防衛省が大量発注した陸自と空自のCH‐47
清谷信一(防衛ジャーナリスト)
【まとめ】
・防衛省は2024年度予算で、陸自向け12機、空自向け5機の計17機のCH-47チヌーク大型輸送ヘリコプターを川崎重工に総額3088億円で発注。
・日本のヘリ産業は三菱重工、川崎重工、スバルの3社が存在するが、主な顧客は防衛省に限られ、コストが高い割に低品質。
・ヘリ産業を維持するならば、3社の統廃合や海外メーカーとの提携を進め、国内では整備を中心とした事業モデルへの転換が必要。
防衛省は2024年度予算で計上した陸上自衛隊および、航空自衛隊用にCH-47チヌーク大型輸送ヘリコプター17機を3088億円で川崎重工に発注した。これらはいずれも米軍の採用したボーイング社のCH-47Fブロック2をベースとしているが名称は陸自、空自とも現用と変わらずCH-47JA、CH-47Jのままであるとされている。陸上自衛隊向けのCH-47JAは12機が1611.1億円で、空自向けのCH-47Jは5機が714.2億円である。更に搭載電子機器はそれぞれ、約102.9億円、37.4億円となっている。初度費はCH-47JAが約348.4億円、CH-47Jが約183.5億円で両タイプ併せて531.9億円となっている。生産は従来通り川崎重工がライセンス生産する。ブロックIIのCH-47採用は米国、英国、ドイツに続き4番目である。
両モデルとも従来のJA、J同様により大きい機内燃料タンクを有した航続距離を延長した「Extended Range」で航続距離は約1000キロとなっている。
CH-47FブロックIIは、先進的なデジタルコックピットを採用し、機体が強化され、燃料タンクなども改良されて性能が向上している。また将来的なアップグレードや運用能力を拡大できるようになっている。
両モデルとも米軍とは異なるミサイル警報装置や自己防御システムが搭載される。陸自向けCH-47JAは音声データ及び記録装置が搭載されて、空自のCH-47Jにはパレットを載せるときにカーゴローダーと高さを合わせるための床レベリング装置が搭載される。調達単価はそれぞれ、176億円、196億円となっている。
防衛省は機動展開能力向上のために現有機体の更新状況を踏まえながら陸上自衛隊のCH-47を現在保有する50機を60機に、航空自衛隊のCH-47も同様に現在保有する15機から20機にすることを検討している。米軍では既存の旧型機をF型に改修して使用しているが、防衛省は費用対効果を考えて既存機のF型ブロック2への改修を行う予定は現時点ではないとのことである。
2023年度予算では防衛省は陸上自衛隊、航空自衛隊併せて34機の一括調達を予定していた。だが当初の予定では為替想定が1ドル108円と楽観的な想定で調達単価は76億円程度と想定されていたが、輸入コンポーネントなどコストが急騰したため調達単価が約2倍に高騰した。このため陸幕の予算要求枠に収まらなくなって、要求を見合わせて、2024年度に調達数を減らしての要求となった。現在の防衛力整備計画で調達予定の残りに17機を計画期間内に調達できるかは今後の課題となるだろう。
調達に関してヘリコプターのライセンス生産が適正な方式かどうは議論があるところだろう。単純に比較はできないが韓国は2022年に18機のCH-47F型の導入を決定し、そのパッケージコストは約15億ドルとなっている。18機で割ると1ドル150円としても125億円であり、パッケージには予備のレーダー、予備のエンジン6基、予備のミサイル警報装置4基、予備の無線機8セット、更にコンポーネント保持や技術、補修サポートなどが含まれている。対して今回の防衛省の調達は初度費込で総経費を割れば今回調達する17機の調達単価は約221億円であり、無論予備のエンジンなどは含まれていない。かなり割高だと言える。一般にライセンスコストは輸入より割高である。円安で日本国内の作業コストは米国より安いはずだが、この価格差である。
日本のヘリ産業に将来性はない。日本には三菱重工、川崎重工、スバルの3社があるが、顧客はほぼ防衛省だけだ。警察、消防、海上保安庁などの公的機関もほぼ外国製ヘリを採用している。例外は川重がエアバスヘリと共同開発したBK117だけだ。後はライセンス生産である。一国で3社もヘリメーカーが存在し、それが自国の「軍隊」だけが顧客といういびつな構造を持った国は他にはない。
本来他国のようにヘリメーカーは統廃合し、併せて世界の軍民市場に挑めるような開発力をつけるべきだが、国にもメーカーにもその気はない。将来にわたって自社開発をする技術力も、世界のマーケットでシェアをとっていくような、事業として自立するつもりもない。割高なライセンス国産品を防衛省に買ってもらい税金を浪費していくだけだ。
しかもライセンス国産といってもその実は単なる組み立てに近い。それは調達数が少ないからだ。川重が「ライセンス国産」していたAW101は海自(MCH-101)と文科省の南極観測用2機(CH-101)含めて十数機でしかなった。実質的に国内組み立てだったが、下手に国産化したコンポーネントのできが悪く、特に南極観測用の稼働率の低さは問題となった。しかも防衛省から代理店の丸紅に輸入よりもライセンス生産が安くなるように見積もりをださせたという。つまり高い調達費を払って低品質の国産化を意図的に選んだということになる。
陸自が採用したUH-2はベル社が開発したが 412EPIをベースとして共同412EPXだが共同開発とは名ばかりでほとんどベルが開発を担当した。しかも現代の軍用ヘリとしては速度が遅く、先の能登の震災派遣でも報道ヘリにどんどん追い抜かれていった。当初防衛省は調達単価を8億円としていたがそれよりも遥かに高くなっている。
率直に申し上げて、日本でヘリ産業を維持するメリットはなにもない。将来的に発展して自立できるような可能性もなく、割高なライセンス生産でひたすら防衛費を食いつぶすだけだ。40代、50代になっても引きこもって親に食わせてもらっている子供部屋おじさんと同じだ。メーカーとしても国としても生産性がないヘリ事業でリソースをムダ遣いするよりも生産的な部門に投入する方がメリットがある。
ヘリ産業を維持するのであれば、3社を統廃合して1社にし、CH-47や海自のSH-60シリーズなどは国産せずに、オフセットで米国メーカーが生産する一定のコンポーネントの割当を得、国内では整備するだけの方が事業としては遥か健全である。
トップ写真:CH-47チヌーク大型輸送ヘリコプター 2022年11月26日 群馬県新得村相馬ヶ原演習場
出典:Photo by Tomohiro Ohsumi/Getty Images
【訂正:2025年3月11日】
本文2箇所に誤りがありました。下記の通り訂正し、お詫び申し上げます。
訂正1
誤:「2024年度予算では防衛省は陸上自衛隊、
正:「2023年度予算では防衛省は陸上自衛隊、
訂正2
誤:「2025年度に調達数を減らしての要求となった。」
正:「2024年度に調達数を減らしての要求となった。」
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この記事を書いた人
清谷信一防衛ジャーナリスト
1962年生 防衛ジャーナリスト 作家。日本ペンクラブ会員。
2003~08年まで英国の軍事専門誌『ジェーンズ・ディフェン
東洋経済オンライン
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