.経済  投稿日:2017/1/28

『日本解凍法案大綱』6章 社団法人 その2

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牛島信(弁護士)

「根本?一番大事なこと?」

「ああ、非上場会社にこそコーポレート・ガバナンスが大事だ」

「そうか。それはそうだとして、だが、現実にはオマエは受け皿にしかなれない。それも決して株主になることがかなうことはない。ただの当て馬だ」

「違う。俺は俺に株を買ってくれと頼む人たちに、株主なんだから先ず自分自身が株主として会社へ働きかけるように勧めるつもりだ。俺が手伝うから一緒にやろう、と。

株主であることの意味、たとえ少数株でも株主というのは何なのか。そいつを俺に株を買って欲しいと頼む人たちに先ず分かってもらいたいんだ。いっしょにコーポレート・ガバナンスをやりましょう、って。

俺がそういう人たちの株を買うことになったとしても、そいつは買った後で高値で誰かに売りつけるためじゃない。手持ちの株の価値を上げるんだ。それが本来、株主のやるべきことだろう。経営者を監視し督励するのさ。経営者を選ぶのはどこの世界でも株主に決まっている。それどころか、場合によっちゃ解任もする。そのためにコーポレート・ガバナンスは独立した社外取締役を勧めている。

監視の成果の一つが、配当の増額、または会社による高値での自己株取得だ。それと同時なら社長の給料が上がってもいい。もちろん従業員のほうが先だがな。

少数株を売って金にしたい、ってのは後からの話だ。慌てる乞食はもらいが少ない、ってな」

「ふーん、壮大な物語だな。

でも、墨田のおばちゃんの話を聞きつけた少数株主は、オマエが買ってくれるっていうんで、表現は悪いが、藁をもつかむって思いで殺到しているんじゃないのか」

「そのとおりだ。

金を払って差し上げてもいい。しかし、同じことを繰り返すようだが、俺が金を出すのは株を買って、そいつを転売して儲けようっていうためじゃない。

売りたい株主には、一緒に会社の改善をやってもらいたい。そのために先ず株主総会の対策を考えることから始めてもらう。

先ず俺が買って、その後に株主総会で会社の経営の改善を求められるんなら、それでもいい。しかし、オマエは俺が株主になることはあり得ない、ただの当て馬にしかなれないと言うじゃないか」

「そうだ。

オマエの言う話はなかなかいい話だ。株主が本来なんなのかを分かってもらう、か。そのために株主総会に出よう、だな。

そいつはいい。株主総会の場こそが最大最良の情報収集の機会でもあるからな」

大木が感心した調子で相槌を打った。真率さが現れていた。高野はなにかに憑かれたようで止まらない。

「俺は先ず会社に公私混同をやめさせるつもりだ。それに、経営を改善して増配や自己株取得を促す。自分独りが高値で売り逃げていい思いをしようなんてのはダメだ。

他の少数株主にも同じ機会を持ってもらいたいいんだ。株主総会でそいつを提案する。

増配や自己株買いを会社が拒否したら、譲渡承認のルートに乗るしかない。当て馬になってでも、な」

「会社は間違いなく拒否すると思うよ」

「拒否とは限らん。だが、そんなことはどちらでもいい。

俺は、会社に株主をフェアに扱ってほしいだけなんだ。それが、結局は会社のためでもある。

なぜって、オマエが教えてくれたじゃないか。要は、会社は個人商店じゃないってことだ。株式会社、つまり法人の特権の問題は、実は上場とは関係ない。

個人商店つまり個人企業は、法人形態をとった場合には株式会社になる。なぜ面倒な

手間をかけて株式会社なんかになるんだ?

税金だ。そいつが安くなる。出光佐三は『株式会社なんてのはいかがわしいものだ。税務上しかたなく株式会社にしているだけだ』と言っていたそうじゃないか。

それに会社になれば有限責任てことにもなる。個人企業が潰れればオーナーは全ての借金の返済義務を負う。破産だ。

しかし、株式会社なら話が違う。会社の債務は個人の債務じゃない。だから、どの会社のオーナーも社会から保護されている。以前は銀行なんかに当然のように会社の債務を個人保証させられていたが、それも変わりつつある。

なんでそんな便宜を株式会社に与えるのかといえば、それは、その見返りが社会のためになるからことだ」

「そうだ!」

大木が大きな声をあげた。

「そうなんだよ。

すべては雇用のためだ。株式会社制度があると個人企業しかないときに比べて事業が大きくなる、永続化する。だから人をたくさん雇うことができる。

人は雇われると給料をもらう。会社からもらうが、大きく言えば社会からだ」

「会社と社会だって。シャレか?」

「違う。

社会から報酬をもらえるのはどうしてだ?

