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IT/メディア  投稿日:2016/1/1

[安倍宏行]【ウェブ・メディアと既存メディアの競争激化】~特集「2016年を占う!」メディア~


安倍宏行(Japan In-depth 編集長・ジャーナリスト)

「編集長の眼」

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まとめると

1 キュレーション・アプリ間の競争激化

2 バイラル・メディアと既存メディアの競争激化

3 SVOD快進撃、フジは苦戦

昨年の1月4日、筆者は【2015年はウェブ・メディア淘汰の時代】~質への転換が求められる~、という記事を書いた。その中で、①キュレーション・アプリの中でも淘汰が進み、より質の高い記事、オリジナルコンテンツの重要性が高まっていき、 ②コンテンツの“オリジナル度と質の高さ”を前面に出したメディアの新規参入が増えてくる。更に ③既存メディアはますます混迷の度を深めていく、として、活字メディア、まず新聞の購読者数は減少の一途をたどり、視聴者の地上波ニュース離れはさらに加速する、と予測した。

まず①のキュレーション・アプリだが、数々のアプリが生まれては消え、結局現時点で存在感を示しているのは、Gunosy, SmartNews, NewPicks, Antenna, LINE NEWSなど数えるほどだ。新聞記事はこれらのアプリで読む人が随分と増えた。去年はこれらのアプリが激しくしのぎを削っており、未だ決着はついていない。

中でもNewsPicksが去年3月に始めた「プロピッカー」制度は興味深い取り組みだ。同10月にはこの公式コメンテーターを100人超に増やし、コメント欄の質の向上に取り組んでおり、筆者もその一人だ。ネットのコメント欄は炎上したり、非難の応酬になったりするのが常だが、専門性の高い公式コメンテーター達の様々な視点を比較検討出来るという点で読者の満足感は大きいだろう。他のメディアに何らかの影響を与えるだろう。いずれにしても、キュレーション・アプリは、2016年も激しいつばぜり合いを繰り広げるだろう。

②のウェブメディアの新規参入だが、オモシロ動画だけ配信していた国産バイラル・メディアは、去年ほとんど淘汰され、「ハフィントンポスト日本版」が気を吐いている。そこにこの冬殴り込みをかけるのが「BuzzFeed Japan」だ。どちらもアメリカ発のメディアだというのが気になる。日本の新聞もウェブ戦略を加速させるべきだが、どうも今一つ方向性がはっきりしない。朝日新聞はデジタルジャーナリズムに一番熱心だったが、デジタル編集部のエース記者古田大輔氏が、BuzzNews Japanに引き抜かれてしまった。既存メディアからの転職ということで話題にもなったが、今後既存メディアとウェブメディア間の人材交流は徐々に増えていこう。“オリジナル度と質の高さ”に力を入れているのがウェブメディア側だというのは皮肉な話だ。迎え撃つ既存メディアの奮起が期待されるが、期待薄だろう。

というわけで、去年③で予測したように、既存メディアは混迷の度をさらに深めていくことになる。国内出版物の販売が11年連続で減少を続け、特に雑誌の販売の落ち込みが激しい。出版社の中でもウェブメディアに力を入れているところはある。講談社の「現代ビジネス」や、小学館の「NEWSポストセブン」などは元気だ。軸足をジャーナリズムに置いているのか、エンタメなのか、温度差はあるが、紙が売れない中、ウェブ戦略をさらに加速させ、より質の高い記事や、動画などを掲載して独自色を出し、新興ウェブメディアに対抗していく。

地上波テレビ全体としては景気回復を受け業績はそう悪くない。しかし、開局以来初の赤字転落となったフジテレビの苦境は今年も続くだろう。地上波キー局として初めて去年4月、鳴り物入りでスタートさせたネットニュース専門局「ホウドウキョク」には大いに注目したが、残念ながら鳴かず飛ばずの状態が続いている。

その理由はいくつかあるが、コンテンツの方向性が明確でないことと、地上波ニュースと連動していないことを上げておこう。ニュース専門局というほどニュースを掘り下げるわけでもなければ、エンタメ専門でもない。どっちつかずなのである。また、地上波テレビのリアルタイム視聴に誘導しているわけでもないので知名度が一向に上がらないのだ。元気がないフジテレビにあって、唯一チャレンジングな試みなのだが、いまのままだと経費がだだ漏れになるだけだろう。

そんなテレビをしり目に、今年もSVOD(Subscription Video On Demand:定額制動画配信サービス)は快進撃を続けるだろう。日テレ系のhuluと去年9月に新規参入したNetflixとamazonのプライムビデオに国産のdTVらを含め、動画をスマホで見る視聴スタイルが当たり前になるだろう。

特に海外のSVODは巨額の資金力をバックに、大量のオリジナルドラマやドキュメンタリーを制作している。これらの番組は非常にクオリティが高く、一度見始めると止まらない。いわゆるBinge Watching(シリーズ物を一気に視聴すること)だ。スマホとWi-Fiの普及がそれに拍車をかける。

迎え撃つ在京民放 5 社は、遅まきながら去年10月、初の公式テレビポータル「Tver」をスタートさせた。見逃し番組配信が売りだが、すべての番組が視聴できるわけでもないし、各局自前のオンデマンドに誘導するのが目的だろうから、どうしても“力が入ってない感”満載なのだ。それだったら、自局のオンデマンドを充実させたらいいのでは、と思ってしまう。フジテレビによるとFOD(フジテレビオンデマンド)は有料会員80万人(15年10月現在)、月間利用者数200万人(無料会員含む)、黒字化も達成したというのだから基本、方向はそっちなのだろうが、いずれにせよ、今は「可処分時間取り合い」の時代だ。地上波はよほど魅力あるコンテンツを作らないと厳しいのは自明の理だ。

2016年はウェブメディアがますます存在感を増してくる。一方で、既存メディアは一層混迷の度合いを深めていくだろう。ウェブ戦略を加速させないと、広告費はインターネットに奪われるばかりだ。まさに“背水の陣”であることを自覚せねばならない。 


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