[宮家邦彦]【止まらぬ中東から欧州への難民】~欧州委は難民割当問題を協議~
宮家邦彦(立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表)
「宮家邦彦の外交・安保カレンダー(9月7日-9月13日)」
今週はトルコ海岸で亡くなった三歳男子のショッキングな画像が欧州諸国を変えた。それまで冷淡だった英国すら難民受け入れに前向きな姿勢を示し始めた。しかし、それで中東から欧州への難民・不法移民の流れが止まることはない。
直接の理由は中東と欧州との間に巨大な経済格差があるからだ。だが、真の原因は中東で次々と生まれる破綻国家の存在だろう。問題の本質は人道問題だが、保護の対象となる「難民」と経済的動機による「不法移民」の区別は不明確になりつつある。
今の欧州はドイツの一人勝ちだが、そのドイツでも排外主義的民族主義が高まりつつある。欧州の理想・夢は迫害から逃れた人々を救う人道主義だろうが、同時に国内にはそれを許さない政治情勢もある。現状はこうした矛盾が表面化しただけだ。
今年これまでに約27万人の亡命希望者が海から欧州に渡ったという。長い目で見れば、これは中東から欧州への「歴史的なしっぺ返し」なのだろう。更に、見方を変えれば、欧州の衰退の一環とも言えるかもしれない。
○欧州・ロシア
夏休み明けの欧州は難民受け入れの割当制を導入するかで割れている。9日には欧州委員会が16万人の割り当て問題を議論する。しかし、UNHCRによれば、シリア国内で600万人余りが避難民となり、400万人余りが難民登録をしているという。
そのうち半数以上がレバノン、ヨルダン、イラク、エジプトに流れ、トルコにも約190万人が、北アフリカに約2.4万人がいるという。ドイツでは今年、過去最多の80万人が難民申請すると予測されているが、申請者の約4割は「不法移民」だという。
〇中東・アフリカ
シリア関係はこのくらいにして、今週の注目はイランだ。9月7日から9日までオーストアリア大統領がテヘランを訪問、同時期に日本外務省はイランとの投資協定締結交渉を開始する。イランも制裁解除に向け着々と準備を進めているのだろう。
〇東アジア・大洋州
8日に自民党総裁選告示、9日にはミャンマーで少数民族武装勢力との停戦交渉が始まり、11日にはシンガポールで議会選挙がある。中国政府は株価急落を止めようと必死のようだが、「市場を笑う者は市場に泣く」とは正にこのことだ。
〇アメリカ両大陸
米民主党クリントン候補の退潮が止まらない。ニューハンプシャー州ではヒラリー候補が支持率一位の座をサンダース候補に譲った。だが、ヒラリーがこのまま脱落するとは思えない。この種の政治危機をクリントン夫妻は何度も乗り越えてきたからだ。
〇インド亜大陸
9-13日にインドとパキスタンの国境管理担当者がニューデリーで会談する。12日から一週間、ベンガル湾でインド・オーストラリア両海軍が初の共同演習を行う。今週はこのくらいにしておこう。
いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。