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.政治  投稿日:2024/4/30

女帝「小池百合子」の命運は?


安積明子(政治ジャーナリスト)

「安積明子の永田町通信」

【まとめ】

・小池知事の悲願は、「日本初(ファースト)の女性首相」。

・小池知事は国政転出のチャンスを失い、自分の身代わりをも当選させられなかった。

・小池知事の力の源泉は「選挙に強い」ことだが,それが崩れようとしている。

 

 いよいよ“女帝”も終わりなのか――。4月28日に投開票された衆院東京15区補選の結果は、その予感すらさせるものだった。小池知事が擁立した乙武洋匡氏は、同選挙区に出馬した9人の中でも知名度は抜群。しかも2022年の参院選で東京選挙区に出馬した経験もある。小池知事のほかに国民民主党の玉木雄一郎代表も応援した。にもかかわらず乙武氏の得票数は19655票で、9人中5位。6位の吉川里奈氏は法定得票数を下回っていた。

 衆院東京15区は、秋元司氏、柿沢未途氏と2人続けて自民党の現職の国会議員が逮捕された。自民党は独自候補擁立を諦め、その代わりに浮上したのが小池知事の名前だった。

 なんでも「自分ファースト」の小池知事の悲願は、「日本初(ファースト)の女性首相」。実際に自分を紹介する時には、「女性初の東京都知事」と述べる。そのためには国政に転出しなければならないが、「政治とカネ」問題で自民党が弱体化している今がチャンスだ。昨年12月の江東区長選では自民党東京都連とタッグを組み、今年1月の八王子市長選の最終盤には自公が推薦した初宿和夫市長の応援に入り、萩生田光一自民党都連会長会長に恩を売った。

 だからこそ自民党不在の15区にさっそうと登場し、圧倒的な人気で当選。そして不人気にあえぐ岸田自民党の救世主として、8年前に離党した自民党に迎えられる――。おそらくはそんな夢を描いていたのだろう。

 しかしまさにそれを掴もうとした時、「経歴詐称疑惑」が再燃した。4月10日発売の文藝春秋5月号で、かつての側近の小島敏郎氏とカイロ時代のルームメイトの北原百代氏が手記を発表。小池知事がカイロ大学を卒業していない事実を暴露した。

 「政治とカネ」問題の責任をとり、二階俊博元自民党幹事長が次期衆院選での不出馬を宣言したことも痛かった。二階氏は小池氏とは新進党時代からの盟友で、かつては「二階派の後継は小池知事」と噂されたこともあったが、すでに85歳と高齢の二階氏は、健康上の不安もある。

 そこで補選の候補として擁立されたのが、乙武氏だった。高い知名度さえあればなんとかなると思ったのだろう。

 だが選挙マシーンとして頼りにしていた公明党が、乙武氏の過去のスキャンダルを理由に反発。自民党も地元からの反対などを理由に推薦を諦めた。

 基礎票を欠いたままに選挙戦に突入するも、これまでにない苦戦を強いられた。そして終始優勢だった立憲民主党の酒井菜摘氏の当選がゼロ打ちで発表された時、乙武氏の選挙事務所に小池知事の姿はなかった。

 小池知事は国政への転出のチャンスを失い、自分の身代わりをも当選させられなかった。後は7月の都知事選で3選目を狙うことになるが、その力は失われつつある。

 それは421日投開票の目黒区長選の結果でも明らかだ。多選を批判された青木英二区長が6選を決め、小池知事が支持した伊藤悠前都議が落選。目黒区内で約1万票あると見られる公明票は、伊藤氏へは動かなかった。

 こうした公明党の動きを見れば、小池知事が失墜しつつあることがわかる。小池知事の力の源泉は「選挙に強い」ということだったが、その原動力になったのが公明党の選挙マシーンといわれる創価学会女性部に他ならなかった。

 創価学会女性部(当時は婦人部)は2016年の都知事選で、公明党が自民党とともに増田寛也元総務大臣を推薦していたにもかかわらず、小池知事を応援して当選に導いた。知事となった小池氏には、都議会公明党が寄り添った。ここに小池知事都議会公明党、創価学会という堅固な権力のトライアングルができあがった。これが8年間の小池都政を支えてきた。

 しかし創価学会女性部はスキャンダルを嫌う。だから乙武氏を支援できなかったわけだが、それは「経歴詐称疑惑」が再燃している小池知事にも当てはまるのではないか。

 「経歴詐称疑惑」は2020年の都知事選でも持ち上がったが、コロナ禍にまぎれて大きな影響は与えなかった。小池知事の卒業をカイロ大学が証明する声明をエジプト大使館がFBに掲載したことも、騒ぎを鎮静化させた一因となった。

 それが今や、次々と崩れ去ろうとしている。これまで様々な困難を乗り越えてきた女帝の命運は、まさに尽きようとしているのか――。東京・西新宿にそびえたつ都庁から、間もなく断末魔の声が聞こえてくるかもしれない。

トップ写真:SusHi Tech Tokyo 2024でスピーチする小池知事。2024年4月27日。出典:Photo by Tomohiro Ohsumi/Getty Images




この記事を書いた人
安積明子政治ジャーナリスト

兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使

安積明子

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