米、ワクチンで民主・共和対立激化
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2020#32 2021年8月9-15日
【まとめ】
・日本とは逆に、ワクチンは余っているのに打とうとしない米国。
・米国では、ワクチンをめぐり、民主党と共和党で非難の応酬。
・人や国により、コロナに対する感覚やルールは様々。
17カ月振りの米国出張中、未明のワシントンでこの原稿を書いている。新型コロナワクチンは余っているのに、これを打とうとしない人々が何千万人もいる米国からみると、粛々と接種は進んでいるが、思うようにワクチンが打てない日本の方が、ずっとマトモに見えるから不思議である。
数日前に米国の一日の新規感染者数が再び10万人を超え、一週間前から40%近く急増しているのに、今日の数字をなぜかテレビは報じていない。この国では日本のように一日の新規感染者数で一喜一憂しない。無関心なのか、鷹揚なのかは知らないが、この国の「新型コロナ感覚」は人により、場所により、様々なのだろう。
今ワシントンでは日本では聞かない論争が起きている。その典型例がコロナワクチンをめぐる民主党と共和党の非難の応酬だ。ワクチン接種に前向きでないフロリダ州などで新規感染者が急増した。共和党系知事がマスクやワクチンの義務化に強硬に反対しているからだ。ここでもトランプ前大統領の影が見え隠れする。
当地ワシントンでも再びマスクをする人が急に増えたらしいが、これまた人や場所によって、マスクの着用から、握手の有無まで、千差万別だ。幸い今回は多くの対面訪問が実現したが、このままデルタ株感染が拡大すれば、来週には「雰囲気が変わるかもしれない」と言われた。筆者は運が良かったのかもしれない。
ワシントンではいつも、ホテルのTVで保守系FOXニュースとCNNなど中道リベラル局のニュース番組を15分おきに見比べている。4日前のFOXのトップニュースは「バイデン政権は南西部国境に押し寄せる新型コロナ感染の不法移民を放置」だった。新型コロナ禍が米国社会の分断を深刻化させている可能性が見て取れた。
保守派はバイデン政権を批判するが、まずはテキサス州などで米国市民のワクチン接種を義務化するのが筋だろう。だが、保守派の主張は「米国は自由の国であるにもかかわらず、連邦政府がマスク着用やワクチン接種を義務化するなら、合衆国憲法違反だ」という。なるほど、これでは論争は平行線となるのも当然だ。
米国への入国は簡単だったが、問題は日本帰国後である。空港での検査、専用アプリの活用、2週間の自己検疫というと、米国の友人たちは驚く。しかし、それが日本のルールだから仕方がないだろう。人口当たりの感染者数が日本と一桁違っても、アメリカにはアメリカのルールがあるのだから、これまた仕方ないのである。
〇アジア
10-13日に米韓両軍が危機管理参謀訓練を始め、16日からは朝鮮半島有事を想定した合同指揮所演習を実施するという。当然のことで、これをやらなければ軍の練度は確実に下がる。ところが、相変わらず北朝鮮の金与正・党副部長は韓国に「強い遺憾を表明」、合同指揮所演習は規模を縮小するらしい。これで大丈夫なのか?
〇欧州・ロシア
リトアニアが台湾代表処設立を認めたことに対し、中国は駐リトアニア大使の召還を決め、リトアニア側にも駐中国大使を引き揚げるよう要求、「直ちに誤った決定を正すよう促す」などと猛反発したそうだ。おいおい、大国中国が欧州の小国をこうも扱うのか。弱い者いじめする「いじめっ子」が愛されないことぐらい、分からないのかなあ。
〇中東
ワシントンではアフガニスタンからの米軍撤退について議論が続いている。最も正しい措置は数千の部隊を残し、現状維持を図ることで、理論的には決して不可能ではない。問題は米国人のメンタリティで、「米軍は勝った場所にしか長期駐留せず、負けた場所には残らない」からだ、と米国の友人が自虐的に笑った。これは正しい。
〇南北アメリカ
FOXニュースにトランプ前大統領が電話出演し、相変わらずの発言を繰り返していたが、トランプ再出馬の可能性も今のワシントンでは大きな話題の一つだ。結局出馬できないだろうという楽観論と、必ず出馬するという楽観(悲観)論が錯綜する。トランプ氏に直接聞くしかないが、筆者は「まだまだ意欲満々」と見ている。
〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは来週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
トップ写真)ワクチン義務化に反対してデモを行うニューヨーク市民
出典)Photo by Michael M. Santiago/Getty Images
あわせて読みたい
この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表
1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。
2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。
2006年立命館大学客員教授。
2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。
2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)
言語:英語、中国語、アラビア語。
特技:サックス、ベースギター。
趣味:バンド活動。
各種メディアで評論活動。