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.国際  投稿日:2021/5/25

結構うまくいった米韓首脳会談


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2021#21」

2021年5月24-30日 

【まとめ】

・米韓首脳会談が5月21日に開催された。

・日本では「バイデン、韓国の中国包囲網引き込みに成功せず」等の報道も。

・文大統領は結構うまくやったし、米側もそれなりに韓国に配慮したと思う。

 

実は最近CIGSで新しいプロジェクトが始まっている。 CIGSの外交安保研究者が、国際政治に関心のある視聴者のため、毎週火曜日、その時点で最新の国際情勢を、20分間で、かつ大方の意表を突く視点から、分かり易く分析するネットテレビ番組だ。名称は「CIGS外交・安全保障TV」、今週のテーマは米韓首脳会談である。

既に報じられている通り、先週金曜日、文在寅韓国大統領は念願のホワイトハウスでバイデン米大統領と首脳会談を行った。菅義偉首相の訪米から遅れること一カ月、文大統領は「結果はこの上なく良かった。期待以上だった」、「北朝鮮に対話の準備ができているとのメッセージを送った」などと、文字通り自画自賛している。

 一方、日本では相変わらず韓国に厳しい。「嫌韓」の論説を書くと読者が増えるからだろうか。「バイデンは韓国の中国包囲網引き込みに成功せず」「ワクチン確保に失敗した文在寅」「北朝鮮では両者の思惑にずれ」といった記事が目立つ。朝鮮半島の専門家ではない筆者は「どっちもどっち」、即ち、基本的にどちらも信用していない。

 だが、それでは身も蓋もないので、今回は米韓首脳会談について一言。結論を先取りすれば、日本の韓国専門家の一部とは異なり、今回文在寅大統領は結構うまくやったし、米側もそれなりに韓国に配慮したと思っている。詳細は今週の毎日新聞政治プレミアに書いたので、どうかご一読願いたい。

 今週のもう一つのトピックは中東だ。実は先週、パレスチナ問題が「アラブの大義」ではなくなりつつある、という内容のコラムを英語で書いた。筆者が外務省に入った頃は、中東和平問題が解決しない限り、中東に安定はないと教わった。ところが今や、パレスチナ問題が解決しても、しなくても、中東の不安定は続く、というのが現実だ。

▲写真 停戦後、イスラエルの空爆で破壊された建物の瓦礫周辺に集まる住民 (パレスチナ ガザ地区 2021年5月22日) 出典:Fatima Shbair/Getty Images

 シンガポールの友人によれば、パレスチナ問題には三つの次元があるそうだ。第一はアラブ対イスラエルの紛争、第二がパレスチナ人内部の分裂、そして第三が地域の地政学的地殻変動である。今回のガザ衝突は、第一のアラブ・イスラエル対立の重要性が低下し、第三の米・イラン対立が最大の懸念材料となったことを象徴する。

 今回のガザ衝突との関連で日本の一部で問題視されたのが現職防衛副大臣の「イスラエルにはテロリストから自国を守る権利があります」「私達の心はイスラエルと共にあります」というツイートだった。主権国家に自国を守る権利があることは当然だから、このツイート、欧米、特にユダヤ系など一部コミュニティでは高く評価されていた。

 当然と言えば当然なのだが、日本では必ずしもそうではない。同副大臣は当初ツイートの撤回を拒否していたが、その後、自ら投稿を削除したそうだ。理由としては、「投稿をきっかけに皆さんが中東について議論をしてくれたという意味で、今回のツイートは一定の使命を果たした」からだという。分かり難いが、致し方ない説明ではある。

〇アジア 

武漢ウイルス研究所の3人の研究員が2019年11月に体調不良を訴えていたらしい。米情報機関報告書の内容が絶妙のタイミングでリークされたようだ。やっぱりね、というのは少し早いが、国際的にも詳細な調査を求める声が高まる可能性はある。だが、これも米中間の情報戦の一環と考えれば、驚くには当たらないだろう。

〇欧州・ロシア 

ベラルーシ当局がアテネからリトアニアに向かっていた外国の旅客機をハイジャックした。危険物が仕掛けられた可能性を理由にミンスク空港に緊急着陸させ、乗客だった26歳の反体制派ジャーナリストの身柄を拘束したという。信じ難いスパイ映画のような話だ。事実であれば、ベラルーシもロシアも、同じ穴の狢ということか。

中東 

 中東ではないが、イスラム関連で気になったことがある。新疆ウイグル自治区カシュガルにある中国最大モスクのイマームが「過激思想を広めた」として当局に拘束され、懲役15年の判決を受けたらしい。あれあれ、現職のイマームだけは止めた方が良い。下手をすると殉教者になり、中国への敵意が永遠に続くことになるからだ。

〇南北アメリカ 

先週米下院が、1月6日の議会襲撃事件に関する調査委員会を設置する法案を賛成多数で可決したが、上院での審議は未知数らしい。そう言えば、チェイニー元副大統領の娘でもある下院議員がトランプを厳しく批判し、下院共和党指導部幹部を解任されたっけ。まだトランプの影響力はかなり残っているようだ。

 インドのコロナ感染はまだ続いている。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは来週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真:共同記者会見に臨む文在寅韓国大統領とバイデン米大統領(2021年5月21日) 出典:Anna Moneymaker/Getty Images




この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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