フランスで急速に進む少子化の衝撃
Ulala(著述家)
「フランスUlalaの視点」
【まとめ】
・INSEEが2023年のフランスの正式な出生数を発表し、前年より6.6%減少した。
・その最大の要因として、出産適齢期の女性の減少や出産年齢の高齢化が挙げられる。
・マクロン大統領が 「人口の再軍備」 を呼び掛けたが、国会解散に伴い保留となっている。
11月14日、フランス国立統計経済研究所(INSEE)から、フランスの2023年の正式な出生数が発表された。それによれば、2023年にフランスで生まれた赤ちゃんの人数は67万7千800人で、2022年より6.6%減少したこととなる。これは、ベビーブーム(1946年〜1973年)が終わってから最も急激な減少であり、一時期出生数が伸びた2010年から20%近くも減少したこととなる。
■フランスの出生数、合計特殊出生率の現状
フランスは2010年をピークに、新型コロナウイルス感染症によってもたらされた外出禁止の影響で多少回復した2021年以外は、毎年出生数が減少してきた。しかし減少してきたとはいえ、2023年ほど減少したことは今までなかったのだ。実際、マヨット島を除くフランスでは、2010年からの年間減少率が2.6%を超えたことはなく、2010年から2022年までの平均年間変化率は-1.3%だった。このことからも、6.6%減少という数字がどれほど衝撃を与えたかを想像できるだろう。
さらに2024年も低迷したスタートとなった。1月から6月の6カ月 間を見ても出生数は32万6千000人強で、これは2023年の同期間と比べて2.4%減少している。
2024年6月の一 カ月間だけをみれば、出生数は2023年と比べて7.9%減少した。フランスのすべての地域で減少している。フランス本土で減少が一番少ないのはオーヴェルニュ=ローヌ=アルプ地域圏で-2.6%。一番減少が多いのはノルマンディー地域圏の-14%。海外県ならびに海外地域圏では、減少が一番少ないのがグアドループで-11.9%。一番減少が多いのはギュイヤンヌの-20.1%となっている。
INSEEによれば、この傾向が続けば、出生数は2024年に年間最低値に達する可能性がある。また、同じくINSEEによれば、この出生率の低下の直接的原因は、出産適齢期の女性の減少によるものだが、それだけではなく合計特殊出生率の低下も原因となっているという。要するに、出産適齢期の女性の人数も少なくなっているが、その女性一人が生む子供の人数も減少しているということだ。
フランスは、第二次世界大戦が終わってから高い合計特殊出生率を維持しており、1965年には2.82まで上がった。だがそれも長くは続かなかった。特に1970年代に女性解放運動が起こり、女性の社会進出がすすみ1975年には女性の就業率が59.3%となるとともに、出生率の方はどんどん下がっていった。その結果、1994年には1.65まで低下したのだ。
ところが、その後、合計特殊出生率は徐々に増え2000年に1.88、2010年には2.03にまで回復した。これが「フランスは政府や自治体が、手厚い経済支援や幅広い子育て支援策をして成功した」と言われる理由である。こういったフランスの政策により、女性一人当たりが生む人数が増加したのだ。しかしながらこれも長続きはしなかった。最終的には2010年がピークとなり、2011年以降、2021年を除いて、合計特殊出生率も毎年減少しているのである。
■なぜ、これほどまでに出生数が減少しているのか
出生数が減少した原因は複数ある。もっとも大きな理由の一つは、出産適齢期の女性の人数が少なくなっているからだ。そして二つ目は出産年齢の高齢化。1974年には平均的な女性は23歳半で第一子を出産したが、現在は29歳になり、合計特殊出生率が減少した原因の一つになった。
出産年齢が上がった理由は、女性の平均学習期間が大幅に伸び、キャリアを考えるようになったためであると指摘されているが、エクス・マルセイユ大学の社会学者で講師のカトリーヌ・スコルネ氏によれば、それ以外にも若い世代が将来を悲観しているからだと説明する。
