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.政治,.経済  投稿日:2016/1/6

[林信吾]【TOKYO2020に重大な疑問:オリンピック6個目の輪 その1】~経済・財政から見る五輪~


林信吾(作家・ジャーナリスト)

「林信吾の西方見聞録」

執筆記事プロフィールblog

 

読者の皆様、新年明けましておめでとうございます。

今年も色々と大きな動きがありそうだが、夏にはブラジルのリオデジャネイロで夏季オリンピック・パラリンピックが開催される。2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向け、いやが上にも注目度が高まってきている。

ところで、本シリーズのタイトルだが、オリンピック(パラリンピックについては、稿を改めて述べる)の象徴が、五大陸を表す五色の輪であることは、まず知らない人はいないであろう。本稿でも以下、煩雑を避けるべく「東京五輪」「ロンドン五輪」といった表記を用いたい。

ただ、第二次世界大戦後の五輪を様々な角度から見て行くと、経済的な問題をはじめ、五大陸のスポーツ選手が最高の技を競い合う、といった美しい理念だけでは語り尽くせない問題が浮かび上がってくる。つまり「見えない6個目の輪」があるのではないか、という問題提起が、本シリーズのテーマである。最初に指摘するのは、納税者にもっとも密接な経済・財政問題だ。

2020年東京五輪開催が決まったのは、2013年9月7日(現地時間)、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスで開かれていた、IOC(国際オリンピック委員会)総会でのことであった。

東日本大震災で深い傷を負った日本にとって、久々に明るいニュースだと、まさに国中が沸き返った……と言いたいところなのだが。たしかに同年暮れの世論調査によれば、83%の人がこの決定を「よかった」と考えていた。2013年を象徴する漢字には「輪」が選ばれたほどである。

しかしながら、数字の内訳を見て行くと、近畿地方では「よかった」と回答した人が実に97%に達していたのに対し、北海道・東北では71%にとどまった。

さらに、開催決定が「よかった」と考える理由について、複数回答ではあるのだが、

「東日本大震災の復興に弾みがつく」

を選択した人が、全国平均62%に対し、最大の被災地であった東北地方では、47%と半数以下にとどまったという。

2013年の暮れと言えば、年が明ければ震災(2011年3月11日)から3年になろうかという時期である。政府の復興に対する本気度が、被災地では早くも信用されなくなってきていた、ということではないのか。

そう言えば、経産相キャリアの官僚が、ネット上で「復興は不要」などという発言を繰り返していたことが露見し、炎上したのもこの頃の話であった。

それからさらに2年余りが経ったわけだが、この間、開催準備はお世辞にも順調とは言い難い。日本人は、こうした大きなイベントを企画・実施させたならば、世界に類例を見ないほどの計画性と緻密さを発揮するのではなかったのか。

未だ記憶に新しい、新国立競技場の建設案が高すぎるとされ、白紙撤回から新たなデザインに決まるまでの迷走ぶり、そしてロゴマークの盗作問題。なにより、当初6000億円ほどと見積もられていた開催費用が、最新の試算によれば1兆8000億円ほどと、実に6倍にふくれあがった。これはもともと、当初の見積もりが過小であったと見る向きが多い。

現代の五輪とは、204の国と地域から1万1000人を超す選手が参加し、28会場で計302種目を競う、という規模のイベントである(2008年北京五輪の実績)。どうしてこれが「6000億円で開催可能」という見積もりになったのか、東京都とJOC、そして政府には、説明責任を果たして貰わねばなるまい。

東京都が誘致に向けて動き出した当初、時の石原慎太郎知事は、

「オリンピックをやれば2兆円儲かるんだよ」

とTVカメラの前で公言した。彼は今や政界を引退しているが、今からでも「2兆円」の根拠についての説明は聞きたいものだ。辞めたから知らん、では済まされまい。

それよりなにより、すでに開催まで5年を切り、今さらキャンセルなど考えられない、というタイミングで、どうして新たな試算が明るみに出たのか。私としては、いや、多くの国民がもっとも知りたがっているのは、そのことではないだろうか。

(続く)

タグ林信吾

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