トランプ政権下で急速にしぼむリベラル勢力

古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)
【まとめ】
・トランプ政権下でリベラル系政治活動団体の資金が減少、活動や組織の規模縮小。
・民主党支持層の寄付金減少とトランプ政権の圧力が原因。
・LGBTQや女性・少数民族支援団体が大幅な人員削減を実施。
アメリカではドナルド・トランプ大統領の2期目の政権がスタートして約7週間、リベラル系の政治活動団体の縮小があいついで報じられるようになった。LGBTQ(性的少数者)の権利や女性・少数民族の割り当て雇用拡大を推す民間組織がトランプ政権の保守主義の波に押されて、資金が減り、年来の活動や組織の規模を減らすという実例が多数、明らかとなったのだ。いまのアメリカ政治での民主党系リベラル派への一般の支持の縮小の結果だとも受け取られている。
アメリカ大手紙のニューヨーク・タイムズは2月中旬の「リベラル派の献金者は失望のあまり、寄付を減らす」という見出しの長文の記事で民主党系リベラル派の活動団体への寄付が大幅に減り、その種のリベラル政治団体が人員を削減し、活動を縮小し始めた、という実態を詳しく報道した。
同記事はまず長年、民主党側の政治家や政治団体に巨額の寄付をしてきたシリコンバレーの実業家、ジェフ・スコール氏の話として、これまでの民主党支持の企業代表たちの間では民主党系への政治献金を大幅に縮小する傾向が顕著となったという。
スコール氏の言葉によると、その理由は共和党保守派のトランプ大統領の新政権の下では、民主党政治団体への一般の支持が減ったことや、トランプ政権が民主党側献金者へのなんらかの締めつけを始めるという懸念があることだとされる。
同報道によると、民主党側での政治寄付の献金が減った結果、民主党リベラル系の政治団体の縮小が伝えられるようになった。同報道は具体的には以下のような実例を伝えていた。時系列的にはいずれも昨年12月から今年2月中旬までの期間の出来事だという。
▽LGBTQの活動推進では全米でも最大の民間組織とされる「人権キャンペーン財団」(HRCF)は全スタッフの約20%を解雇した。この縮小は公式には「戦略的再編成」と称された。この財団は本部をワシントンにおき、全米約40州に支部を有する。
▽同じくLGBTQの大学生を支援する組織「GLSEN」は今年1月だけでニューヨーク本部の職員25人を解雇した。この組織は全米17州に支部を有する。
▽リベラリズム信奉者を公職に就かせる支援を活動目標とする政治組織「完結市民連合」(ECU)はワシントン本部の最高幹部14人のうち6人を削減した。理由は「組織の再編成」とされたが、実際には運営資金の減少だった。
▽民主党系のリベラリズム信奉者を連邦や州レベルの行政、立法の地位に就かせる活動団体「公職への立候補」(RFS)は全米組織全体のスタッフのうち35%を減らすという大幅な人員削減を実行した。
▽民主党の政策諮問の民間機関「アメリカ進歩センター」(CAP)はワシントン本部の要員22人を削減した。この削減は同本部全体の8%の人員削減となった。
以上のように民主党系の民間活動組織は軒並みに縮小という感じなのだ。その背景について前述のニューヨーク・タイムズの記事は民主党側の年来の高額献金者のリード・ホフマン氏の言葉をも紹介していた。
「民主党系の政治活動団体がいま縮小している最大の理由はそれら団体の運営に欠かせない一般からの寄付金の減少だろう。従来の民主党支持層のなかにはまずカマラ・ハリス候補の敗北に象徴された民主党勢力の後退への失望や不満が多い。またトランプ政権下での民主党寄り組織への高額献金はトランプ陣営からにらまれ、なんらかの圧力や制裁の措置が取られるのではないか、という懸念も存在する」
しかし共和党側の政治評論家はこの種の民主党支持の民間政治組織に対してはバイデン政権からはこれまでは政府資金がいくつかの迂回路をたどって補助金、育成資金として供与されていたが、トランプ政権になってすぐ、その種の公的資金の転用がなくなったことも、民主党リベラル系の団体の縮小につながった。と指摘している。
いずれにしてもアメリカの政治地図の画期的な変化はこんな部分でも明白となっている、ということである。
*この記事は日本戦略研究フォーラムのサイトに掲載された古森義久氏の論文の転載です。
トップ写真:ホワイトハウスで行われた知事会議で、スポーツ界におけるトランスジェンダー女性の問題について語るトランプ大統領(2025年2月21日ワシントンDC )出典: Win McNamee/Getty Images
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この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

