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.国際  投稿日:2024/4/30

国際情勢からの日本の憲法改正の必要性(上)抑止の否定は日本の滅亡へ


古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・憲法改正がいまほど強く求められる時機はない。米国からも「普通の同盟国」になることが期待されている。

・草案を書いたGHQ担当者は日本国憲法の狙いを「日本を永遠に非武装にしておくこと」と明言。

・日本の軍事否定傾向は自縄自縛、「国家消滅」の危険をもはらむ。

 

激動の国際情勢のなかで日本の憲法改正がいまほど強く求められる時機はかつてなかった。大統領選で揺れるアメリカ政治での日本への態度をみても、いまこそ日本が憲法、とくにその第9条を改正して、防衛面での「普通の同盟国」になることが期待されているのだ。

どうしてそうした国際状況が生まれたか。なぜ日本の憲法改正が求められるのか。アメリカの首都ワシントンで国際情勢とともに日米関係のうねりを長年、考察してきた立場から説明しよう。

2024年春の世界は危険な争乱に満ちている。ロシアのウクライナ侵略、中東でのイスラエルとハマスの戦争、中国の台湾や日本の尖閣諸島への軍事攻勢、北朝鮮の軍事挑発など、東西冷戦での1991年のソ連の崩壊後では最大の国際危機といえよう。

この危機には二つの大きな特徴がある。

第一は軍事力が実際に行使され、紛争の行方は軍事面での戦闘力や抑止力で決められていくという傾向である。

第二は、それら軍事がらみの衝突の背景には既存の国際秩序を守ろうとする側と打破しようとする側の対決があることだ。

この二つの特徴は激しい荒波としてわが日本にもぶつかってくる。だが軍事力の実効性、そして国際秩序の防衛という二つの重要課題に対してはいまの日本は準備ができていない。なぜならば日本はその特殊な憲法の制約によって、この重要課題への対応をしてこなかったからだ。憲法のとくに第9条によって軍事や防衛に関して自縄自縛のような禁忌を自国に課してきたからである。

憲法第9条は周知のように「戦争」も、「戦力」も、「交戦権」も、否定している。「国際紛争を解決する手段としては」という註釈こそつけているが、普通に読めば、自衛のための戦争や戦力をも禁じているとも受け取れる。この憲法は日本が米軍など連合軍の占領下にあった時代に米軍によって起草された。

私はこの日本憲法を書いたGHQ(連合国軍最高司令部)の実務責任者にその作成の経緯を詳しく聞いたことがある。GHQ民政局次長のチャールズ・ケーディス米陸軍大佐だった。歴史の証人などと気取るつもりはないが、いまの日本で日本国憲法を書いた米側の責任者から直接に内情を聞いた当事者は、きわめて少ないだろう。

ケーディス氏への3時間以上のインタビューの末、私がこの日本憲法作成でアメリカ側が意図した究極の目的はなんだったのかと問うと、同氏はためらわずに「日本を永遠に非武装にしておくことでした」と答えた。日本の軍事力の再興を恐れたアメリカが日本を軍事力を持たない半国家にしておくという意図だった。

この米軍による憲法作成が1946年2月、それ以来、日本は78年間もこの半国家憲法を保ち続けてきたのだ。ただしこの憲法を日本に押しつけたアメリカが1950年の朝鮮戦争の勃発で政策を変え、日本にも軍事協力を求めるようになった。歴史の皮肉だった。その変更から日本の自衛隊が生まれのだ。だが日本国全体としてはこの軍事否定の憲法を変えていない。

日本の憲法による軍事忌避や戦争否定は安倍晋三首相が推進した2016年施行の平和安保法制で大幅に緩和されたとする意見もある。だが日本の軍事力行使に関して「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること」の証明をまず必要とする点など、普通の国家の安全保障政策にはなっていない。憲法の軍事否定の制約がなお大きな影を広げているのだ。憲法を変えない限り、国際的に異端な日本の安保活動への鎖は外せないのである。

なぜ日本のこの軍事否定傾向が日本自身にとって危険なのか。

2024年の国際情勢をみれば、その答えはすぐに鮮明となる。軍事力を行使して、あるいはその行使の脅しをかけて、他国への侵略や威嚇を図る勢力が増しているからだ。

ロシアのウクライナ侵略が簡明な実例である。ロシアは軍事力で自国の目的を追求する。ウクライナも軍事力で自衛に努める。もしウクライナが日本のような防衛面での自縄自縛があり、戦わないとなれば、国家の消滅となる。

中国が台湾の攻略を目指し、日本の尖閣諸島の占拠を意図する。北朝鮮が核やミサイルの威力を誇示して韓国やアメリカに挑戦する。いずれの目的の追求も軍事手段を基礎としている。こうした軍事攻勢を抑え、実際の攻撃や侵略を防ぐには、こちら側も軍事力で抑えることが不可欠となる。万が一、軍事攻撃をかけてくれば、こちらも反撃して手痛い被害を与えるぞ、という意思と能力を示すわけだ。相手が自陣営への被害の大きさを予想して、では攻撃は止めておこう、と判断することを狙う。これが国際的な安全保障の基礎となっている抑止の論理である。

ところが日本のように軍事力を最初から否定すれば、その軍事力を使ってでも自国の野望を達成しようという側の攻撃を招くことになってしまう。

こうみてくると、日本の「平和憲法」なる規制での安全保障観がいかに危険かがわかるだろう。

東西冷戦でソ連の共産主義政権が倒れ、アメリカだけが唯一の超大国となって、その圧倒的に優位な軍事力で全世界に抑止力を効かしていた時代は、日本はただその抑止の庇護の恩恵にあずかっていればよかった。だがいまや明らかにその抑止力が低下したとみて、軍事でのチャンレジに出てきたロシアや中国、北朝鮮という諸国の攻勢の矛先が日本にも突きつけられてきたのだ。

(下につづく)

*この記事は月刊雑誌「日本の息吹」2024年5月号掲載の古森義久氏の論文の転載です。

トップ写真:ロシアの極超音速ミサイル攻撃で破壊されたキエフ国立装飾・応用芸術デザインアカデミーでのウクライナ当局による捜索活動(2024年3月25日 ウクライナ・キエフ)出典:Kostiantyn Liberov/Libkos/Getty Images




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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