[久保田弘信]【タイ爆発事件、対岸の火事ではない】~テロは忘れたころにやってくる~
久保田弘信(フォトジャーナリスト)
8月17日タイの首都バンコクの中心部 で爆発事件が起きた。「微笑みの国タイ」と観光ガイドに表記されるタイだが、1932年以来19回もクーデターを繰り返している。昨年、タクシン派と反タクシン派による対立が激化したことで、タイ陸軍は戒厳令を発令し、夜間外出禁止令も出された。爆弾事件や銃撃戦が起き、多くの血が流れたが、同年6月には衝突も収まり、タイは観光立国でもあるため夜間外出禁止令が解除された。
その後タイは落ち着きを取り戻し、日本人も含め多くの観光客が訪れる「微笑みの国タイ」を取り戻したかのように見えた。しかし、今年の2月、今回の爆発事件が起きたチットローム駅の隣駅サイアム駅で手榴弾と思われる爆弾事件が起きた。この時は犠牲者が少なく日本で大きく報じられることはなかった。
昨年の動乱が収まって以来、初めてタイを訪れた。街自体は平和そのもので、バンコクの中心部はどこも賑わっていた。一つ気になったのはBTS(スカイトレイン)やMRT(地下鉄)そしてデパートの入り口等の警備の多さ。特に地下鉄の改札近くには金属探知機が置かれ、物々しい警備。と思いきや、スーツケースを引っ張りながら通過しても止められることはなく、滞在中カバンを開けられる人を見たのはたった一度だった。
デパートや百貨店の入り口には金属探知機だけでなくX線検査装置も置かれているが、人が通ってブザーが鳴っても止められることは殆どない。さすがはマイペンライ(問題なし)の国だと思っていた。実際、バンコク中心部を訪れる人の数を考えたら一人一人入念にチェックするのは不可能だ。
17日午後3時過ぎ、遅い昼食を終えエラワン廟を訪れた。BTSのチットローム駅周辺にはヒンドゥー系のホーリースポットが幾つも点在する。どれもビルの谷間にあり、連日参拝客で賑わっている。立ち止まってお線香を買いお祈りする人も多いが、通りすがりに歩きながら手を合わせる人も多い。
日経企業伊勢丹の前には日本でも有名なガネーシャが祭られている。
チットローム周辺のホーリースポットの中でも人気なのがエラワン廟だ。ここにはヒンドゥーの最高神ブラフマーが祭られていて連日、朝から晩まで多くの人が訪れている。
僕がエラワン廟を訪れ手を合わせ、写真を撮ったのが15時半くらい。その2時間半後に爆弾事件が起きるなどと、全く想像できなかった。大規模な爆発だったようで、20人の方が亡くなり、100人以上の方々が怪我をされたようだ。
現時点で犯行声明はなく、何を目的としたテロかは判明していないが、いかなる理由であれ、無差別に多くの人を殺傷するテロ行為は許されるものではない。
翌日から日経の百貨店ではカバンを開ける手荷物検査が行われるようになった。
事件後の報道で防犯カメラに犯人らしき人物が映っていたと聞き驚いた。現場で防犯カメラの存在に気がつかなかった。テロを未然に防ぐには手荷物検査や防犯カメラを増やすしかない。しかし、それは毎回荷物をチェックされ、どこにいても防犯カメラで監視される窮屈な社会へと発展しかねない。
そしてテロ事件は人々が忘れた頃に行われる。IS(イスラム国)に「8000キロ離れているからって安心はできないぞ」とテロを示唆された日本も他人事ではない。
※トップ画像、文中写真すべて ⓒ久保田弘信