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.社会  投稿日:2024/10/28

ニューヨーク・ヤンキースは15年ぶり世界一奪還ならずか ジンクス「松井秀喜の呪い」


松永裕司(Forbes Official Columnist)

「松永裕司のメディア、スポーツ&テクノロジー

【まとめ】

・メジャーリーグには「呪い」にまつわる伝説が多い。

・特にボストン・レッドソックスの「バンビーノの呪い」が有名で、86年間優勝から遠ざかった。

・ニューヨーク・ヤンキースも「松井秀喜の呪い」で15年間優勝から遠ざかっている。

 

メジャーリーグは「呪い」好きである。

いや、MLBが特段「呪いが好き」とするのは語弊があるだろう。しかし、メジャーリーグ制覇を成し遂げられないチームには「呪い」がかかっている…という通説がまかり通って来たのは事実だ。

もっとも有名な「呪い」は野球ファンなら誰もが知る「バンビーノの呪い」

かつては松坂大輔さん、上原浩治さんらが、現在は吉田正尚が所属することで日本でも知られているボストン・レッドソックスは、1901年創設という伝統的古豪ながら、1918年から2004年まで実に86年間「世界一の座」から遠ざかっていた。

ナショナル・リーグの優勝チームとアメリカン・リーグの優勝チームによって争われるワールドシリーズ(以降「WS」)がスタートしたのは、1903年。この記念すべき第1回を制したのが他ならぬレッドソックス(当時の呼称はアメリカンズ)。ナノピッツバーグ・パイレーツを5勝3敗で下し、初代王者に輝いた(この年は合意により9戦の5先勝システムだった)。以降、レッドソックスは1918年までに5度世界一に輝いており、優勝回数ではフィラデルフィア・アスレチックス(元オークランド)の3回を上回り最多優勝球団だった。ちなみにニューヨーク・ヤンキースは1923年に至るまで一度も世界一を経験していない(1904年は両リーグの合意が見られずWS未開催)。

 

LOS ANGELES, CALIFORNIA – OCTOBER 26: Aaron Judge #99 of the New York Yankees reacts after striking out against the Los Angeles Dodgers in the ninth inning during Game Two of the 2024 World Series at Dodger Stadium on October 26, 2024 in Los Angeles, California. (Photo by Harry How/Getty Images)

写真:ニューヨークヤンキースのアーロン・ジャッジ選手(2024年10月26日、カリフォルニア・ロサンゼルス)

出典:Photo by Harry How/Getty Images

 

 MLBに残された数々の「呪い」

しかし歴史は変わる。

レッドソックスの中心選手だったベーブ・ルースを1919年オフにヤンキースにトレード。オーナー、ハリー・フレイジーの趣味であるブロードウェイへの投資のためだったとされている。ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平が「二刀流」として常に比較されるルースの記録は、ほとんどがレッドソックス時代のものであり、ヤンキース移籍後はほぼ打者として活躍。トレード後の1920年にほぼ打者に専念すると、ルースはシーズン54本塁打を記録(打者に専念して54本塁打は、ちょうど今季の大谷に重なる)。当時のメジャー記録を軽く塗り替え、旧ヤンキー・スタジアムは「ルースが建てた家」と謳われることになる。一方のレッドソックスは、ルース放出以降低迷期もあり世界制覇から見放される。ルースの愛称である「バンビーノ」から、これは「バンビーノの呪い」と呼ばれた。

鈴木誠也が所属するシカゴ・カブスの「ビリー・ゴートの呪い」も興味深い。現在でもイリノイ州などに店舗を展開する「ビリー・ゴート・タバーン」のオーナー、ビリー・サイアニスさんが、ラッキー・マスコットとされていたヤギのマーフィーを連れ1945年のWS第4戦を観戦していたところ、周囲から「ヤギが臭い」というクレームもあり、本拠地リグレー・フィールド(1924年竣工)から追い出された。ヤギがスタジアムに入場できる牧歌的な時代があったわけだ。この際、ビリーさんは「カブスは二度と勝てない」と呟いたという逸話があり、その後カブスは2016年にWS制覇を果たすまで71年間も世界一から遠ざかった。

シカゴ・ホワイトソックスは1919年に起こったWS八百長「ブラックソックス事件」によりジョー・ジャクソンなど8選手が球界を追放された。これを一種のスケープゴートとみる向きもあり、この8選手による呪いにより、ホワイトソックスは2005年まで世界制覇ならず「ブラックスソックの呪い」とされた。アメリカでは映画『フィールド・オブ・ドリームズ』を含め、本事件をモチーフにした作品が枚挙に暇がない。ホワイトソックスの優勝は1917年以来、88年ぶりにその呪縛を解いた。

クリーブランド・ガーディアンズは1915年から「インディアンズ」の呼称を使用。46年に「ワフー酋長」のキャラクター・デザインを採用すると、その恩恵からか48年には1920年以来2度目の世界一制覇を果たした。しかし51年にこのキャラクター・デザインを変更すると、2021年にガーディアンズに名称変更するまで、WSに見放され続けた。これを「インディアンの呪い」「ワフー酋長の呪い」と呼ぶ。ガーディアンズは今季もヤンキースに阻まれWS進出ならず、呪いは75年間継続中だ。

 

CHICAGO, IL – JUNE 11: A detail view of the “Chief Wahoo” Cleveland Indians logo on the uniform of Michael Brantley #23 during the game against the Chicago White Sox at Guaranteed Rate Field on June 11, 2018 in Chicago, Illinois. (Photo by Dylan Buell/Getty Images)

写真:インディアンズのワフー酋長(2018年6月11日、シカゴ)

