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.経済  投稿日:2024/10/11

デジタル庁に提案!自治体情報システム標準化をリスケしよう!【日本経済をターンアラウンドする!】その27


西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)

【まとめ】

・全国の自治体は、20の業務システムを新たに開発し、2026年3月までにクラウドへ移行する壮大なプロジェクトに取り組んでいる。

・多くの自治体でスケジュールが遅れ、コスト削減の目標も達成できず、予算の大幅増加が見込まれている。

・問題解決には予算の増額とプロジェクト期限の延長が必要。デジタル庁は自治体の現状を正確に把握し、現場の負担を軽減すべき。

 

「自治体情報システム標準化」

コスト、7000億円。

みなさん、あまり聞いたことがないかと思うが、日本全国の自治体が今、大変な状況にある。一体何かというと、全国の自治体で20業務(住民基本台帳、印鑑証明、戸籍、個人・法人・固定資産税、介護保険、障がい者福祉、健康管理など)のシステム開発業務が進行中なのだ。

簡単に言うと、各自治体が使用しているこれらのシステムを、新たに1自治体当たりおおよそ20のシステムを開発して、AWSなどのクラウドに令和8年3月までに移行するという壮大なプロジェクトである。

しかし、このプロジェクト、全国の自治体の多くでスケジュールが遅れている。発注をする自治体は職員が天手古舞。システム開発をするメーカーのほうは人手不足。さらに、システム経費は当初の30%のシステムコスト削減目標は達成どころか、逆に数倍になると予測されている。

どうすればいいのか?

国家的なデジタル基盤

住民記録システムなどの自治体のシステムは、個別の改修が多く負担が大きいといった背景からこの事業が始まっている。「経済財政運営と改革の基本方針2020」「成長戦略フォローアップ」などを踏まえて、この政策が推進されてきた。デジタル・ガバメント実行計画(令和2年)では、クラウドサービスの利用環境整備などが明記された。

目的は素晴らしい。そしてガバメントクラウドを利用することでコスト削減、システムの柔軟な構築や拡張が可能になり、様々な運用が可能になるというメリットも素晴らしい。

【出典】総務省「地方自治体におけるガバメントクラウドの活用について」

さらに、「公共サービスメッシュ」という、国民のあらゆる手続きがスマートフォンで60秒で完結する社会を実現するという長期的な目的も素晴らしい。

しかし、プロジェクトの進め方にはあまりに問題が多いのだ。

2つの問題点

写真)アナライズ11代表・日本公共利益研究所主任研究員 蛭本義治さん

筆者撮影)

各省庁が作成した標準仕様書とよばれるシステムの設計書がある。大手メーカーの幹部や地方自治体の熟練職員や学者が参画もして作り上げ、総務省のチェックを受け公表されている。つまり、だいたい多くの自治体のシステムは仕様がある程度統一されたシステムを開発し、それを使うことになったわけだ。

専門家であるアナライズ11代表・日本公共利益研究所主任研究員 蛭本義治さんに聞いてみた。蛭本さんはこう説明する。

「そもそも自治体のシステムの多くは大手三大メーカーの他、地方のメーカーが、過去に自治体業務に携わってきたノウハウを元にシステム開発を行っている。メーカーが開発した自治体システムを地元ベンダーがそれぞれの自治体の事情に合わせ改造を加え、適宜、法改正などの都度システム保守を行っている。特に大手三大メーカーは、建築業でいうところの「ゼネコン」の役割を担い下請けのリソース及びプロジェクト管理・監督を行い多くの社会的責任を負っている。」ということらしい。

そんな時に凄いニュースが飛び込んできた。富士通と富士通Japanは、先般、システム移行を担う約300自治体の作業完了が2025年度末の期限に間に合わないということが日経クロステックの取材で明らかになった(関連記事)。

2024年6月に始まった定額減税などが自治体システムに大きな影響を及ぼしていて、また法改正対応として戸籍のふりがな表記対応といった現行システムを大規模改修する必要が生じた。このことにより、富士通と富士通Japanは標準化の期限まで間にあわなくなったそうだ。

話を戻して、問題は第一に、予算額だ。コスト削減の目標達成は土台無理だとはいえ、今後の国民生活のインフラなのだから、予算はもっとつけてもよいのではないか。ゼネコンのような下請け構造はあるものの、ある意味、一種の公共事業のようなものだ。DX投資を行政が主導する意味でこれまで少なすぎた予算ともいえる。

第ニに、スケジュールだ。富士通グループが遅れることが確定した今、期限を先延ばしすべきだろう。システムをAWSやグーグル、オラクル、さくらインターネットのクラウドに置くことだけでさえ、クラウドが複数の場合、メーカーが何社もシステム構築をしている場合、調整がとても複雑だ。

前述の蛭本さんはこう言う。

「メインフレーム(大型コンピューター)以来、システムをつぎはぎして、だましだまし使っていた。複数の自治体がプライベートクラウドにおくという「自治体クラウド」からのバラバラの状態を一気に移行する大改革の割には支援が不十分であり、拙速である」と。

そもそも「システム移行」という業務はとても大変である。筆者はある企業の1つの情報システムの移行をするにあたって、本当に大変だった。さらに今回は「標準仕様書」が幾度もの改版を続けられてきたことも、開発の遅れにつながっている。一度に一気にシステム開発・調整・テストやるので各ベンダーは人手不足で開発が遅れてしまっている。地方自治体では各システム(1自治体あたり15~20システム)の導入・移行が一気に集中する負担をデジタル庁は理解しているのか。期限まであまりに時間がなさすぎて、自治体職員の疲弊は相当のものである。

平新大臣に望む

一部では「デスマーチ(死の行進)」とまで言われている「自治体情報システムの標準化」。

この問題を解決するには、予算増と期限延期が必要だ。平大臣には、まずはデジタル庁の部下に早急に指示を出して欲しい。デジタル庁職員は、自治体現場を丁寧に聞いたうえで、事情を踏まえて、理想と現実のギャップを明確にすることに注力し、徹底的な現状把握をすべきだろう。総選挙後になると思うが、平大臣には、大胆な意思決定をしてもらいたい。

トップ写真:インタラクティブな透明で光るパネルとデータに囲まれた人々のデジタル生成イメージ。(2024年10月11日)

出典:Photo by Andriy Onufriyenko/Getty Images

 

 




この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者

経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家


NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。


慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。


専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。

西村健

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