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.経済,ビジネス  投稿日:2015/6/11

[遠藤功治]【目の上のタンコブ、VWとの係争】~大手自動車会社の決算と今後の課題 スズキ 3~


遠藤功治(アドバンストリサーチジャパン マネージングディレクター)

「遠藤功治のオートモーティブ・フォーカス」

執筆記事プロフィール

(この記事は 【連結営利の6割がインド市場】~大手自動車会社の決算と今後の課題 スズキ 2~ の続きです。シリーズ全3回)

さて、現在のスズキの目の上のタンコブはVWとの係争です。スズキは永らくGMと提携をしてきた歴史がありますが、2009年にGMの経営が行きづまり、GMがスズキ株を売却します。その後、スズキは2009年12月にVWと包括提携、その理由は環境技術の習得です。

世界的な環境規制強化という流れの中で、スズキはハイブリッド車やディーゼルなどの面で、後れを取っていた、それを提携によってカバーしようとした訳です。VWの出資比率は19.9%。微妙ですが、独立を認め、持分適用にならないスレスレの線、ということです。スズキはVWにとって、完全独立のイコールパートナーである、という考えですが、VWから見るとやや違っていました。

やはりVWはスズキを自分の傘下の企業と認識、小型車開発や低コスト生産、インド市場などの開拓に、スズキを使いたかったということでしょう。提携からそれほど時間をおかずに、VWはアニュアルレポートの中でスズキを持分適用会社として位置づけました。スズキはこれに反発、その後、スズキがフィアットからディーゼルエンジンを調達したことで関係は更に悪化、スズキはVWに提携解消とスズキ株式の全株売却を要求、VWがこれを拒否、結果、2011年に、スズキがロンドンの国際仲裁裁判所に提訴、スズキ株の売却を求めている、というのが現状です。

さて提訴から既に3年半が経ちました。VWは今年3月に公表したアニュアルレポートの中で、“2015年前半には結論が出る見通し”と記載しました。スズキ・VW共にその帰結についてはノーコメントで、裁判所がどのような結論を出すのかは予断を許しませんが、仮にVWに対して株式売却の命令が出ると、その時価4,700億円余りの株式を、スズキが全株買い戻すことになります。スズキの利益剰余金は1兆円を超えますので、十分引き取ることは可能です。

ちなみにVWが2011年当時に購入した時のスズキの株価は2,000円前後、現在は4,300円ほどで、VWは純投資としても2,500億円以上の利益が出た計算になります。ちなみに、VWから買い取った後、スズキはこれをどうするかと言えば、VW以外との提携に利用する筈です。提携相手は出戻りでGM、ないしはフィアット、などの名前も出ています。反対に、裁判所がVWは株を売る必要は無い、との結論になった場合は、現状維持ということになります。

VWはスズキとの協定により、株の買い増しをすることは出来ません。共同研究などの提携関係は全く無いまま、この4,300億円がそのまま眠っている、という異常な関係となります。VWが株式売却に消極的なのは、自分たちが売れば、その後スズキが他社と提携をし、それがVWの不利益になる可能性があるからです。例えばスズキとフィアットが共同戦線を張り、インドのみならず、VWが強い欧州や中国市場、小型車市場で、強力なライバルになることを恐れての話です。いずれにせよ、裁判所の判断は、それほど遠くない将来に発表される模様です。

微妙な問題が今一つ。それは鈴木会長兼社長の後継者問題です。スズキと言えば、最後は必ずこの問題に行きつきます。鈴木会長兼社長85歳、ご本人は生涯現役で90歳でも社長を続けると言っていますが、さすがに後継者問題は近々の課題でしょう。一番の理想形は、VWが株式を売却してこの係争に終止符を打ち、次期中期経営計画などを発表、会長職専属となって、社長職は長男である俊宏副社長に譲り、新経営陣の下で計画を実践する、というものでしょうか。

他社との提携にしろ、後継者問題にしろ、いつもスズキはそれほど大きな会社ではなく、規模や技術水準、主力の小型車を中心とした収益性など、1社単独での生き残りが難しいのでは、という暗黙の了解の上に立って議論されがちです。本当にそうでしょうか、事実はやや違うように思います。スズキは既に300万台規模の会社で世界10位です。インドでは1位です。また最近スズキが出した新型車や新技術には目を見張るものが多くあります。エネチャージ、S-エネチャージに始まり、軽自動車初搭載のデュアルカメラブレーキサポート、新型アルトから採用された新開発プラットフォームと重量低減技術、ハイブリッド車並みの燃費、新型ディーゼルエンジン、AGSと呼ばれるトランスミッション、そしてハスラ―や新型ラパンで見せた新市場開拓への提案力、どれを取っても他社に比べ、決して劣るものではありません。

それでもトヨタ・マツダの提携を受け、大局的に見て、他社との相互補完的提携はBETTERなのかもしれませんが、これら新技術・新車種の相次ぐ登場を見るにつけ、次世代の経営力は、既に会社に備わっていると思うのは、私だけでしょうか。但し、昨年度末の会社最多である199万台のリコールは、戴けませんでしたが。

(このシリーズ全3回。 と  も合わせてお読みください)

タグ遠藤功治

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