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.国際  投稿日:2020/10/18

米大統領選とメディア その1 今回の選挙の異端な点とは


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・「コロナ大感染」「中国」今回の大統領選はきわめて異色。

・トランプ氏と主要メディアの対立は敵対的に激しくなった。

・米メディアの政治的偏向は歴史的かつ構造的、組織的。

 

いまやアメリカの大統領選挙戦に全世界の強い関心が集まった。

 

2020年夏から秋にかけても日本のメディアでの報道や評論もますます熱気を帯びてきた。これから11月3日の投票日に向けて、その関心度と熱気はさらにエスカレートしていくだろう。

 

超大国アメリカの最高指導者がだれになるのかは当然ながら全世界に巨大な波を広げる。とくに日本のようなアメリカの同盟国への影響は大きい。国家安全保障をアメリカにゆだね、政治、経済、文化などでも緊密な絆を持つ諸国へのその波は激しいわけだ。

 

アメリカの次の大統領がどんな人物になるのかは、多くの諸国にとって自国の針路の再考を迫られるほどのインパクトを受けることとなるのである。

 

とくにいまの日本にとってはトランプ政権との間で同盟関係を緊密にすることに成功してきた安倍晋三首相が辞任したとあって、対米関係には大きな不安要因が生まれたといえる。そんな状況下ではアメリカの政権がこんごどうなるかは、日本にとっての比重をますます増すことにもなる。

 

今回のアメリカの選挙では現職の共和党のドナルド・トランプ大統領が再選を果たすのか。それとも対抗馬の民主党のジョセフ・バイデン前副大統領が勝利するのか。全世界が注視するわけである。

▲写真 トランプ大統領(左)とバイデン前副大統領(右) 出典:Emma Kaden

私もアメリカの首都ワシントンに本来の拠点をおくジャーナリストとしてこの選挙戦の報道や評論にあたっている。もっとも、いまは新型コロナウイルスのアメリカでの大感染のために東京に戻ったまま、インターネットを通じての遠隔の取材となっているが、アメリカにいても現状では方法は同じとなるだろう。

 

私はアメリカ大統領選挙の取材はじつに長い年月、回数も多く、手がけてきた。

 

なにしろ毎日新聞のワシントン駐在の特派員として初めて赴任したのは1976年秋だった。その年もちょうど大統領選挙が実施されていた。共和党の現職のジェラルド・フォード大統領と民主党の挑戦者のジミー・カーター候補の戦いだった。

 

この選挙キャンペーンの報道にも私は新任記者として先輩特派員の後に従って、かかわった。だが本格的な大統領選の取材は次回の4年後、1980年からだった。

 

それでも40年も前だから、ずいぶんと昔のことである。それ以降、私のワシントン駐在は現在にまでいたるが、ただしその間に東京に4年間、ロンドンに2年、北京に2年と、それぞれ滞在してきた。

 

そのうえに1987年には毎日新聞を退社して、産経新聞の記者となった。そしてまたワシントンでの報道活動を長い年月、続けることとなった。

 

しかし2013年にはその産経新聞でもフルタイムの社員から退社の形で客員特派員となった。だが取材の主対象のアメリカ、そしてその首都ワシントンは変わらない。そのワシントンでの報道活動では4年に1度の大統領選挙は主要行事となるわけである。

 

だから私はアメリカ大統領選挙は通算して10回近くも直接に報道してきたことになるが、その長い体験でもこの2020年の選挙戦はきわめて異色である。

 

まず第一の特徴はコロナウイルスの大感染である。

 

アメリカは9月の時点でも全世界最多の感染者600万人、死者18万を出した。国家や社会の機能はずたずたになった。そんななかでの全米での選挙活動や投票となると、障害があまりに多くなる。投票の方法さえも、通常の投票所を使うか、それとも郵便に頼るかで両候補の意見が対立した。

 

第二には、選挙キャンペーンに中国という要因が大きく浮かびあがったことである。

 

どの選挙でも主要争点というのはあるが、ほとんどは国内問題となる。だが今回はアメリカ全体にとっての中国という存在が多様な課題を生んで、大統領選でも対中政策をどうするかは両候補の間での大きな争点となったのだ。

 

第三にはトランプ大統領と主要メディアとの対立が敵対的といえるほど激しくなったことである。

 

選挙戦では重要な役割を果たす新聞やテレビの多くはトランプ大統領への反対を鮮明にするようになった。とくにニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、CNNテレビに代表される主要ニュースメディアのほとんどが反トランプのスタンスを明確にした。

 

さて以上のような特徴のなかで、この報告では第三のニュースメディアについて詳述することとする。アメリカの主要メディアが自国の政治報道では大きく偏るという現実は日本では意外と知られていない。

 

主要メディアの多くはアメリカの国政、とくに大統領選挙となると、民主党と一体になったような党派性を発揮する。共和党側の動向はきわめて否定的、批判的にしか報じない。

 

この点の実態を知っておかないと、アメリカの政治をみる場合に大きなミスを冒しかねないのである。

 

ニュースメディアとはもちろん新聞、テレビ、ラジオ、雑誌にいたるまでの報道機関のことである。いわゆるマスコミのことだ。

 

この政治的偏向は歴史的かつ構造的、組織的である。その古く深く強い潮流はいまやトランプ大統領とその政権に対してかつてない激しさでぶつかっている。

(その2につづく。全5回)

 

*この記事は一般財団法人「交詢社」発行の「交詢雑誌」令和二年九月特集号に「アメリカ大統領選とメディア」という題で掲載された古森義久氏の寄稿論文の転載です。

トップ写真:メディアの取材に応じるトランプ米大統領(2020年9月24日 ホワイトハウス)
出典:The White House


この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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