3日以内に大震災が来るとしたら?
Japan In-depth 編集部(Emi)
災害を正確に予測することは極めて難しく、多くの場合、突然人々の日常を襲う。それでも災害を想定して備えることで、少しでも被害を小さくすることが出来る。それが「減災」という考え方だ。
東日本大震災から5年が過ぎた3月13日、宮城県仙台市で開かれた「Post-Disaster Innovation Forum(震災後の減災・防災を考えるフォーラム)」には、高校生を中心におよそ80人が参加した。若い世代の発想と知恵で、災害に備える社会を築いていくことを目指すこの会議は、東日本大震災から3年目の2014年にスタートし、ことしで3回目。神奈川県の高校生・仁禮彩香さんが立ち上げた一般社団法人「減災産業振興会」の主催で、企画や運営も高校生や大学生が中心だ。
冒頭の「3日以内に大地震が起こるとしたら・・」というのも高校生たちが考えたワークショップのテーマだ。ワークショップには、関東や東北の高校生と大学生が参加。被災地とそれ以外の地域の高校生が、知恵を出し合い、共に考えるというのがコンセプトだ。
東京や神奈川の高校生たちからは、「食料を備蓄しておく。」「家具を固定しておく。」「避難経路を確保しておく。」となどといった声が次々と上がった。そんな声の中で、実際に被災した経験を持つ宮城や福島の高校生たちの発言は、やはり圧倒的だった。
「食料と言っても、本当に必要なものは何か?」
「津波が来る可能性があるなら、2階にすべての荷物を上げておいた方がいい。」
5年前の記憶を辿り、次々に震災に備える具体的なアイデアを出した。
自宅が津波の被害にあったという福島の高校生は「3日以内に震災が起こるとしたら、小さい頃の写真を持っていた方が良い。」と強調した。自宅にあった写真は全て流され、今残ったのは、たまたま父親が持っていたものと親戚の家にあったもの、合わせてたった2枚だけだ。
宮城の高校生は、「震災が近いなら、このロングの髪の毛をショートにする。」と言った。被災した際、長期間入浴や洗髪が出来なかった経験から感じたことだという。
あの時は、大きな揺れの後どう行動すべきか、大人も迷った。迷っているうちに津波が迫り、間一髪でなんとか逃れた人も多かった。
「周りの大人を引っ張る力も必要かもしれない。」小学生の時に大震災を経験した世代から、こんな声も上がった。
会議では、去年から、防災や減災に関する優れた製品やシステム・プロジェクトに取り組む個人や団体に『グッド減災賞』を贈っている。
今年の優秀賞には、被災地の経験を活かした防災教育プログラムや、東京で被災時の状況を体験する訓練プログラム、津波の被災地でガレキを使って作った子どもたちの遊び場などが選ばれた。
その中で、最優秀賞に選ばれたのが、インターネットを通じて避難所のニーズに合った、本当に必要なものを届けるシステムを提供する一般社団法人「スマートサバイバープロジェクト」だ。代表の西條剛央さん(早稲田大学大学院(MBA)客員准教授)は、おととしの広島の豪雨災害の際に、東北の避難所で起きていた問題が繰り返されていたことをあげ、「震災の教訓が十分に活かされていない」とシステムの必要性を強調した。
会議の終わりには、子どもたちが自ら取り組む「減災の教科書」作りについて、湘南インターナショナルスクールの6年生、田中秀翔くんからビデオレターで報告があった。これは、去年の会議で田中くんが提言したもので、幼い子どもたちにも分かりやすいように、イラストを多く使用するなど工夫を凝らした教科書作りについて紹介した。田中くんは、「減災の教科書は、与えられるものではない。自分たちで考えて作るものだ」と話した。
この会議の中心となる神奈川県の高校生、仁禮彩香さんと斎藤瑠夏さんは、共に卒業式を終え、春には大学生となる。東日本大震災が発生した5年前、彼女たちは中学1年生。それからずっと、災害に備える為に何が出来るのか、自分たちで考え、行動を続けて来た。今回、被災地の高校生たちと共に考えるワークショップを企画したのも、震災を経験した同世代からのメッセージを受け止め、一緒にディスカッションしたいと感じたからだ。
「学校で防災教育のビデオを見るだけでは、何も残らない。自分たちで考えることが大切。」と言う2人。今後は、小学生や中学生たちが災害への備えについて考える際のサポートなども含め、『減災』への取り組みを広げていきたいという。
若い世代にとっての『震災から5年』は、忘れてはいけない記憶を未来へ繋げる通過点だ。
トップ写真: Post Disaster Innovation Forum 受賞した面々と参加者 (c)Japan In-depth編集部
文中写真:
1)ディスカッションする参加者たち
2)右)一般社団法人 減災産業振興会理事長仁禮綾香さん、左)副理事長齋藤瑠夏さん
(c)Japan In-depth編集部