[宮家邦彦]【これからの日韓関係に希望?】~特集「2016年を占う!」国際情勢~
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
「宮家邦彦の外交・安保カレンダー(2015年12月28-2016年1月3日)」
今週のテーマは「2016年を占う」なので、今回は来週だけではなく、今後12か月間に世界で注目すべき点を書いていきたい。さて何から書こうか、と考え始めた矢先に大ニュースが飛び込んできた。28日にソウルで日韓外相会談が開かれ「慰安婦」問題の解決が確認されたという。この決着について筆者は外国通信社の取材に対し、
“Both sides did all they can for a “strategic ambiguity” without compromising on their basic positions.” (日韓双方は基本的立場で妥協することなく、「戦略的曖昧さ」を作るために出来ることを全て行った)、
と答えた。
外交的には美しい決着だと思うが、キーワードは「削除された形容詞」と「ゴールポストの固定」だ。
岸田文雄外相は、「慰安婦問題は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり、かかる観点から、日本政府は責任を痛感している」と述べた。河野談話では「軍が直接あるいは間接にこれに関与」とされ、2001年の小泉総理の手紙では「道義的責任を痛感」となっていた。要するに、直接、間接、道義的といった形容詞が今回全て消えているのだ。
更に、今回の妥結では問題の「最終的かつ不可逆的な解決」が確認されたという。韓国側は(少なくとも朴槿恵政権の間)ゴールポストを動かさない、即ち、この問題を二度と持ち出さない、ことを確認したことになる。でも、これで本当に大丈夫なのかなぁ・・・。
細かく突っ込みたい衝動はあるが、日韓が合意したというのだから、それで良いではないか。双方が国内的説明を妥協することなく、問題解決に向けギリギリの文言を選んだ結果がこの「戦略的曖昧さ」だ。この決着が長続きすればするほど、2016年以降の日韓関係には希望が持てる。
〇東アジア・大洋州
朝鮮半島以外で気になるのは中国だ。習近平体制は4年目に入る。外交面では2014年後半あたりから「強面」を止め「微笑」外交に切り替えたようだが、これまでの負の遺産を払拭できるのか。国内政治では反腐敗運動の結果生まれた政敵の「怨念」が顕在化するか否かも見物である。
〇欧州・ロシア
国際政治の最前線にロシアが再び「悪役」として帰って来た。プーチンがいる限り、この傾向は続くだろう。2016年、ロシアはシリア問題を本気で解決しようとするだろうか。アサドの去就を掻き回しながら、ウクライナ等欧州方面で米国の政治的譲歩を勝ち取ろうとするように見えるのだが。
〇中東・アフリカ
この地域の混乱は続く。状況が改善する兆候は殆ど見られない。イラクはラマーディを制圧したが、イスラム国兵士は既にいなかった。これでは単なるもぐら叩きだ。米国の対中東外交が改善するのは早くても2017年1月以降。当分安定はなく、その間にロシアが漁夫の利を得るだろう。
〇インド亜大陸
インド外交は、2012年の有名な報告書「非同盟2.0」にある通り、伝統的な「非同盟」的立ち位置に回帰しつつある。インドがこの非同盟的要素と対米協力のバランスを如何にとるかは微妙だ。対中国牽制の面で我々はどの程度インドを頼りにできるのだろうか。冷静な分析が必要だろう。
〇アメリカ両大陸
トランプ候補は「米国の非エリート層の本音をタブーなく代弁できる大富豪のお騒がせ芸人」に過ぎないが、米国市民の1、2割は彼を支持し続けるだろう。このままでは共和党は割れる。つまりトランプの浮沈次第で共和党の将来が、すなわちヒラリー・クリントンの将来が決まるということだ。
今週はこのくらいにしておこう。2016年も宜しくお願い申し上げる。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
(写真引用:By Sakaori 「ソウルの日本大使館を見つめる慰安婦のブロンズ像」 [GFDL or CC BY-SA 3.0], via Wikimedia Commons)