[朴斗鎮]【金正恩「人民第一主義」演説の裏側】~国民に配った奨励金は米1キロ分~
朴斗鎮(コリア国際研究所所長)
金第1書記が人民生活に結びついた「具体的業績」を強調するのではなく、抽象的な「人民」という言葉を並べたてたのはなぜなのか?それは、4年前の「人民の胃袋を満たす」とした公約が実現できていないためだ。心地よい言葉でおだてなだめすかしながら、人民の不満を抑え込もうとしているのである。
金第1書記は「人民愛」を見せるための苦肉の策として、大学生や退職者、無職の人も含め、高校生以下を除く全住民に1カ月分の生活費に当たる特別激励金を支給するとしたが、これも物資不足を糊塗するものであった。紙幣を増刷し、多くて6000北朝鮮ウオン程度の現金を支給するものであるが、これで買える米は1kgほどにすぎない。金日成時代はもちろん金正日時代ですら節目の記念日ではこのような貧弱な贈り物はしなかった。
金第1書記は今年の新年辞で「祖国解放と党創建70周年を革命的大慶事として輝かせなければならない」と演説した。だが、この1年で内外の人々の注目を集めたのは不満を吐露した幹部に対する無慈悲な粛清だった。金第1書記は、相変わらず核とミサイルに資金をつぎ込み、自己の権威を誇示する非生産的浪費をつづけることで北朝鮮経済の再生にブレーキをかけている。
しかしこのままではまずいと思ったのか、象徴的成果を作るために、急きょ「白頭山英雄青年発電所」の完成をせきたてた。この発電所は、岩盤が「貯水」に適さないために2002年から放置されていた代物(しろもの)だ。また、正常に稼働したとしても容量はたかだか6万kWにすぎない。その電力も大部分は軍需関係にふり向けられ人民生活に恩恵は及ばない。施設も老朽化し、冬の渇水期にはほとんど発電できないのだ。このような欠陥発電所を「白頭山大国の象徴」などと囃したて10月3日に大々的に竣工式を行った。
一方農村では今年も干ばつが続いた。人民を半ば強制的に動員したものの、穀物生産は昨年に比べ米で20万トン、トウモロコシで40万トンも減少した(国連食糧農業機構発表)という。
外貨不足も深刻だ。それは今回の招待客に費用負担させたことにも表れた。各国要人を7泊8日の日程で招待しておきながら、その一方で1人あたり1日70ユーロ(約9400円)の参加費支払いを求めたのである。つまり8日間平壌に滞在する場合、1人560ユーロ(約7万5000円)を負担しなければならないわけだ(朝鮮日報2015/10/03 09:28)。これが「人民」を90回も並べたてた「人民第一主義」演説の裏側である。