「日本会議」を悪魔化する欧米メディア その1「ファシズムへの回帰」?
古森義久(ジャーナリスト・国際教養大学 客員教授)
「古森義久の内外透視」
「日本ではいまカルト集団が秘密裡に安倍晋三首相とも結託し、男女平等を失くし、外国人を除去し、日本を戦前の帝国主義へと引き戻そうとしている」――
こんなとてつもない「報道」が最近の米欧ニュースメディアの一部に流れ始めた。カルトとはふつう、「狂信的宗教集団」という意味である。そんな集団がいま現在の日本で安倍首相とも連携して、戦前の「危険な軍国主義、帝国主義への復活」を進めている、というのだ。
この報道でのカルトとは日本の民間政治団体の「日本会議」のことである。そしてその団体を危険な秘密結社扱いする冒頭の記述はアメリカのネット新聞「デーリー・ビースト」に7月中旬に掲載された記事からの紹介である。同記事は「宗教カルトが日本を秘密裡に支配する」というタイトルだった。
この「デーリー・ビースト」というネット新聞は大手のニューズウィーク誌とも連携して政治・文化のニュースや評論を伝え、年間2100万のアクセス数を誇っている。
この記事の筆者は日本を主要拠点とするアメリカ人のフリージャーナリスト、ジェイク・エーデルスタイン氏だった。同氏は英字読売の記者だったこともあり、日本の組織暴力についての著書もある。
この途方もない報道は最近の「日本会議」叩きの一環である。日本会議(田久保忠衛会長)とは民間の政治団体で、確かに保守派ではあるが、現実にはその活動にいまの民主主義の枠を壊そうとする形跡はまったくない。その主張は普通の日本人なら言わずもがなでわかっている常識の範囲内のことだといえよう。
日本会議は目指す運動目標として、以下のような項目を掲げる。
「美しい伝統の国柄を明日の日本へ」
「新しい時代にふさわしい新憲法の制定」
「国の名誉と国民の命を守る政治」
「日本の感性をはぐくむ教育の創造」
「国の安全を高め世界へ平和貢献」
「共生共栄の心で結ぶ世界との友好」
以上のような運動目標からは軍国主義や帝国主義の片鱗もうかがわれないのだ。
だがそれでもアメリカの一部メディアでは「日本会議・安倍晋三悪者論」が目立つ。極端な一例はアメリカの政治雑誌「ナショナル・レビュー」最新号掲載の「日本のファシズムへの回帰」と題する記事だった。
筆者は日本関連分野ではほぼ無名のジョシュ・ゲルトナーという人物だが、内容は安倍首相の率いる自民党が参院選で大勝し、日本会議の支持を得て憲法改正へと進むのは、日本がファシズムの国になることだと断じていた。
この記事も日本会議は明治憲法と、戦前同様の天皇制を復活させ、個人の自由の抑圧を狙うとした上で、安倍氏が主導する自民党の新憲法草案も全く同じ趣旨だと書いていた。だから日本は国際孤立の危険な道を暴走していくとも警告するのだった。
(その2に続く。全2回。この記事は雑誌「月刊テーミス」2016年9月号からの転載です。)