「香港人から見たウクライナ紛争」各国メディアのイメージ操作

Japan In-depth編集部(曹佳穎、横塚愛実、樊明軒、大林龍平)
「今、あなたの話が聞きたい」
【まとめ】
・香港出身の在日留学生、李氏にウクライナ問題についてインタビューを行った。
・ロシアメディアとイギリスメディアだと、同じ戦闘の映像でもナレーションが全く異なる。
・李氏は、ロシアとウクライナの関係と中国と香港の関係は異なると述べ、紛争解決のために大切なのは対話だと考えている。
ロシアがウクライナに侵攻し、未だに激しい戦闘は続いている。戦争の長期化が危ぶまれ国際的な混乱が起こる中、各国の人々はそれぞれ何を思っているのだろうか。
ウクライナ問題について様々な立場の人から意見を聞く「今、あなたの話が聞きたい」企画の第二弾。
今回話を聞いたのは、李さん。香港出身の在日留学生、現在大学3年生だ。
李さんはウクライナ紛争が勃発した後、ウクライナに大きな関心を寄せていた。多くの中国人と異なり、彼はロシアの反対側、ウクライナの立場に立っていた。
◼️ 李氏インタビュー
樊:今回のロシア紛争について、李さんの立場を教えてください。
李氏:僕の立場はやっぱりウクライナ派です。
樊:その理由は?
李氏:最初に侵攻する方が悪いし、軍事力だったらロシアのほうが強いでしょう?村上春樹さんの『卵と壁』という話があって、これは常に弱い者の立場に立つというもの。ウクライナは卵の立場で、その弱い方を守らなくてはならないと思う。
樊:ウクライナ紛争の情報はどのようなメディアを利用して入手しているのか?
李氏:中国のbilibiliというアプリでウクライナのニュースを見ていて、そのアプリ経由でロシアメディアも見ている。
樊:ロシアのメディアも使っている?何というメディアですか?
李氏:ロシア国営の新聞社だと思う。香港にはTVB(無綫電視)というテレビ局があって、昔は中立の立場だったが、香港が返還されてから中国寄りになっている。香港にはメディア規制はないので、どのメディアを見るかは完全に自分次第だ。
大林:香港人は、日本のメディアをみていますか?
李氏:僕はANNニュースと、日テレを見ている。留学生なので日本のメディアを見るが、香港にいる香港の人たちはほとんど利用していない。
樊:中国のメディアとロシアのメディア、TVBで得ている情報というのは、ロシアとウクライナどちら寄りなのか。
李氏:bilibiliやロシアの新聞社から得た情報はやはりロシア寄り。どちらも見てるからこそ分かるけど、面白い現象が起きていて、同じビデオでも日本やイギリスのナレーションと、中国やロシアでのナレーションが全く違う。
樊:それは面白いですね。今ロシアでは「ウクライナ人がウクライナ人を殺してる」とかいうプロパガンダがあると思うが、香港でそれを信じてる人は多い?
李氏:香港にはそれを信じている人はあまりいない。中国を批判する人が多いから。。笑
樊:ロシアに対する制裁は色々あると思うが、たとえばロシアのスポーツ選手のパラリンピックに出場禁止、IELTS(英語圏に留学を希望する人のための英語試験)の受験禁止などについてどう思う?
李氏:うーん、学生としては、これは難しいですね。
樊:そこまで気にしたことはない?
李氏:そうですね。
樊:李さんはウクライナに募金したと聞いたが?
李氏:ウクライナの大使館の口座に2万円振り込んだ。
樊:募金したことがウクライナで認知されたかどうか、ウクライナのほうに行き渡っていることが把握できているか?
李氏:ウクライナの大使館のツイッターで募金のメッセージがあり、それを見てから寄付をしたが、ウクライナに行っているかどうかは把握できてない。
樊:日本はウクライナへの募金数が結構多い。それが、ウクライナ現地にいる高垣さんにインタビューをしたところ、「キーウにいるが、日本から援助をもらっているということを現地で一度も聞いたことがない」と言っていた。香港の方はどうか?
李氏:多分日本と同じだ。
樊:ロシアとウクライナは同じスラブ民族であるが、中国と香港との関係に対応していると思うか?
李氏:やはり違うと思う。香港は独立したことがないので、いつもイギリスか中国かという他の国家の一部として扱われてきた。逆に、ウクライナは主権国家であり、イデオロギーとかが香港の人と大きな違いがあるはずだ。ウクライナとロシア、中国と香港、どちらも同じ民族だけど、若干違う。香港が独立したら、ウクライナの人と同じように思うかもしれないが。
樊:さっき話した現地にいる高垣さんが私たちに「日本人も突然こういった軟禁生活となってしまったり、殺されたりする危険性があることを知ってほしい。準備したり、考えたりすることだけはしてほしい」と話していた。李さんだったらどういう準備をしますか?
李氏:食べ物、食糧を確保することかな。
樊:もし、戦争に巻き込まれたらどうしますか?
李氏:海外に逃げるだろう。こんなことがあった。最近香港の政治は徐々に中国化しており、不安を抱く香港人が多くなっている。そして、イギリスやイギリス連邦に移住する人が増えている。特別行政区としての香港で生活するより、他の国にいく方が将来的にいいと考えている人が多いからだ。
画像)2021年6月12日、逃亡条改正案をめぐってイギリスで香港人によるデモ
出典)Photo by Laurel Chor/Getty Image
樊:香港にいる人は、ウクライナへの進攻に対してどう思っているのか?関心は高いか?
李氏:香港はもう中国の一部になっているので、ウクライナ侵攻に対する意識は薄い。それは戦争より鎮圧だと認識している人が多い。
樊:ウクライナ侵攻について当事者意識や関心をもっと高めた方がいいだろうか?
李氏:状況がまだはっきりしていないので、それに応じてどのような意識を持つのか決定するべきだと思う。
樊:ウクライナ紛争について伝えたいことはあるか?
李氏:弱い人を虐めるのはだめだ。暴力は良くないから、紛争等の問題がある時に、対話を通して問題解決することが大事だと思う。
「今、あなたの話が聞きたい」ウクライナ編第一弾はこちら
(続く)
李氏のインタビューは、2022年4月9日に行われた。
トップ写真:ロシアを非難する社会民主連線 出典:Photo by Anthony Kwan/Getty Images