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.国際,.経済,ビジネス  投稿日:2015/10/1

“倒産”の可能性はほぼゼロ VWディーゼル車排ガス規制不正問題4


遠藤功治(アドバンストリサーチジャパン マネージングディレクター)

「遠藤功治のオートモーティブ・フォーカス」

執筆記事プロフィール

その4、結局、VWはどうなるのか

VWの今後について、様々な憶測が出ています。最も悲観的な意見は倒産もありうる、というものです。筆者はその可能性は“ほぼゼロ”に近いと思います。それどころか、実はドイツのみならず、EU全体で、VWを非難しながらも、全面的にサポートすると思います。VWは今のところ、リコール対策として約8,700億円の引当金を計上、米国当局から制裁として2兆円強の罰金を受ける可能性もあります。

VWの前期純利益は1.4兆円程度ですから、これらのコストを計上すれば、今期は当然のことながら赤字に転落します。それでもVWは5兆円程度の現金を保有しており、すぐに経営が傾くということにはなりません。勿論、今後のコスト・損害賠償などはどこまで上昇するのか全くの藪の中です。

VWが今までに販売した車を、顧客が買い戻せと要求する、中古車価格の下落を保証しろと要求する、特に米国では多大なる損害賠償請求を要求する集団訴訟が数多く発生する、米国だけでなく、欧州やアジア諸国でも同様の動きが見られる、云々。

かたや、信用の失墜は激しく、欧州・米国・中国、日本も含め、VWの主な市場でシェアが低下、売上は大幅に落ち込む。収入が減ると同時にコストが上がる、赤字が数年に渡り続く、格付けが引き下がり、キャッシュフローがマイナスに転じ、大幅なリストラをせざるを得なくなる可能性もあります。その可能性の話だけなら、VWは米国市場から全面撤退せざるを得ないかもしれません。また、不採算部門であるBugattiや二輪車部門であるDucati,また車種の削減、商用車部門のリストラ、他社との提携などもあるかもしれません。

こうなれば、本当に倒産という言葉も脳裏をかすめます。ただ、もしそうなればドイツ経済、欧州経済はどうなるのでしょうか。VWはドイツの会社ですが、工場は世界中に約100ヶ所、ドイツだけにある訳ではありません。雇用数は世界で約60万人、日本的な系列部品会社はありませんが、VWに部品を納めている会社は欧州を中心に数万社。自動車部品・機械・鉄鋼・非鉄・電機・化学など、裾野が大変広い自動車という業種の最大メーカ―、納入業者を含めれば、仮に倒産などすればその影響は絶大です。

難民が大挙してドイツを目指し、欧州に流入し続ける現状で、VWが倒産し、他の多くの会社も連鎖倒産し、何10万人の雇用が失われ、政府への税金収入が消える、などという状況は、現実的ではないし、どんなことがあっても、ドイツ政府、EU全体が阻止しようとするのは当たり前です。また、これは欧州に限ったことではありません。先日までギリシャ一国の問題でさえ、欧州経済や世界経済に影響を与えていたのに、ドイツがギリシャのような状況に陥るなど、考えただけでも恐ろしいことです。

ドイツも含め、欧州各国の労働組合は強く、政治にも多大な影響力があります。VWの大株主は、ポルシェ家であり、ピエヒ家であり、また地元の二―ダ―ザクセン州であり、ドイツ政府もドイツ銀行も株主です。元はと言えば、ヒットラーが作った国策会社がそのオリジンです。民族色が強く、ダイムラーやBMWと並んで、ドイツそのもの、という会社です。過去には、ダイムラーと三菱自動車の提携、VWとスズキの提携、VWとトヨタの販売提携(DUO店)、VWと日産のOEM生産提携(サンタナ)など、いろいろと提携・協力した案件もあったのですが、ことごとく失敗、ないしは当初の期待値まで行かなかったというのが実際です。

ドイツ企業と一緒に商売をする難しさなのかもしれませんが、一因はドイツ側の非常に高いプライドです。自動車とは、ドイツ人のダイムラーさんとベンツさんが発明したもの、それをアメリカ人のフォードさんが大量生産の技術導入で一般の人でも買えるようにした、これをまた日本人のトヨタさんや日産さんが、品質面・環境面・コスト面で洗練させて現在に至る、ドイツ人の自動車に対する典型的な考え方です。今回のVW不正問題は、そんなドイツの自動車の雄VWが、台数世界一というクラウンをつけ、名実ともに世界の頂点に立つ、GMでもない、トヨタでもない、ドイツのVWが世界一になる、そのためには台数を追うのだ、という点が最優先順位になったことで、意図的に不正を働かざるを得なかった、そんな背景の事件だったと思います。

トヨタが米国で大量リコールをした時も、販売台数の急拡大が一因、ホンダがフィットでリコールを連発、社長が辞任したのも、台数拡大に急ぎ過ぎたことが一因、背景は似ているのかもしれませんが、決定的に違うのは、VWの場合、意図的な不正であった、ということでしょうか。

(了。本シリーズ全4回、【VWショック、発端は米国】~VWディーゼル車排ガス規制不正問題 1~,【米の厳しいNOx規制が引き金】~VWディーゼル車排ガス規制不正問題 2~【日本車メーカーへの影響は軽微】~VWディーゼル車排ガス規制不正問題 3~も併せてお読みください。)

タグ遠藤功治

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