「世界最高のファッションショー」ミラノ・コルティナ2026開会式 サン・シーロのランウェイは平和への行進となるのか

松永裕司(Forbes Official Columnist)
【まとめ】
・2026年ミラノ・コルティナ冬季五輪の開会式は、サン・シーロを舞台にハイファッションとスポーツが融合する史上最大規模のファッションショーとなる予測。
・ウクライナ代表をはじめとする各国の「勝負服」は平和への渇望と不屈の強さを象徴。
・開会式は、イタリアの「美意識」の爆発が期待されており、ファッションと文化の力でオリンピズムの再生を試みる平和への宣言となる可能性を秘めている。
五輪が選手にとっての世界最高の舞台であるならば、「ミラノ・コルティナダンペッツォ2026」の開会式は、世界で最も視聴される、史上最大規模のファッションショーとなりそうだ。
「デザインの都」ミラノの象徴であるスタジアム「サン・シーロ(ジュゼッペ・メアッツァ)」を舞台に行われるこのセレモニーは、スポーツ、カルチャー、そしてハイファッションがかつてない密度で融合する歴史的な一夜だろう。ランウェイを彩る各国の「勝負服」に込められた美学、そして“平和への渇望”を読み解く。
■ ロシアによる平和とオリンピズムへの挑戦
2026年大会の真価を理解するためには、記憶を遡らなければならない。2008年の夏季北京五輪期間中、ロシアはジョージアへ侵攻。2014年、自国開催のソチ・パラリンピック終了後の休戦期間中には、ウクライナのクリミア半島を併合。
そして2022年、2月20日に北京冬季五輪が閉幕すると、その聖火の余韻も消えやらぬわずか4日後の24日、ロシアはウクライナへの軍事侵攻を開始。3月4日に開幕を控えた北京冬季パラリンピックの、わずか8日前の出来事だった。国連総会で採択される「オリンピック休戦決議」に法的拘束力はない。しかし、パラリンピック開幕を目前に控えたタイミングでの武力行使は、「平和の祭典」の根幹を成す紳士協定を踏みにじる、オリンピズムの根本原則への挑戦だった。
それから4年が経とうとする戦火の続くキーウで、ウクライナ代表の2026年冬五輪公式ウェアが2025年11月、世界に先駆けそのヴェールを脱いだ。ポーランドのブランド「4F」と共作されたその「勝負服」は、雄大な山々の風景、常緑のトウヒ(スプルース)、カルパティア山脈の澄んだ空気、ウクライナ刺繍の黄金の文様をモチーフとして採用。フリースタイルスキーの金メダリストであるオレクサンドル・アブラメンコら輝かしい実績を持つオリンピアンたちが出席した。同国NOC(国内オリンピック委員会)はこれを「不屈の強さと誇りの象徴」と定義した。代表選手が新たな歴史を刻むためのユニフォームが、世界最大のファッションショーと平和の祭典の真の幕開けを告げているのかもしれない。
2026 Olympic fashion: How Ukraine’s team will represent with Carpathian designs
https://newsukraine.rbc.ua/news/2026-olympic-fashion-how-ukraine-s-team-will-1762176159.html
■聖地「サン・シーロ」で繰り広げられる、モードとスポーツの融合
冬季五輪には、特別な意味が宿る。2月6日、伝説的なサッカースタジアム「サン・シーロ」は、巨大な円形劇場へと変貌。五輪開会式といえば、開催国の歴史や伝統芸能のショーケースという側面が強かったが、ミラノ・コルティナ大会において期待されているのは、イタリアが誇る「美意識」の爆発だろう。
演出の詳細は極秘とされているが、雪と氷の白銀の世界と、イタリアン・モードの艶やかな色彩のコントラストが、8万人収容のスタジアムを巨大なアートインスタレーションへと変える。観客と視聴者は、スポーツの祭典を見ていると同時に、壮大なオペラあるいはオートクチュールのショーを目撃する。それは、武力による威嚇ではなく、創造性と「美」による対話への回帰だ。ミラノの夜空の下で展開されるのは、傷ついたオリンピズムを、ファッションと文化の力で再生させようとする宣言となるやもしれない。
では、ウクライナに続き各国の平和と美への回帰について、覗いてみたい。
まずは、チーム・ジャパン。アシックスが手掛ける日本代表のウェアは、ともすれば非常に凡庸に見えがちではあるものの、実は深い精神性が隠されている。「日の出」と「移行」を象徴する静謐な「赤」のグラデーション、そして流れるような「流水」のモチーフ。開催地チロル地方への敬意を表したチロリアン風グラフィックを取り入れるなど、ホスト国との文化的な架け橋となる意匠も凝らされている。派手さを抑えつつも、静謐で力強いそのデザインは、日本のプレゼンスを印象付けてくれると、期待したい。
