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.国際  投稿日:2021/1/4

存亡の危機に瀕する米共和党


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2021#1」

2021年1月1-10日

【まとめ】

・米大統領選、共和党議員が投票結果へ「異議」表明する見通し。

・投票結果への異議は国民の信頼を失い、共和党存亡の危機につながる。

・ワシントンでは「権力」の切れ目が縁の切れ目。

謹賀新年

本年最初となる本原稿は、コロナ禍という事情もあり、新年3日の夜に書いている。おいおい、筆者ももう齢67になるのか。今年は特に「お正月!」という興奮のない新年となった。そもそも人が集まらないのだから。子供達、というか孫達も、当然やって来ない。これからは毎年、孫たちに電子マネーでお年玉を送る時代になるのかねぇ。

さて、米国では11月3日の米大統領選の決着が未だ着いていない。2000年にもブッシュ対ゴアの戦いが40日近く揉めたことはあった。だが、今回のように、本来なら「シャンシャン」のはずの「大統領選挙人」投票結果集計用の上下両院合同会議で、何と多くの共和党議員から投票結果への「異議」が表明される見通しだとは・・・・。

現時点で下院は140人以上、上院でも11人の共和党議員が選挙結果への異議申し立てをするらしい。この意味は何か。共和党政治家の劣化かって?いいや、そうではなかろう。個人的に内々話せば「バイデン勝利」に異を唱えるのは、トランプ氏を除けば、誰もいない筈。ジャヴァンカ(JaredとIvanka:娘と娘婿夫妻)だって同じだろう。

こうした共和党議員たちの行動は世の常識では非合理だが、政治的には極めて合理的である。例えば、4年後大統領選挙を目指す政治家、2年後に上院・下院議員の選挙出馬や再選を考えている輩にとっては、実に悩ましい状況だからだ。今トランプを無視すればトランプ票が逃げていくし、トランプに擦り寄れば浮動票が逃げていく

確かに政治的には正しい行動なのだが、一つだけ問題がある。これにより共和党は少なくとも分裂し、最悪の場合、多くの有権者の信頼を失ってしまう可能性があるからだ。つまり、GOP(Grand Old Party)を自負してきた誇り高き共和党が存亡の危機に瀕しているということ。これは日本だけでなく世界の同盟国にとって一大事である。

それではトランプ氏は今後も4年間「トランプ旋風」を吹かし続けることができるのか。結論から言えば、それは決して容易ではない。例えば、こんな話がある。元旦に米上院が、トランプ氏の拒否権にも拘らず、国防権限法を賛成81対反対13で再可決し、大統領の拒否権を初めて覆したという。

▲写真 トランプ氏 出典:Flickr; Gage Skidmore

いくらトランプ氏が「怖い」とはいえ、もう既にレームダック化した大統領だし、対象は超党派で可決された国防権限法である。トランプの神通力もようやく陰り始めたということなのか。さすがはワシントンだ、「カネ」の切れ目ではなく、「権力」の切れ目が縁の切れ目になるのだろうか。

昨年一年間の読者の皆さまのご愛読に感謝するとともに、今年もこの外交安保カレンダーを全力で書き続けていきたい。コロナに始まり終わった昨年とは異なり、今年こそはコロナに勝つと信じたい。これまで当たり前だったことがとても貴重であり、何事もないことが無上の幸福であることを、改めて噛み締めている。

2021年が皆さまにとって良い年となりますように!

〇アジア

王毅国務委員兼外相が「米新政権が理性を取り戻して対話を再開し、再び両国関係が正しい軌道に戻って協力することを望む」が、原因は米が中国を「最大の脅威」とみなしたことだ等と述べたそうだ。「理性を取り戻す」べきは一体どっちだと言いたい所だが、中国が如何に対米関係改善を欲しているかが良くわかる発言ではある。

▲写真 王毅国務委員兼外相 出典:ロシア大統領府

〇欧州・ロシア

大晦日の夜、フランスで約2500人が夜間外出禁止令を破り違法パーティーに参集、参加者が警察車両に火を付けるなどの衝突が起き、1200人以上に罰金が科されたという。「日本でもこれぐらい出来るようにすべき」との声もあるが、それってちょっと違うだろう。むしろ、仏社会の格差拡大の結果ではないのかね?

それとも日本の若者はこの種の騒ぎを起こすエネルギーもないのかしら。それはそれで、良いことなのだけど・・・ね。

〇中東

同じく大晦日の夜、レバノンで新年を祝う銃撃の弾がシリア人難民キャンプに落下し難民女性1人が死亡、ベイルート国際空港でも駐機中の中東航空機1機に流れ弾が当たったそうだ。いやはや、彼らはお祝いで頻繁に実弾を撃つから怖い。筆者の経験でも、この種の流れ弾は避けにくく、本当に怖かった。日本は本当に良いなあ。

〇南北アメリカ

旧聞に属するが、昨年クリスマスの日にナッシュビルで爆薬満載のキャンピングカーを自爆させた犯人は63歳の白人男性だったという。何らかの陰謀論者だったとの報道もあるが、狂信的白人至上主義者ではなかったようだ。いずれにせよ、米国内のテロ爆破事件は中東系より、白人至上主義系の過激派の方がはるかに危険である。

〇インド亜大陸

インドは新型コロナ感染確認者が1千万人を超え米国に次ぎ世界第二位だが、最近同国内で開発製造されたワクチンの緊急使用が承認されたという。ええっ、インドが?と訝る向きもあろうが、インドは途上国で必要な他の感染症ワクチンの6割を生産した実績もある医薬品大国、この点を忘れてはならない。今週はこのくらいにしておこう。

いつものとおり、この続きは来週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真:アイオワ州共和党大会で演説するトランプ氏 出典:Gage Skidmore




この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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