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.国際  投稿日:2025/3/10

日本での「トランプ叩き」の構造
その2 日米主要メディアの誤報


古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

古森義久の内外透視

【まとめ】
・米国ではかねてより主流メディアの大統領選報道が民主党寄りになっていた。
・アメリカの世論調査は保守派の意見が反映されにくい構造となっているにも関わらず、日本メディアはそれを鵜呑みにしている。
・日本メディアも民主党よりの報道をし、外国人タレントにトランプ批判をさせるといった姿勢が見られる。

 アメリカでの民主党を支持するメディアの偏向報道は、なにもいまに始まったことではない。私がアメリカ大統領選を初めて本格的に取材したのは、ジミー・カーター(民主党)対ロナルド・レーガン(共和党)による1980年の選挙だった。

このとき、私はカーターが勝利すると思い込んでいた。その理由は当時は世論調査が少なかったこともあり、ニューヨーク・タイムズとCBSという民主党寄りのメディアの報道による情報ばかりを吸収していたからだった。

 しかし、フタを開けたらレーガン大勝の結果に終わった。私はそこから、民主党寄りのメディアの報道や評論に大きな偏向があることを痛い思いで知ったのだった。それを踏まえて私は多くの関係者への取材を広げたが、共和党の政治家たちから、選挙を戦う際には「民主党とメディアという二つの敵がいる」と聞かされたことがよくあった。しかしそのメディアの偏向を非公式に非難はしても、正面からそれらのメディアの姿勢を否定し、対決するという共和党政治家はまずいなかった。

 その歴史を破って、民主党びいきのメディアに初めて正面から挑戦し、反撃したのがトランプ氏だったのである。だから民主党支持のメディア側もさらに過激になってトランプ氏を叩くことになったといえるだろう。

 大統領選挙の予測ではアメリカの世論調査も優劣や勝敗を大きく間違えた。その間違いを受けた日本側の主要メディアもそのミスを拡大してしまったといえる。

 最近のアメリカにおける世論調査は、電話や対面での質問、インターネットでの交信などの方法が混合した形で、あるいは個別に行われている。なかでも電話での調査が現在も多いとされているが、保守系の人々はリベラル系の人々と比較した際に調査機関の質問に応じる度合いが低いともいわれている。

 保守系の人たちは一般に自分の政治志向をあまり宣伝しない。また世論調査に対してもその実施機関が民主党傾斜だと認識する場合が多く、一種の不信から世論調査には応じないという実態が指摘されている。そんな状況から、各種世論調査の数字が現実を正確に反映していなかったといえるのである。

 「大接戦」というメディア側の希望的観測が外れたことを受け、アメリカでは大統領選の最大の敗者は、主要メディアと世論調査機関だともいわれている。実際、ワシントン・ポストやニューヨーク・タイムズ、CNNなどはいずれも結果を大きく読み間違えていた。

 日本のメディアも朝日新聞とニューヨーク・タイムズ、読売新聞とワシントン・ポストのようにアメリカの主要メディアと提携して、情報を受けていることが予測の外れにつながった部分がある。そもそもワシントン・ポストやニューヨーク・タイムズ、CNNなどは民主党寄りであるため、その世論調査も民主党に有利な結果が出やすくなる。

 日本のメディアは、大統領選の世論調査についてリアル・クリア・ポリティクス(RCP)というアメリカの機関が出す数字をもとにすることが多い。だがRCPは自分では世論調査をせず、ほかの多数の世論調査機関が出した数字を合計して、平均値を算出するだけのことしかしていない。だから個別の調査機関は民主党傾斜が多いため、RCPも民主党に有利な数字が算出され、その結果を鵜呑みにして報じ続けるために、日本側メディアも予測を外してしまうわけだ。

 私が長年、取材してきた経験でいえば、ラスムセンという機関が出す世論調査の結果が最も正確だと思う。ラスムセンはいまは全米で唯一、大統領の支持率を毎日、調査して発表しており、バイデン前大統領の支持率が低下し続けていたことも正確に報じていた。選挙戦中のラスムセンによる調査をみても、どちらの候補が優勢か、激戦州でどちらが勝っているかなどは2024年の大統領選のみならず、2016年や2020年をみてみても、実態に最も近い数字だった。ラスムセンの調査をみれば、支持率や選挙の動向を最もリアルタイムで知ることができ、客観的な報道もできる。

 ところが、日本のメディアはラスムセンの数字をまったく報じない。共和党が有利な世論調査を入口の段階で避ける、排するという傾向からだといえる。

 前述したように日本のメディアもほとんどが民主党寄り、いやむしろトランプ氏に対する事実に基づかない偏向や批判の報道はすさまじいものがある。

 多くのテレビ局は、アメリカ出身の人気タレントを起用してアメリカの政治を論評させていた。たとえば、お笑い芸人の「パックン」ことパトリック・ハーラン氏やタレントのデーブ・スペクター氏などがその典型例だった。彼らはトランプ氏への極端な悪口を繰り返していた。スペクター氏に至っては「トランプ支持者は愚かだ。バカなんだ、無知なんだ」と発言しており、本当に呆れてしまった。アメリカでは8000万人近くがトランプ氏に投票しており、彼らがみな愚かなのかといえば、そんなことはあるはずがない。そもそも外国で自分の国の政治指導者を叩き続けるというのは、なにかみじめな感じがする。

 パックン、スペクター両氏以外にも、民主党寄りのスタンスを取る日本文学研究者のロバート・キャンベル氏もNHKの地上波でアメリカの中東問題に対するスタンスなどを語っていた。

 なぜ、政治の専門家でもない外国人をコメンテーターとして、起用するのだろうか。それは、日本にはびこる外国人への崇拝からくるのか。メディアは自分たちの願望を外国人に述べさせることで、叶えようとしているのか、とも思ってしまう。

(その3につづく。その1
#この記事は月刊雑誌WILLの2025年4月号掲載の古森義久氏の『日本のメディアは何故トランプ叩きに終始するのか』という論文を一部、書き直しての転載です。 


冒頭写真)
左:第 40 代米国大統領 のロナルド・ウィルソン・レーガンが 1985 年に登場
右: 元米国大統領のジミー・カーターが 1986 年にロンドンで演説

出典)Keystone/Getty Images 




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