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.国際  投稿日:2017/1/22

トランプ氏、イスラムテロ根絶宣言


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

アメリカのドナルド・トランプ新大統領の登場が全世界にものすごい波紋を広げ始めた。日本でも衝撃、困惑、懸念、批判などなど、歓迎ではなく混乱の反応が主要メディアを中心にどっとあふれた。その理由の一つは肝心のトランプ大統領の政策にはまだわからない部分が多いことだろう。

だがスタート地点でのトランプ氏の言明できわめて明確なのは「イスラム・テロリズムの根絶」の方針だった。しかも国際テロに対して「イスラム」という言葉をはっきり使ったことがオバマ前政権とは対照的だった。さらにそのために他の諸国との「同盟」を強め、広げるとも宣言した。国際的に孤立ではなく連帯の姿勢の言明だった。この点はトランプ政策の読み方では欠かせない枢要部分だともいえよう。

トランプ大統領は1月20日の就任演説でテロ対策として以下のように語った。

「私たちは過激なイスラムのテロリズムに対して古い同盟を強化し、新しい同盟を結成して文明社会を団結させて、その過激イスラム・テロリズムを全世界から完全に根絶する」

この言明で最も顕著なのは「イスラム」という言葉を正面に打ち出した点だった。

一方、オバマ大統領はイスラム過激派のテロと戦いながらも、「イスラム」という言葉を使うことを徹底して避けてきた。その相手が「イスラム国」と自称するイスラム原理主義テロ組織であっても、「イスラム」とは呼ばなかったわけだ。

オバマ大統領はその理由を「アメリカだけでなく全世界に存在する数十億もの平和なイスラム教徒と一部の殺人者たちを混同させてしまう」と説明していた。トランプ氏が勝利を飾った大統領選挙戦では民主党のヒラリー・クリントン候補も「イスラム」という言葉を使わずにテロ問題を論じていた。「この言葉を使えば、アメリカがイスラム教全体と戦っているように状況を描こうとする好戦主義者たちの手中の落ちてしまう」と解説していた。

しかしアメリカ国内では一般には「イスラムの教えがなんらかの形で影響していることが明白なテロ行為に対してイスラムという要素にあえて触れないことは現実をみないことになる」という批判も広まった。トランプ氏はオバマ、クリントン両氏がイスラムへの言及を避けることは偽善だとか偏向だと非難した。そのためか、選挙戦の終盤ではクリントン候補はイスラムという用語をテロ対策に関連しても使うようになった。

トランプ大統領はこうした経緯を踏まえて、選挙戦の主要公約でもある「イスラム・テロリズムとの闘争と撲滅」を新政権の実際の政策として実行に移すことを誓約したわけだ。しかもその方法としてアメリカにとっての従来の同盟の相手国だけでなく、新たな連携を結ぶ相手国の協力をも求めることを宣言した。この点はアメリカ第一を強調するトランプ政権もテロ根絶に関しては国際的な協力を不可欠とする姿勢を明らかにしたのだといえる。


この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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