無料会員募集中
.国際  投稿日:2017/1/17

メディアと対立トランプ政権最悪の船出


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

「宮家邦彦の外交・安保カレンダー#02(2017年1月16-22日)」

今週のハイライトは何といっても1月20日の米大統領就任式だ。トランプ氏はそこで一体何を語るのか。過去10回の大統領選挙を見てきた筆者も、今回ほど後味の悪い結果はちょっと思いつかない。こんな不思議な気持ちは2000年の大統領選挙以来ではなかろうか。皆様には申し訳ないが、今回は昔話から始めたい。

2000年の選挙は史上最も接戦となった大統領選の1つだった。当時も一般投票で敗北し、選挙人投票で勝利した候補が大統領となった。こんな結果となったのはB・ハリソン大統領が当選した1888年の選挙以来。2000年の際はフロリダ州の結果判明が遅れ、法廷闘争にまでもつれ込んで大混乱となったので、覚えている方も多いだろう。

個人的には、友人がアル・ゴア候補の側近だったので、すごく損した気分だった。ゴアが勝っていれば、友人は間違いなくNSC担当大統領補佐官になっていたからだ。ついでに言えば、ゴアが勝っていれば、あのような形でアフガン戦争やイラク戦争が起きることは絶対なかったと断言できる。勿論、歴史に「IF」を言っても仕方ないが。

今年はどうだろう。まず言えることは通常ならある「ハネムーン」期間がないことだ。特に、新政権とメディアの関係は酷い。結婚する前から別居が始まったようなもの。米国の新政権発足には、大なり小なり、混乱がつきものなのだが、このトランプ政権だからこそ、無駄な動きをせず、適切な政策立案・実行に努めて欲しいものだ。

 

〇欧州・ロシア

先週末14日、米軍部隊4000人がポーランドで駐留を開始した。歓迎式典でポーランド首相は米軍を「世界一の軍隊」と讃え、「素晴らしい日」だと述べたそうだ。日本の一部には「米軍出ていけ」などという声もあるが、同国首相のこの発言は本音だろう。一方、17日からダボス会議が開かれる。およそ同じ欧州とは思えないのだが。

〇東アジア・大洋州

先週から日本の首相がフィリピン、豪、インドネシア、ベトナムを訪問している。いずれも日本にとっては重要な国ばかり。体力的にも、精神的にもタフでなければできない仕事だが。これほど外交に精を出す日本の首相がこれまでいただろうか。 お世辞抜きでHats Off(脱帽)である。

〇中東・アフリカ

18日に国連がいわゆる「イラク核合意」とイランの経済制裁違反事例に関する報告書を発表する。トランプ大統領はこの核合意に反対しているが、閣僚レベルでも意見の相違があるので、議論の行方が気になる。個人的には筆者も合意には反対だったが、今更合意自体を破棄すれば、状況は更に悪化するだけだと思う。

〇南北アメリカ

先週BuzzFeed.comという無責任なサイトが公表(注1)した、トランプ陣営とロシア情報機関との関係に関する35頁の極秘調査報告の内容には非常に驚いた。

中身は未確認だから詳しい論評はしない。ご関心があれば、原文を読んでみて欲しいが、トランプ陣営はメディアや議会からの照会に対し誠意をもって対応すべきだ。今のようなメディアに対する喧嘩腰の対応では疑惑は解消しないだろう。

問題はトランプ氏の醜聞の真偽ではなく、米国の民主的選挙が外国の情報機関の介入を許すことによって、その正統性自体が傷付くか否かである。そうでなくとも、欧州諸国の内政に対しロシアが干渉しているのではといった噂は絶えない。トランプ氏が本問題の重要性を過小評価すれば、政権運営は増々難しくなるだろう。

〇インド亜大陸

特記事項なし。

 

今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

(注1)https://www.documentcloud.org/documents/3259984-Trump-Intelligence-Allegations.html

 


この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."