[俵かおり] 【アフリカの技術発展に貢献する韓国】~在エチオピア韓国人スペシャリストとの対話から~
俵かおり(在エチオピアジャーナリスト)
アフリカに暮らしていると道路建設や鉄道建設など大規模なインフラ整備で圧倒的な中国のプレゼンスが目に付く。しかし、この大陸の発展に貢献しているアジア勢は中国だけではない。ここエチオピアでは、韓国が “knowledge transfer”という形で静かに、しかし着実に発展に寄与している。その中心的な一人である韓国人のスペシャリスト、Dr. Yongrak Choiは私と同じアパートの住人。私は2階、彼は妻とともに4階に住んでいて、時々妻手作りの韓国料理の夕食に招いてくれる。刺激のある話を聞きながら、貴重な韓国の手料理を食べることができる、その夕食の時間は、私のエチオピア生活の中でも最も楽しい時間の一つだ。
Dr. Choiは科学技術を通じた発展のスペシャリストで、韓国においてはこの分野では大御所。2年前にエチオピア政府科学技術省から招聘され、シニアアドバイザーとして、科学技術による国の発展の寄与に関して助言する仕事をしている。エチオピアは韓国の科学技術をもとにした発展を国の発展モデルとして、韓国から学ぼうとしている。「エチオピア政府は、(インフラ整備などの)資金は中国から、テクノロジーは韓国から得る、と考えている」とDr. Choiは言う。
しかし、エチオピアにはこれらスペシャリストを招聘するための財源がないため、エチオピア政府はドイツ政府の資金を利用してこれらのスペシャリストを招聘している。逆に言うと、ドイツはこのような形(エチオピア政府に対するcapacity buildingという形)でエチオピアに貢献している。
彼によると、エチオピアのknowledge transferの一例はこうだ。エチオピア政府はこのドイツの資金を使い、韓国から大学教授を呼び寄せてエチオピアの代表的な大学に起用している。例えば有名大学の一つ、アダマ科学技術大学は学長に韓国人を起用、すでに韓国人教授が約10人いる。アディス・アババ大学にも科学技術の学部長は韓国人で、韓国人教授も10人いる。加えて、北部の代表的なメケレ大学にも数人の韓国人がいる。最近も科学技術大臣たちが韓国を訪れ、韓国大手の企業サムソンなどの工場を見学したり、政府高官と意見交換をしたとのこと。これにDr. Choiは同行している。
ここから見えるのは、エチオピアが科学技術という分野において韓国からどん欲に学ぼうとしている姿である。面白いのは、財源はドイツ政府資金であるということ。もちろん、拠出しているドイツとしてはドイツ人を受け入れてくれるのがベスト。だが、政府は以前ドイツ人を受け入れたことがあるのだが、ドイツ流を押し付けるやりがたが気に食わなかったらしい。その半面、韓国は1970年代に急速に発展したが、発展は比較的最近のことであり、だからこそ韓国人は貧しかった記憶をまだ持っていて、エチオピア人の気持ちが分かるのだという。
これに加えて、韓国とエチオピアを感情的に強く結びつけているのが1950年代の朝鮮戦争時のエチオピア軍の派兵である。当時、「国連軍」に派兵したアフリカの国はエチオピアと南ア。南アはアパルトヘイト政策下で白人兵が参加しただけだったし、ほとんどのアフリカ諸国はまだ独立していなかったので、実質エチオピアがアフリカの国で唯一参戦したと言っていい状況だった。このため、韓国はエチオピアに対し、いまだに義理を感じている。実際、Dr. Choiは、最初赴任した際、政府関係者から「エチオピアと韓国は兄弟だから」という言葉をかけられた、という。また、エチオピアで働く韓国人の教授の多くがクリスチャンであり、奉仕の気持ちも強い。
しかし、knowledge transferだけで科学技術が発展する訳ではない。エチオピアの弱点は、「これこれを成し遂げたい」という “wish list” の方針や目標を打ち出すだけで、それが実際にどのぐらい実行可能なのかの考察、コストとベネフィットの試算、実際の implementationなどについて全く考えていない、という。「これこそが、最も難しいところであり、韓国、そして日本が着実に行い、成功してきた理由だ」とDr. Choiは言う。
韓国の静かなる貢献がいつか大きな実を結び、エチオピアが科学技術発展を遂げるのか、今後も見守っていくことにしよう。