出典:Photo by Dylan Buell/Getty Images

 

■ ワールドシリーズMVP男と契約更改せず

世界一27度を誇るニューヨーク・ヤンキースは他球団が抱えるこうした「呪い」とは無縁のはずだ。しかし、ヤンキースは現在「松井秀喜の呪い」に縛られている。

ヤンキースは創設の1903年よりWS初制覇の23年まで20年間を費やした。しかし以降、コンスタントに世界一を成し遂げ、王座戴冠のないブランクは1978年から96年までの18年が最長。2番目に長いブランクが、62年から77年までの15年となっている。ヤンキースは前回、2009年に松井秀喜さんの大車輪による活躍でWSを制覇。松井さんは日本人として初めてWSのMVPを獲得、日本のファンにとって、まだ記憶に新しい偉業だろう。09年のWS、松井さんは、打率.615とシリーズ歴代最高打率を誇った。ナ・リーグ優勝決定戦でMVPに輝いたドジャースのトミー・エドマンの打率が.407ゆえ、いかに当たっていたかわかるだろう。これは13年、打率.688でやはりWS MVPとなったデイビッド・オルティースさん(レッドソックス)に破られたものの現在も2位につける異次元の打棒だった。

 

TORONTO – APRIL 1: Right fielder Hideki Matsui #55 of the New York Yankees hits a groud ball to first base against the Toronto Blue Jays at SkyDome on April 1, 2003 in Toronto, Canada. The Yankees defeated the Blue Jays 10-1. (Photo by Rick Stewart/Getty Images)

写真:トロント・ブルージェイズとの試合でボールを打つ松井秀喜選手(2003年4月1日、カナダ・トロント)

出典:Photo by Rick Stewart/Getty Images

09年オフ、ヤンキースはWSのMVP松井さんとの契約を見送り放出。ロサンゼルス・エンゼルスの選手として2010年4月13日、ヤンキー・スタジアムに凱旋・敵チームの選手ながらスタンディング・オベーションを送られ、チャンピオンズ・リングを受け取ったシーンも有名だ。それにしても世界一奪還の立役者を放出するとは、憤りを感じた日本のファンは私だけではなかったろう。しかし以来、ヤンキースは世界制覇より遠ざかり、今季で15年が経つ。これが「松井秀喜の呪い」である。つまりヤンキースにとっては「もっとも世界一から遠ざかっている」2番目の記録に並んでいるのが現状だ。

ヤンキースはWS MVP選手放出について前科さえある。1996年の世界制覇でもMVPに輝いたリリーフ・エースのジョン・ウェットランドを放出。この時期、マリアノ・リベラが急成長中、すぐさまその穴を埋めた。だが松井さん放出後、ポスト・シーズンにおいて目の覚めるような活躍を見せる選手は登場していない。ア・リーグ優勝決定戦で4本塁打したジャンカルロ・スタントンがWSでもチームを牽引するのか、期待したい。

ヤンキースの世界タイトル失損は、MVPだった我らが松井さんを放出した「秀喜の呪い」と呼ぶにふさわしい。2024年のWSもヤンキースはここまでドジャースを相手に2連敗。逆転で4勝をもぎ取れば15年ぶりの世界一となるが、このまま黒星を重ねれば、球団史上もっとも世界一から遠ざかる記録の単独2位となる。またヤンキースがこの機を逃した場合、2028年シーズンまでにWS制覇を成し遂げなければ、球団史上、世界制覇なしの最長記録を更新する。

スタントン、アーロン・ジャッジ、ファン・ソト、ゲリット・コール…ドジャースに負けず劣らず球界の至宝を抱えた伝統球団の世界一奪還はなるのか。多くの日本のファンが、大谷によるWS制覇に期待を寄せる中、「秀喜の呪い」は続くのか、それともヤンキースがそれを打ち破るのか、見どころは尽きない。

 

 ワールドシリーズ未経験球団は…

なお30球団を擁するMLBには、優勝経験のないチームも存在する。イチローさんが球団会長付特別補佐兼インストラクターを務めるシアトル・マリナーズはいまだWS出場さえままならない。イチローさんが入団した2001年、当時のア・リーグ年間最多勝記録となる116勝を成し遂げなら、ポストシーズンでヤンキースに行く手を阻まれた(47年)。コロラド・ロッキーズは2007年に初めてリーグ優勝をなし得ながらWSでは1勝もできず敗退。先日まで西武ライオンズの松井稼頭央・元監督はこの時のメンバーでもある(31年)。

タンパベイ・レイズは岩村明憲さんが所属した2008年WS初出場、20年もリーグ優勝を果たしたが、ともに敗れている(26年)。ダルビッシュ有、松井裕樹を擁するサンディエゴ・パドレスは1984年、98年にやはりリーグ優勝をなしながらも未制覇(55年)。ミルウォーキー・ブルワーズも1982年にWSの進出ながら敗れ、以来この大舞台に立つ機会を持たない(55年)。

※文末カッコ内の数字は球団創設以降、WS未制覇の年数。

伝統的なチームには数々の「呪い」が存在するにもかかわらず、こうした世界未制覇チームには「呪い」が存在しない点も、メジャーリーグのさらに興味深い。

ドジャース対ヤンキースは1981年以来の43年ぶりの対戦、もちろん大谷翔平、山本由伸という日本球界を代表する両選手が世界一への挑むという点からも話題は尽きないが、こんな「呪い」にも、少し着目してみたい。

トップ写真:ニューヨークヤンキースとの試合で腕をケガした大谷翔平選手(2024年10月26日、カリフォルニア・ロサンゼルス)

出典:Photo by Alex Slitz/Getty Images




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