共和党は2024年の大統領選に勝てるのか
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2022#48」
2022年12月5-11日
【まとめ】
・トランプ前大統領の政治家としての勢いは落ちてきている。
・ジョージア州上院選で共和党候補の落選、トランプ企業集団(法人)に有罪宣告、1月6日の米議会襲撃事件でトランプ氏が「告発」対象となる可能性が出た。
・共和党は2024年の大統領選挙に勝てるのか、という本質的な疑問が党内に噴き出ている。
今週も掲載が遅れてしまった。今は未明のワシントンの定宿で、遅ればせながらこの原稿を書いている。先々週はモルドバの首都キシナウからセルビアの首都ベオグラードを訪れたが、今週の出張先は慣れ親しんだワシントン、しかも、今年二度目の出張なので、大きな変化はなかろうと思ってやって来た。ところが、おっとどっこい、どうやら2024年に向けて大きな動きがありそうな予兆がいくつか見え始めている。
第一は、ジョージア州選出上院議員選挙決選投票で民主党現職がトランプ系共和党候補に勝利したことだ。米国のリベラル系メディアは手放しの大喜び、まるでジョージア州でドナルド・トランプ氏が敗北したかのような報道ぶりだった。これに対し、保守系フォックスニュースは殆ど報じていない。夜の討論番組でも、選挙結果は「大したことはない」「選挙とはこんなもんだ」などと他人事のような扱いだった。裏を読めば、共和党内、特にトランプ支持者にはかなりのショックだった、ということだろう。
第二は、トランプ企業集団(法人)に対する税金詐欺ほか17件の容疑でニューヨーク州最高裁が有罪を宣告したことだ。あくまで不正の容疑は「法人」に対するもので、トランプ氏やその家族「個人」に対するものではない。しかし、こうした税金詐欺等の不正については、いずれ「個人」の刑事責任も問われる可能性があり、その場合政治的ダメージは決して小さくないだろう。
第三は、米国下院の1月6日議会襲撃調査特別委員会がこれまでの調査結果をもとに司法省に対してcriminal referral を行うと発表したことだ。ある記事では「刑事告発」と訳されていたが、この委員会に刑事「告発」する権限があるかどうかは現時点では分からない。あくまで「参照」なのかもしれないが、いずれにせよ、トランプ氏個人を「referral」の対象とするか否かが焦点となる。尤も仮に対象になっても、トランプ氏が闘いを止めることはないだろう。また、この下院特別委員会は共和党が多数を占める次期議会では廃止または活動しなくなる可能性が高いと思われる。
要するに、今回ワシントンに来て感じたことは、以前書いた通り、トランプ氏の政治家としての賞味期限が切れ始めているのではないか、ということだ。ジョージア州上院選の共和党候補は有名なアフリカ系スポーツ選手だったが、「候補者」としてはあまりにも弱かったと思う。そんな弱い候補を担ぎ出したのはトランプ自身だが、結局トランプ系候補は激戦州では勝てないのではないか、こんなことで共和党は2024年の大統領選挙に勝てるのか、という本質的な疑問が党内に噴き出ているのだ。
どこの国の政治もそうだが、勢いを持っている政治家は批判されないが、一度勢いを失うか、勢いを失い始めたと思われた途端、政敵はその政治家の足を引っ張り始めるものだ。来年はトランプ氏の政治家としての力量が試される年になるだろう。政治とは何と薄情なゲームなのだろう。
もう一つ、今回ワシントンに来て今更ながら感じたのはアメリカとサウジアラビアの関係の悪さだ。両国間というよりは、バイデンとムハンマッド皇太子の個人的確執というべきなのだろうが、両者の関係はもはや修復不能になりつつあるのかもしれない。このままでは、アメリカはともかく、バイデン政権はサウジアラビアを失うことになりかねない。今日は習近平がサウジアラビアを訪問するというニュースも流れていた。バイデン政権の皆さん、上手にやって下さいよ、と言いたいところである。
ちなみに、ワシントン行き機上にて、サッカーW杯でモロッコがスペインに勝利したというニュースに接した。これはアラブ世界にとって大ニュース、しかも、モロッコはベスト8に残った最初のアラブ国家だそうだ。ワオ、「昔はアラビア語でギリシャローマ文明を教えてやったあの後進スペイン」、でも「最近はアラブを見下す欧州スペイン」に、あろうことか、隣国のモロッコが勝ったのだ・・・。サウジ皇太子のアメリカ観にも通ずる、このアラブ人の複雑で微妙な高揚感と優越感が行間から感じられた。いやはや、ワールドカップでは凄いことが起きるものである。
〇アジア
予想通り、先週末中国では「異変」の再来は起きなかった。行きの全日空便で見たCNN(何と最近は飛行中にCNN生番組が見られる)によれば、中国当局は徐々にゼロコロナ政策を緩和しつつあるそうだ。本当かね?不必要と思われるような過度な措置が廃止されただけではないのか?希望的観測の報道は止めた方が良いのだが。
〇欧州・ロシア
ドイツ連邦検察庁が、連邦議会襲撃など国家転覆を狙った容疑でテロ武装組織の構成員ら25人を逮捕したそうだ。おお、ドイツよ、お前もか!議会襲撃といえば昨年1月6日の米議会襲撃の例もある。ドイツでは全容解明に向け全土で大規模な一斉捜査が始まったという。他国に波及しないと良いのだが・・・。
〇中東
カタルのワールドカップが日本では大盛り上がりだったが、中東屋の端くれでもある筆者からすると、W杯でもない限りカタルが脚光を浴びないのはちょっと寂しい。それにしても、よくドーハでワールドカップが開催できたものだと感心する。不愉快なことは多かったに違いないが、日本からのサポーター各位は無事帰国してほしい。
〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
トップ写真:2024年の米大統領選の再立候補を表明したトランプ前大統領(アメリカ フロリダ州パームビーチ 2022年11月15日) 出典:Photo by Joe Raedle/Getty Images
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この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表
1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。
2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。
2006年立命館大学客員教授。
2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。
2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)
言語:英語、中国語、アラビア語。
特技:サックス、ベースギター。
趣味:バンド活動。
各種メディアで評論活動。