2023年の出生数は、2022年と比べると、25歳から29歳の母親では-7.4%、30歳から34歳の母親では-8.6%、35歳から39歳の母親では-4.2%、40歳以上の母親では-5%となっている。この数字から見ても、明らかに若い層は子供を産むことをためらっているが、反対に35歳以上で子供を産む人が増えていることがわかる。
フランスは、先ほども述べたように、子育てと仕事の両立を目指し1990年ころから政府や自治体による手厚い経済支援や、幅広い子育て支援策が行われてきた。ベビーブーム世代が生んだ子供の人数は多い。そのため、手厚い政策は2010年前後にそのベビーブームで生まれた子供たちを後押しするのに成功し、それなりに出生数、出生率を回復できた。しかし、手厚い支援が充実し、子育てと仕事を両立できるようになったのにもかかわらず、またもや出生率が減少しはじめているのだ。その理由は、女性の社会進出だけが原因ではないとスコルネ氏は考えている。
「若い世代はおそらく自分たちの将来についてかなり心配しているのです。家族を築くには希望を持たなければなりません。」
高インフレなど不確実な経済状況や、ウクライナや中東の戦争状況、さらには地球温暖化が「将来の不安」を生み出し、子供を持ちたいという欲求を鈍らせている可能性があると彼女はいう。
また、「個人の解放」についても言及する。現在は昔と違って願望も変化してきており、自分がしたいことを優先させるために自由にいることを好む人たちもいる。そのため、子供を減らすか、まったく持たないと選択する人もいるのだ。
「高学歴の女性は、母親業以外でも自分を最大限に発揮し、他の個人的な分野や仕事上の分野に打ち込むこともでき、充実しているのです。」
社会からの束縛もなく、能力も十分ある場合、子供を産むことは単なる選択肢の一つとなる。しかし、それを選択することで未来が明るくなるのであればもちろん選択するが、希望が見えなければ選択する理由が見いだせなくなるのは当然のことだろう。
■社会情勢も直結する出生数と出生率
日本では、フランスは子供が多く生まれる国としてしられており、その背景には政府や自治体による手厚い経済支援や幅広い子育て支援策があると言われてきた。しかし、その説明とは裏腹に、現在フランスでは、2011年から出生数、出生率とともに減少し続けている。出生数、出生率減少が止められなかった理由には、出産適齢期の女性の減少、キャリア形成、家庭内経済、社会情勢、個人の選択、家庭を持つ意味の変化などなど、多様な理由が存在する。こういった状況を打開すべく、いかに子供を産みたくなる社会にしていくかが求められている。
ただ、これだけは言えるのは、人は幸福になることを求めているということだ。まず、選択する場合、自分が幸福を感じるものでなければいけない。例えば、「30歳超えたら子宮摘出」とか、「女性は18歳から大学に行かさない」「25歳を超えて独身の場合は、生涯結婚できない法律にする」など、そんな暴力的な言葉が普通に飛び交う世界では不幸になる未来しか見えない。そんな状況で、誰が子供を産む選択をするだろうか。また、誰かだけが幸せになってもいけない。男女のカップルであれば、女性および男性ともども幸福にならなければいけないのだ。幸福感を得られない状況では、子供を積極的に生んで育てていく選択は難しくなる。また、経済状況に不安がある場合も同様である。その結果、若いカップルの中には子供を産む選択を躊躇する人もでてくる。
なお、このような状況を受けて、フランスはさらなる改革で出生数をあげていこうとエマニュエル・マクロン大統領が 「人口の再軍備」 を呼び掛けて大議論を巻き起こしたが、現在のところ、6月の国会解散によって改革プロジェクトは保留されているとこである。
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出典:freemixer/ Getty Images Plus
参考リンク
https://www.insee.fr/fr/statistiques/8282356#onglet-1