今大会の開会式における最大のハイライトと形容したくなるのは、イタリア・ファッション界の帝王、故ジョルジオ・アルマーニへのトリビュートだろう。
開催国の威信を背負うチーム・イタリアのユニフォームは、マエストロが遺した「最後の作品」の一つ。EA7エンポリオ・アルマーニが手掛けたこのキットは、雪原に溶け込みながらも確かな存在感を放つ「ミルキーホワイト」を基調とする3Dで刺繍された「Italia」の文字がライトに照らされたとき、スタジアムは巨星への敬意と静寂な感動に包まれるだろう。それは、過去の政治的緊張による「不安の静寂」ではない。純粋な「美への畏敬による静寂」であってほしいと切に願う。いや、そこはやはりイタリア、平和を願う大歓声に包まれることになるのか、本番を見守りたい。
■国旗を纏った「モデル」たちによるパレード・オブ・ネーションズ
選手入場(パレード・オブ・ネーションズ)は、各国のナショナルブランドが威信をかけ技術とデザインを競い合う、世界最高のランウェイとも言える。
チームUSAは常に五輪の主役でもある。五輪好きという国民性はもちろん、最多メダル獲得数でもトップを走り米国代表は、国内の政治的分断と混乱を乗り越え、平和の象徴として存在感を見せたい。そのユニには、アメリカーナの回帰と近未来のテックという、二つのアメリカの顔が見える。ラルフローレンが手掛ける開会式用ルックは、木製トグルや国旗のインターシャ編みを用いた「アメリカーナ・クラシック」への回帰であり、伝統的な「Made in USA」の誇りだ。 対照的に、閉会式や表彰台でのナイキのウェアは、AI技術「A.I.R.」を駆使した近未来的なアウターウェア。伝統と革新、この二面性こそがアメリカの強さだろうか。
Lululemonが送り出すチーム・カナダは、地形図(トポグラフィック・マップ)のプリント、メリノニット、半透明のテクニカルファブリックを利用した革新的なユニ。国内のあらゆる場所からインスピレーションを得たカラーパレットは、カナダらしさを感じるが、選手とともに2年をかけ開発したアウターとなっている。一方、Le Coq Sportifによるチーム・フランスは、「レトロ・ミーツ・リファインド」。1976年アーカイブに着想を得たフロステッドブルーやベージュのダッフルコートは、スポーツウェアの枠を超え、パリの街角のようなシックな空気をスタジアムに持ち込む。
パリ五輪でSNSを席巻したチーム・モンゴルはGoyol Cashmere(ゴヨル・カシミヤ)をパートナーに迎え、伝統的な職人技と現代的ミニマリズムの融合で再び世界を驚かせる準備を進めている。残念ながら現在、イラストのみ発表となっているが、国産のカシミヤを利用した「伝統」こそが最強のコンテンツであることを、証明しようとしているのだろうか。
■ボランティア・ファッションで圧勝するイタリア・デザイン
開会式のフィールドを支えるのは、アスリートだけではない。運営を支える1万8,000人以上のボランティアやスタッフにも注目してほしい。Salomonが開発したのは、17アイテムからなる「モジュール式ワードローブ」。50人以上のデザイナーが18か月を費やしたこのコレクションは、過酷な作業に耐えうる機能性を持ちながら、ミラノの街中でも違和感のないほどスタイリッシュだ。「裏方こそが大会の顔である」というメッセージが、その洗練されたシルエットから伝わってくる。
かつてスタジアムとランウェイは異なる世界にあった。しかし、サン・シーロという聖地において、その境界線は雪の中で溶け合い、消失しようとしているように映る。もし大会本番が、これらのプレビューが予感させる通りのクオリティで展開されるならば、2026年2月の開会式は、いかなるファッションウィークよりも鮮烈に記憶に刻まれることになるだろう。
聖火が灯るとき、我々は世界最高の「ファッションショー」の幕開けと、平和な祝祭の復活を目撃する。
写真)Milano Cortina 2026 – Unveiling Of The Olympic And Paralympic Winter Games Official Uniforms
出典)Benedetta Bressani / 特派員//Getty Image




























