会保険(健康保険等)の扶養から外れ、社会保険料を支払う必要が生じる年収の境目のこと。また、年収が130万円に達していると、所得税や住民税も納付する必要がある。

こうした社会保障の壁をどうするかについても議論が必要だ。厚生労働省ももちろんこうしたことはわかっていて、対応策として助成金を使った「支援パッケ ージ」を設けてはいる。

いずれにしても税や社会保障の仕組みは複雑で、その改正は容易ではないことだけは確かだ。しかし、若者やパートタイマー、中小企業経営者らの間に重税感があるのも事実であり、自民党は、少数与党になったので仕方なく国民民主の案を丸呑みする、という受け身の対応ではなく、中間層の重税感を緩和し、労働力不足緩和に資するような政策を打ち出すべきだろう。少数与党に転落したことを奇貨として、大胆な税制改正・社会保障制度改革に向けて野党との協議を加速させれば、支持率がた落ちの石破政権に再浮上の可能性も出てこようというものだ。何をしたいのかわからないような状態が続けば、短命内閣に終わるだろう。今が踏ん張りどきだ。

トップ写真:スーパーで買い物する女性(イメージ)出典:Hakase_/GettyImages




この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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