働くからだ。仕事をするからだ。

働くには仕事が要る。つまり、雇用だ。

ところが雇用ってのは不思議な生き物で、保護するってことができない。そんなことをしたら会社はつぶれる。国はソ連みたいに崩壊してしまう」

だから、会社による資本主義しかない。

だが、それはあくまでも手段だ。人が人として生きている甲斐を感じるための、生きていてよかった、俺は、私は幸福だと感じるためには、自尊心が要る。それは職業からしか生まれない」

「生まれつき体が不自由だったら?」

「それは別のことだ。それでも、誰もが保護され恵まれるだけの人生から少しでも抜け出したいと願う。

人は働いて給料をもらうとき、俺も大したものじゃないかと思うことができるのさ。社会と対峙している、って自信を持つ」

「対峙?」

「ああ、対峙だ。対等に向き合う。施しはない。貸しも借りもない」

「独立自尊、だな。福沢諭吉だ」

「そういうことだ」

「会社制度の究極の目的が雇用のためだってか。

オマエの持論だよな。

でも、俺にはそこは大事じゃない。

俺には、株式会社ってのは社会から特権を与えられているってことが肝だ。

法人として、自分というひとりの個人以上の存在を許されているんだ。昔はなかった。有限責任てのはたかだか17世紀ころの発明だ。オランダ東インド会社の話をしてくれたことがあったろう。レンブラントやフェルメール、あの真珠の耳飾りの少女がいたころのことだ。

俺の考えでは、問題は上場か非上場かじゃない。個人か株式会社か、だ。

株式会社というのは、社会が何かの必要があって法律を使ってが創りだした社会のなかの制度である以上、どの会社もその社会的必要っていうのを満たす義務がある。

その義務っていうのは、会社があるから雇用が拡大するってことだ。

それを果たすためには取締役会が大事だ。経営者だけじゃ身勝手が通る。特に非上場がいけない。誰もまっとうな意見を言ってくれないからな。だから、非上場の会社も社外取締役を入れるべきなんだ。上場会社について言われているコーポレート・ガバナンスと少しも変りはしない」

「ふーん、よくそこまでわかってくれたな。嬉しいよ。そのとおりだ。しかし、あまり世間では聞かん話でしかない」

大木の冷静な声にも高野はひるまない。

「オマエは正しい。そのとおり真実だ。誰も問題にしていないさ。

だがいつまでそれが真実であり続けるかな。そのうちに変わるんじゃないか。本当の問題は、俺たちが変えるように動くのか動かないのか、じゃないのか。それが問題だろうじゃないか

大木は目の前の高野の真剣な口ぶりに気おされた。高野の言うことは正しい。しかし、世の中というのは、正しいから通るわけではない。あえて沈黙の時間をつくってその場の空気が入れ替わるのを待つと、話題を現実に起こりうる当面の問題に切り替えた。

「なんといっても実際のところ、少数株主だって株の価値を上げてから手放すほうがいいのは確かではあるな」

「いや、手放すのには俺はタッチしない。俺は金もうけには関係ない。金が欲しいのならこんなことはしない。俺は金の稼ぎ方なら良く知っているつもりだ」

「ああ、それは世間様が大いに認めている」

「だから、大木、金の部分はオマエがやってくれ。で、弁護士報酬は成功報酬にしてくれ。一定限度までは売主の報酬支払の義務を俺が保証してやってもいい。

成功報酬の成功とは例の値決めの非訟事件で裁判所の決定が出ることだ。少なくとも裁判所が関与しての和解しかオマエにはして欲しくない。裁判所が絡めばこそ安心というものだ。そういう前提での話であるべきだと思う。俺はフェアネスを貫きたいんだ。

もしその前に、約束を違えて売主が勝手に妥協したら、オマエは、その時点までの時間での報酬をいつものように取ればいいじゃないか」

大木が余計なことをといわんばかかりに鼻を軽く鳴らした。成功報酬の約束をしたのが、依頼者の都合で時間報酬になったのではフェアでないと言いたかったのだ。時間報酬は結果が成功になろうがなるまいが、きちんと支払われる。弁護士にはリスクがない。金を払ったあげく負けてしまうのは依頼者のリスクなのだ。

成功報酬は成功しないと払ってもらえない。そこに弁護士側でのリスクテーキングがある。リスクをとるについては、タイム以上の支払いがあって当然なのだ。弁護士でない高野にはその違いがわかっていない。

高野は大木の不満げな様子には少しも気づかないで話し続けた。

「会社がフェアな値段で少数株を買い取るってのは、フェアな経営の方法の一つに過ぎん。

『利益に見合った配当額、会社にふさわしい配当額でさえあれば、それでいいんです。それさえ実現されれば私は株を売りません』っていう株主も多いと思う。大事なのは、コーポレートガバナンス・コードにあるとおり、会社が株主やその他の全ステークホルダーのためにフェアに経営されるってことだ。

