[遠藤功治]【日本車メーカーへの影響は軽微】~VWディーゼル車排ガス規制不正問題 3~
遠藤功治(アドバンストリサーチジャパン マネージングディレクター)
「遠藤功治のオートモーティブ・フォーカス」
4、世界的な排ガス測定の厳格化へ排ガス性能のテストは、ある一定のモード下(スピード、加速、減速などのパターン)で実施されます。次図はFTP-75と言われる米国でのモードで、今回もこれか、ないしはこれに近いパターン下でのテストだったと思われます。
大きなローラーの上に車を載せ、ある走行バターンで車を走らせる、その時々の排ガスを測定すると言う方法です。実験室の中でテストをしているようなものですから、実際に走行している訳ではないので、車のハンドリングや走行性能自体とは関係ない、あくまでも実験室のデータが測定値ということになります。今回の件を通して、米国でも欧州でも実験室内ではなく、実際の走行中に測定をする方向で厳格化する、テストモードは公表しない、ということになりそうです。
出所: EPA
すると想定されるあらゆるモードに対応するため、自動車メーカーには多大なるエキストラコストが発生します。どのようなモードで測定されても、全ての値をクリアする必要があるからです。日米欧の測定方法がそれぞれ違い、国や地域によって規制値にも差が出る、それぞれの地域で厳格化されること自体は仕方がないにしても、地域差が更に増幅してコストを上げると、自動車メーカーにとってはまた対応が多様化してきます。
5、今回の不正による影響度
その1、ディーゼル車市場への影響はあるのか?
ディーゼル車への不信感拡大から今後、ディーゼルを買わない人が増え、ディーゼル車市場が縮小する、という人がいますが、筆者はこの考えには賛同しません。VW以外は、MercedesでもBMWでもマツダでも、不正の無い真っ当なディーゼル車を出しています。
また欧州では既に市場の半数がディーゼル車であり、ディーゼル車全般に対する信頼感や走行性には高い評価が確立しています。ディーゼル車に慣れ親しんだドライバーは、今後もディーゼル車に乗り続ける確率は極めて高いのです。但し、米国でディーゼル車を今後拡大させようとしていたメーカ―は、少なくとも当分はディーゼル車の投入に二の足を踏むでしょう。
米国では元からディーゼルが不人気であり、ガソリン価格がここまで低下している現在、VWの不正は更に米国人のディーゼル嫌いを助長させる可能性が高いと言えます。中国でも同様かも知れません。
その2、日本車に漁夫の利はあるのか?
これも影響は軽微でしょう。この件でVWが嫌いになった、VWへの信頼感が無くなった、と言う人は、大半が他のドイツ車に移るのでしょう。VWの代わりに、トヨタやホンダに移る人もいるでしょうが、限りなくマイノリティーだと思います。
欧州では明らかに、ドイツ車に乗る購買層と、日本車を選ぶ購買層は違います。この間にクロスショッピングはあまり存在しません。多くのドライバーはVWがダメなら、やはりBMWかMercedes、Opelかせいぜいルノーあたりに移行するのであって、日本車にはなかなか回って来ません。また前述通り、米国では既に、VWの販売は弱くシェアも非常に低いのが実情です。VWの2%強のシェアが他のブランドに、ある程度散っていくことは考えられますが、その影響度を過大に考えると後で失望することになります。
その3、スズキにとっては痛しかゆし
先日、ロンドンの仲裁裁判所が裁定を出し、VWが所有していた19.9%の株のスズキ株をスズキに売却、スズキは約4,600億円をもって自己株として買い戻しました。その一方で、スズキも1.5%強保有していたVW株を売却、360億円強の現金を手にしました。VWの株価は中国の減速と今回の不正問題で大暴落、結果、スズキも想定していたよりも安い株価で買い戻すことが出来ましたが、同時にVW株売却に伴う現金の受け取りも、想定以上に小額となりました。
スズキは今回問題になっているディーゼルエンジンの技術を、VWから取得したかったので、最初に提携をした訳ですが、その欲しかったエンジンがこのような結果となり、心の内は複雑でしょう。結論から言えば、もらってなくてよかった、さもなければ、VW同様、プラットフォームやエンジンを共有化しているAudiやSeat、Skodaも不正対象に含まれたのと同様、スズキも今回の不正問題に巻き込まれたかもしれません。
(本シリーズ全4回、この記事は【“倒産”の可能性はほぼゼロ】~VWディーゼル車排ガス規制不正問題 4~に続く。【VWショック、発端は米国】~VWディーゼル車排ガス規制不正問題 1~,【米の厳しいNOx規制が引き金】~VWディーゼル車排ガス規制不正問題 2~も併せてお読みください。)