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.国際  投稿日:2015/9/12

[久峨喜美子] 【日本よ、難民・移民問題を無視し続けられるか?】~対策に巨額投じるドイツに学べ~


 久峨喜美子(英国オックスフォード大学 政治国際関係学科博士課程在籍)

執筆記事プロフィール

連日のように報道されているシリアからの難民が先日ついにドイツにたどり着いた。BBCのインタビューに応えている難民の顔には安堵の表情が浮かび、彼らの目には新天地での生活への強い意志と希望がうかがえる。

こうした難民の大移動を受け、つい先日オックスフォードではイギリスで最初の難民キャンペーン(Refugee welcome campaign)が開催された。Facebookなどのソーシャルネットワークを通して広がったこのキャンペーンは多くの人々の関心を集め、約2,000人の人々が街の中心部にあるシェルドニアン・シアター前に集結した。キャンペーンの企画者であるマーク・ライナスはシリア難民を支援するための資金とシェルターの必要性を訴え、人々に難民の受け入れを支持するよう呼び掛けた。

難民を保護するためのキャンペーンを目の当たりにすると、日本人としてどうしても違和感を感じざるを得ない。一番驚いたのは、自宅を難民に開放しようじゃないかというキャンペーンリーダーの呼び掛けに、ほとんどの人々が賛同していたことだ。日本で仮に同じようなキャンペーンが行われたとして、いったいどれほどの人々がこうした提案に賛同するだろうか。特に民族の同一性にこだわり続けてきた日本では、日本人が進んで難民にシェルターを提供しようという姿を想像する事は残念ながら難しい。

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キャンペーンの規模と主張に圧倒されている私の横で、しかしながらドイツ出身の友人は、イギリスでのこうしたキャンペーンは現実的ではないと批判する。というのもイギリスはこうした市民運動はさかんなものの、今回の難民の波を受けて改めてシェルターを設置しようという議論は政府内でされていない。一方ドイツは難民を受け入れることに、より好意的な姿勢を見せている。ドイツは高齢化社会を目の当たりにし長い目で国益を鑑みた上で、移民を積極的に受け入れることで彼らが将来的に経済に貢献できるよう目指している。現にメルケル政権は難民申請のプロセスの迅速化やシェルターの建設のため、6ビリオンユーロ (日本円で約7千900億)を投資することを決めた。

2000年国連人口部の調査報告書が示している通り、日本も2050年には労働力人口の減少幅が年間50万から70万人に拡大し、それを補填するためにも労働力の確保が必須であると予想されている。しかし日本では移民や難民が社会経済に貢献できるような制度について、未だに十分な議論さえされていない。

移民・難民をめぐる歴史は、日本においてももちろん存在する。例えば1910年の日韓併合により強制労働等で日本に居住させられていた朝鮮半島出身の人々らが、戦後も帰国せずそのまま日本に残留したことはご存知の通りである。しかしその後彼らの多くが日本政府の帰還政策によって北朝鮮へ送られた事実はあまり知られていない。

80年代後半、ベトナム戦争でインドシナ難民が日本に救済を求めたときも、政府は彼らの受け入れに消極的な姿勢をとっていた。最終的に難民を受け入れたものの、その政策は一時的なもので、国連の安全保障理事会常任理事国入りへの野心と国際社会での体裁を保つための政策であったと複数の有識者は見ている。その後90年代に入り、難民や移民の受け入れについてほとんど議論する間もなく、日本は「国際貢献」という名の下、「外国人研修生」という一時的な就労ビザを導入することで安価な労働力を短期的に補填するというやり方を繰り返している。

第二次大戦後以上の人の移動が起こり、ビザという障壁があるとは言えより自由に居住地を選び生活をすることが当たり前になっている現代で、あとどれだけ日本が難民・移民問題を無視し続けられるのだろうか。そうした現代社会において、民族的同一性に固執した政策にこだわること自体ナンセンスなのではないだろうか。

2020年東京オリンピックの建設ブームを前に、外国人研修生や技能実習生枠を増やすことで安い労働者を補う日本の政策に対し世界中から非難を浴びている今、欧州各国の「他者」に対する姿勢から日本が学ぶ事は多い。

*文中写真:オックスフォードで開催されたイギリスで最初の難民キャンペーンの様子。/(Refugee welcome campaign)のFacebookページより

 

 

 

 


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