社長のためじゃない。もちろん公私混同なんて許されない。

株主のためだけでもない。顧客だって従業員だって、心無い経営者にひどい目に遭わされている」

「だがな、高野。利益に見合った配当といったって、それで済まない会社もある。腐るほど資産があっても利益は雀の涙ってことで、オーナーが平然としているところがいくらもある。

先祖伝来の高い土地のうえで、先祖からの儲からない商売をしている店があるってことだ。そりゃ銀座で下駄屋をやってりゃ利益はあがらんさ。あがらん利益に見合ったわずかばかりの配当をしてもらっても、少数株主としては割り切れないだろうな。

やっぱり土地に手を付けてもらわなくっちゃ、と少数株主は思うさ。道楽で商売をやるんなんら、自前の土地でやってくれと文句の一つも言いたいだろうじゃないか」

「株を自己取得するしかないってことか。

それができなきゃ、株を全部第三者に売って、株の割合で分ける。そうすりゃ文句ない」

待っていましたとばかり大木が相槌を打つ。

「大地震で会社ごとひっくり返るような話だな」

高野が目を輝かせながら、

「ああ、眠っている土地をたたき起こして、そいつの価値を実現する。高額の土地に見合わない商売をしている会社は、身売りして金をわけるのさ。過半数を持って道楽みたいな商売をしているのなら、半分以上の金は手に入るわけだから、その金で同じ遊びごとをすればいい。少数株主って名の他人の犠牲に乗っかるなってことさ」

とまくしたてた。

「バブルの時代の話みたいだ。すごい話だな。土地の価値に見合わない商売をやっている日本中の会社が、先祖伝来の社屋から追い出されるってわけだ」

「だから、世の中のためになる」

「非上場会社の話だぞ。オマエ、本気か?」

「そうだ!俺はその非上場会社のコーポレート・ガバナンス改善のために働く。

非上場会社の社長は初めっから傲慢不遜だ。そんな社長を規律づけるものは、株主しかいない。

ほんの一部だが、俺の目の前に今10社の候補がある。それが先ず手始めだ」

「オマエ、自分がどんなにとんでもないことを言っているかわかってるのか?」

「ああ。オマエが教えてくれたことだがな。

コーポレート・ガバナンスが上場会社にとって大事なものなら、非上場会社にとっても大事なんじゃないか。

コーポレート・ガバナンスは攻めの経営、稼ぐ力のためなんだそうじゃないか。それは日本の経済成長を実現するからだそうじゃないか。

だったら、非上場会社だって大きな役割を担っているはずだ。

俺は68歳だ。それ相応に自分てものを知っているつもりだ。だから、これまでの人生、公のためになんて考えたことも言ったこともなかった。だがな、こんどの墨田のおばちゃんの話で思い知らされた。人は自分のためだけに生きることはできない。なんども聞いた台詞だったが、いま俺は実感しているよ。それに俺は暇だ。先も短い」

「オマエが短けりゃ、俺も短い。勘弁してくれよ」

大木がおどけて言った。

「オマエは大丈夫だ。人間離れしているからな。俺は当たり前の人間だ。

上場会社のコーポレート・ガバナンスのためには、俺じゃなくてもたくさんの立派な人がさまざまな動機で熱心にやっている。上場会社なんて晴れがましい場所は、俺を必要としない。

だけど、非上場は見捨てられている。俺の言うのは非上場会社の少数株主に矛盾とそのしわ寄せが集中しているってことだ。フェアな扱いを受けていない。もっと払える配当、高値で買い戻せる株、もっと投資に回せる内部留保、放置されたまま眠り続けている土地の含み。そうしたものを実現することは非上場会社の少数株主には無縁だ。踏みつけにされて、声も挙げられない。経営者は少数株主を相手にもしない。

本当の問題は会社の経営そのものなんだ。それは、非上場会社が取引先、従業員、地域社会のために経営されていないってことでもある」

「ほう、ジョンソン&ジョンソンの信条、クレドときたか」

「そのとおり。非上場会社のコーポレート・ガバナンスなんて誰も話題にもしない。非上場会社が問題になるのは、事業の承継ってことだけだ。確かにそいつは国民的課題だ。そのとおり。銀行にも金になる商売でもある」

(第6章その3に続く。最初から読みたい方はこちら

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この記事を書いた人
牛島信弁護士

1949年:宮崎県生まれ1975年:東京大学法学部卒業1977~1979年:検事(東京地方検察庁他)1979~1985年:弁護士(都内渉外法律事務所にて外資関係を中心とするビジネス・ロー業務に従事。)1985年~:牛島法律事務所開設2002年9月:牛島総合法律事務所に名称変更(現在、同事務所代表弁護士、弁護士・外国弁護士51名(内3名が外国弁護士)<専門分野>企業合併・買収、一般企業法務、会社・代表訴訟、ガバナンス(企業統治)、コンプライアンス、保険、知的財産関係等。

牛島総合法律事務所「少数株主対策チーム」 URL: http://unlistedstock.jp/

 

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牛島信

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