瀬尾温知(スポーツライター)
「瀬尾温知のMais um・マイズゥン」(ポルトガル語でOne moreという意味)
執筆記事|プロフィール
日本サッカー協会は、日本代表のアギーレ監督を解任した問題で、八百長疑惑のあるアギーレを招へいした責任者の原博実専務理事、霜田正浩強化担当技術委員長に「責任はない」と結論をだし、処分は行わないことが決まった。
処分しない理由は、アギーレの身辺調査が難しかったため、選任の責任は問えないからだという。つまり、「八百長していたなんて難しくて分かんなかったよな。しょうがないことだから、気にするのはやめよう。」と、組織が結論づけたのである。
拙者は、協会の幹部が一掃し、日本代表が心機一転して歩みだすチャンスになると考えていた。ワールドカップで惨敗した責任が有耶無耶なまま、現在の体制は継続していた。
このまま現体制に任せていて日本のサッカーは大丈夫なのか。その疑いの最中に訪れたアギーレ監督の選任問題。体制を解体する絶好のタイミングが期せずして訪れたのである。
それなのに権力者たちの意地が勝ってしまった。ファンのことを第一に考えず、意地を押し通す権力者が、「諦めなさい。日本のサッカーは我々の手中にある。」と、日本代表の未来を不安視する者たちを横暴に突き放す、残念な形になってしまった。
大仁邦弥会長は、原専務理事から「責任を全うしたい。」と言われたことを明かした。また、霜田委員長は「責任を取って辞めたい。」と辞任の意向を示したが、大仁会長が「今やるべきことは新たな監督を選任することなので、そのままやれ。」と伝えたという。
日本サッカーのトップにある組織が、結果に責任を負わない環境を作りあげてしまったら、監督や選手も結果を出さずに「ぬるま湯」に浸かっていて許されることになってしまう。
そしてメディアが反論を唱えなければ、プロフェッショナリズムの低下を黙認することになる。今回、メディアの反論は弱小だった。その結果、責任の所存が曖昧なまま新監督が発表されるという最悪の展開に向かってしまった。
欧州でプレーする日本人選手は、生ぬるい環境では強くなれないことを自覚しているはずである。それはプレーに厳しい視線が注がれていることを欧州各国のグラウンドで体感できるからで、メディアからも厳しい評価が下される環境に身を置いているからである。
だからこそ自身を戒め、強くなるために、そしてどうしたら勝てるかの模索を続けている。それがプロフェッショナリズムだからである。
そのプロフェッショナリズムの認識がある日本代表の選手たちに求めたい。日本サッカー協会の不甲斐ない体制を是正させるために意見を述べてもらえないだろうか。
そうでないと、厳しい環境がないままの、生ぬるい状態が続いてしまうことになる。それは代表の選手たちにとっても本望でないはずである。ファンの注目を浴びる代表の選手たちが声をあげることで、日本サッカーのより良い未来につながるのである。
今回の一連の騒動で必須と感じたものがある。それは、協会、選手、メディアといったそれぞれ立場の違う者が、互いを尊重したうえで刺激し合える関係性を作ることである。
立場は違っても「世界の強豪国の仲間入り」という目標は共通している。協会の幹部は、その目標には自分の力が最有力と考えて現職に居座っているのであろうから、せめてその思いを公の場で堂々と語ってもらいたいものである。