[Japan In-depthチャンネル ニコ生公式放送リポート]【戦場ジャーナリストは何故必要か】~情報の受け手にも覚悟が必要~
2015年2月11日放送
Japan In-depth 編集部(Aya)
ISILによって殺害された後藤健二氏のジャーナリストとしての活動が注目されている。その反面、自己責任論も叫ばれている。本日のゲストはイラクやアフガニスタン等、数々の戦地を取材しているフォトジャーナリストの久保田弘信氏。後藤氏と同じフリージャーナリストとして、想いを語る。久保田氏が戦場ジャーナリストに足を踏み入れたきっかけは“ひょんなことから”と表現するのが相応しいかもしれない。もともと久保田氏は、海外旅行専門のスチルカメラマンだった。東南アジアでの撮影でパキスタン人と知り合い、アフガン難民の話を聞いて、97年ごろアフガニスタンを訪れた。そこで、自らの国を追われている人たちの生活を、毎日子供が死んでいく状況を目にした。
この惨状を写真で伝えられないかと思ったのが、戦場ジャーナリストになるきっかけだったという。発表の媒体を探すのは難しかったが、2001年には写真展を開いた。そしてその直後、9.11が起こり、テレビ局が接触してきてワイドショーに出るようになった。「友人がいるところが戦争をしている。行かなくては」と再び戦場へ戻ることを決め、その際にTBSから映像を撮ってくるよう頼まれたという。
久保田氏は、イラク戦争のときも現場でカメラを回していた。バグダッドが砲撃されているとき、トマホークが真上を通過していくホテルに泊まっていた久保田氏は「これ以降(起こることが)ないような戦争」とその凄まじさを表現した。
久保田氏が撮った写真をいくつか紹介してもらった。中には、後ろの方にISILの兵士が写っているものや、クルド人の女性兵士が写っているものもある。クルド人兵士が大勢写っている写真を見ると、彼らの制服や武器がバラバラであることに気づく。武器が足りないため、彼らは中古市場で武器を仕入れているという。戦地のど真ん中に行かなくてはわからないことを、久保田氏の写真が教えてくれる。
久保田氏は「戦地に行くには、覚悟がある」と強い口調で語った。流れ弾に当たる危険もあるが、特に誘拐には注意をしているという。危険地域に入るのは皆嫌がるため、通訳の値段も跳ね上がるが、必ずつけなければ危険だ。トルコ国境では、声を掛けてきたガイドに(自分自身がテロリストなどに)売られるということもあるので、「自分が知っていて、大丈夫という人しか使わない」と久保田氏は語った。慎重に慎重を重ねている。
今回の報道について、久保田氏と安倍編集長は、テロリストの肉声や後藤さんと湯川さんが跪いている映像を繰り返し流す日本のテレビ局に怒りを感じているという。久保田氏は「日本のメディアは彼らのプロパガンダに乗っかっている。テロリストの肉声をながすというのは欧米のメディアはやらない」と、世界を恐怖で震撼させるという彼らの狙いに加担していることを批判した。
また、ISILの人質画像を使って面白半分のアイコラ画像が作られ、ネット上で拡散されていることに関し、「ISILは現場にいたら鳥肌が立つくらい怖い。インターネット上だから怖さがわからないでやっている」と軽率な日本人をたしなめた。
日本では自己責任論なども出ているが、何故テレビ局などの大手メディア社員は現場に入らず、フリージャーナリストばかりが戦地へ向かうのか。その理由について、元フジテレビの安倍編集長は、「フジテレビでも過去に記者が何人か亡くなっている。テレビ局は社員を守りたがる。いつの間にかフリーのマーケットができて、フリーの人に行ってもらおうという流れになった。」と話した。
しかし、最近では一部の海外メディアの中には、フリーのジャーナリストが人質になるリスクを減らすためにも、彼らから映像を買うのはやめようという動きも出てきている。しかし、久保田氏は「誰かが行かないと、非人道的なことが行われているということが伝わらない」と強い口調で述べた。
戦場で命を落とした海外のジャーナリストの遺族が、これからも戦場にジャーナリストが行くべきだと述べている例もある。非人道的なことが行われているということを誰かが行って伝えなければいけないが、誰が伝えるのか。これからの大きな課題となる。
ベトナム戦争の頃は、ジャーナリストと医療従事者は攻撃のターゲットにはならなかった。しかし、今はジャーナリストが標的になる時代だ。久保田氏は「時代が違ってちょっと難しい」と話し、安倍編集長は議論の重要性を述べた。危険を侵して戦地へ赴くことは正しいのか、難しい問題だ。番組内のアンケートでも、ジャーナリストが危険地帯で取材をすることについて、賛成と反対がほぼ半々だった。
今、確実に言えることは、彼らが命を懸けて伝えようとした情報を、私たちがきちんと受け取ることが大切だということだ。名古屋でモスクが嫌がらせを受けるという事件があったが、きちんとISIL(イスラム国)について報道されず、イスラム全般に対するイメージが悪くなってしまったという要因がある。今からでもメディアはきちんと報道し、私たちもより関心を持ってこの問題に向き合う必要があるだろう。
(この記事は、ニコ生「Japan In-depthチャンネル」2015年2月11日放送の内容を要約したものです)