[Japan In-depthチャンネルニコ生公式放送リポート]【2016国際情勢を占う~日中・日米関係の今後~】〜産経新聞ワシントン駐在客員特派員古森義久氏に聞く〜
2015年12月9日放送
Japan in-depth 編集部(Sana)
今年も残すところあとわずか、2015年は日本の今後を左右するであろう出来事が数多くあった。今月15日には日本漢字能力検定協会による「2015年の漢字が発表されるが、3名各々が考える「今年の漢字」を発表してもらった。まず古森氏は決起の「起」とし、「安保法案可決・成立から、国を取り巻く国際情勢に日本はようやく重い腰を挙げたと言える」と述べた。サブMCの小林は「JIDで最も多く取り上げられた安保法案」から一文字を取って「安」、そして安倍編集長は今年の流行語大賞にもなった「爆買い」の「爆」とした。
国内のニュースで一番話題になった「安保法案の可決・成立」だが、衆参での議論は深まったとは言えない。「SEALDsを始めとする国民のデモも含めて、“何のための法案”なのかがはっきりしなかったのではないか」と安倍編集長が述べると、古森氏は「安保法案は国内に限った問題ではない。反対論の方がメリハリも良く、一見最もらしかったが、“平和を脅かすものが何なのか”という議論の出発点が述べられていなかった」とし、日本にとって如何に重大な問題なのかを説かず事勿れ主義に徹してしまった政権に問題があると述べた。
加えて安保法案反対派の論点がずれていた点を指摘し、「反対派が“戦争反対”と言う場合の戦争は“侵略戦争”である。今回の法案で論点とされるべきだったのは“自衛戦争”についてだった」とした。審議が紆余曲折した中で、中国は南シナ海での人口島における軍事基地拡大に手を伸ばした。今年、一方安保法案が成立した背景として古森氏は「中国の言動が横暴になるなかで、アメリカの対中戦略が変わった。アメリカにとって(中国に物理的に近い)日本との同盟が重要になった」と述べた。
安保法案成立に際し、解釈改憲が問題視されたが、古森氏は「憲法は色々な意味で改正するべきだが、改憲のためには、国民投票と同時に両院の3分の2の賛成が必要だ。改憲が失敗とならないように、慎重を期するべきだ」と改憲を急ぐべきではないとの考えを示した。
10月末、アメリカは「航行の自由作戦」を中国に対し始動した。これは「南シナ海は古来中国の領土である」と主張し人工島建設を進める中国への牽制として、中国が主張する領海12カイリの内側にアメリカが艦船を送るという作戦であった。そのアメリカの行動を、古森氏は「ペンタゴンのブリーフなど聞いていると、これは「航行の自由作戦」といったものではなく、もっとずっと後退したものだということがわかってきた。レーダーを切ってまっすぐ航行したのみの“Innocent Passage(無害通過)”と呼ばれる(形式的な)ものだった。だからまたやらねば、という話になっている。オバマ政権は良く言えば慎重、悪く言えば弱腰。中国に対する非常にネガティブな世論を汲み取って重い腰を上げることになった」と述べた。また氏は中国の脅威として、人民解放軍が中心となって行うサイバーテロにも触れ、アメリカが人民解放軍の幹部を起訴したことも述べた。
話題は環太平洋連携協定(TPP)に移った。「TPPと言えば貿易や関税を思い浮かべる人が多いが、対中国包囲網であることを意識している人は少ない」とする古森氏に対し、安倍編集長は「アジアインフラ投資銀行(AIIB)でアジアなどに金をばらまく中国と日本はどう関わっていくのか」と質問した。それに対し古森氏は「中国は日本の領海に頻繁に侵入して来たり、二国間の通告無視してガス田建設を増やしたりしている。中国は日本を潜在敵視しているが、日本としては、戦略的互恵関係を保てばよい。中国が毎年大軍拡をしていることを、事実関係を把握して、議会で論じるべきだ」とした。安倍編集長もこうした国際情勢に目をつぶって論議していてはいけない、と同調した。
去年の6月にシリア・イラクで発生したIS(イスラム国)は勢力を拡大し、今年ケニア・エチオピア・パリ・マリなどでテロが発生。多くの犠牲が出た。古森氏は「アメリカは及び腰だがヨーロッパの方が先に出ている」と述べ、欧州がIS強硬策に傾いていると分析した。
一方古森氏は、日本では“ISと対話をしなくてはいけない”という論調が一部にあることに触れ、犠牲となったジャーナリスト後藤氏の事件を紹介して、「殺人犯を目の前にして話し合えというのか」と疑問を呈し、こうした論調は無責任だとした。
また「テロは貧困から生まれる」という意見に対し、「ISの潤沢な資金源は年間100億円近い。(収入の)50%が住民からの徴税、43%が麻薬や石油の密売である。余りにも現実を見ず、響の良いスローガン的なことを言う人が多い」と批判した。又古森氏は「イスラムとはなんなのか。イスラムの過激な部分をどうしたらいいのか、世界の大問題だ」と述べた。
安倍編集長が「シリア人が現在日本に数百人いる」という事実を述べたところ、「日本が『難民の地位に関する条約』に加盟したのは1981年。ベトナム戦争後、日本には今難民は5,000人近くらいいる」と紹介した。安倍編集長は、高度先進医療などを受けたいというシリア難民がいれば積極的に受け入れるべきだとの考えを示した。また、難民と移民は分けて考えるべきだと述べた。
話題は来年のアメリカ大統領選挙へ。「今のアメリカはリベラルなオバマ政権への反感が強い。共和党のジェブ・ブッシュ候補はどちらかと言うと強い保守ではなく、穏健なエスタブリッシュメントと見なされており、それで不人気なのでは」と古森氏は述べ、ドナルド・トランプ候補の人気については「本音で話したい人たちはかなりいて彼らにアピールしている。オバマ政権は貧しい人弱い人を政府の金で面倒を見る政策をとってきた。それを行き過ぎていると怒りを感じている白人の中年の男性の一部に煽りをやっている。」と応えた。
2016年はどんな年になるのだろうか。古森氏は「一言で言うと“混迷”米は大統領選があるし、中国やロシアなどにとってはチャンス。中国はもっと出てくる。テロも深刻な問題だが、超大国を団結させる機会と捉えられる。また北朝鮮に日本人が拉致されているという点も忘れてはいけない。北朝鮮の動きからも目を離してはいけない」と日本を取り巻くアジアの情勢と、テロの脅威について語った。
(この記事は、ニコ生【Japan In-depthチャンネル】2015年12月9日放送 を要約したものです)
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