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.国際  投稿日:2023/4/12

米、機密文書漏洩の衝撃


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2023#15

2023年4月10-16日

 

【まとめ】

・米国防総省機密文書がネット上に漏洩。

・ウクライナだけでなく、中東や中国に関する機密情報も漏洩の可能性あり。

・電子化で便利になったが、漏洩した場合の深刻度は数千倍、数百万倍に高まる。

 

まずは、今週の日本と世界の動きから。

10日月曜日 植田日銀新体制が始動したが、市場は固唾を飲んで新総裁の言動に一喜一憂するのか。時事通信は「内外の市場関係者に対する質の高い情報発信・受信力」を期待された新総裁は、市場だけでなく「政治との良好な関係を構築できるかも課題」で、「金融引き締めで長期金利が上昇すれば、国債の利払い負担が増すなど、政府と利害が対立する」恐れもある、などと報じた。一方、ワシントンでは世銀とIMFの一連の会合も始まる。さて、市場はどう反応するだろうか?

11日火曜日 Balikatanと呼ばれる米比間軍事演習が南シナ海で始まる。18日間の予定というから久しぶりの大規模訓練で、米国から約1万2000人、豪州から100人超が参加、日本もオブザーバー参加する予定だという 。米比2+2会合が開かれ、日米比などの多国間協力も進む。タイミング的にも、中国の台湾周辺軍事演習に対抗する形となったのは、単なる偶然だろうが・・・。他方、米大統領は故国のアイルランドを訪問する。

12日水曜日 G20財務省中銀総裁会合などがワシントンで開かれる。日銀新総裁は早速米国に出張、IMFC(国際通貨基金国際通貨金融委員会)にも出席するそうだ。お疲れ様です。

13日木曜日 ブラジル大統領とEU外交トップが訪中する。「戦狼」外交の失敗を反省した中国は新たな「微笑」外交で、国際政治への関与を高めようとしているのだろう。

15日土曜日 軽井沢で18日までG7外相会合が開かれ、米国からは国務長官が参加する。ブリンケン長官11日から英国、アイルランド、ベトナムを回り、15日に訪日する。米側は「ロシアによるウクライナ侵攻や自由で開かれたインド太平洋の推進」を議論し、核軍縮と不拡散に関しても「日本を含むG7のパートナーと議論を深める」、「ウクライナへの侵攻を続けるロシアの「責任を追及する」と述べている。どうやら、今週は忙しくなりそうだ。

先週筆者が注目したのは夥しい数の米国防総省機密文書がネット上に漏洩した事件である。しかも一回ではないらしい。最初はウクライナ関係、特にウクライナ軍事支援のスケジュールなどの最高機密がネット上に出回った。文書をスキャンしたPDF版ではなく、誰かが機密文書を携帯電話で撮影して流したらしく、文字は必ずしも鮮明ではない。だが、見る人が見れば、それはそれは「驚くべき内容」なのだそうだ。

これだけではない。その数日後、今度は100件以上の別の機密文書がネット上に流出したが、内容的にはウクライナだけでなく、中東や中国に関する機密情報も漏れているらしい。また、米有力紙は、流出した情報にはロシアだけでなく、同盟国である韓国やイスラエルの政府内通信を傍受していたことを示唆するものと報じた。

 しかし、それは別に驚く話ではないだろう。第二次大戦中に米国は最重要同盟国であるイギリスの軍事通信を傍受していたぐらいだから。米関係者は「恐らくはスノーデン事件以来最も有害な情報漏洩事件」と述べているという。米国の同盟国、特にファイブアイズ(英加豪NZ)は懸念を深めているとも報じられた。

 それにしても、最近の機密情報漏洩は規模が大き過ぎる。情報の電子化が進んだためか、メガバイトではなく、ギガバイト、場合によってはテラバイトの単位で情報が抜かれるのだから・・・。便利になった分、漏洩した場合の深刻度は数千倍、数百万倍高まるだろう。恐ろしい時代になったものだ。

 

 最後に、陸上自衛隊のヘリコプターが沖縄県の宮古島の周辺で消息を絶った事故について一言。事件発生から5日経ったが、隊員につながる有力な手がかりは今も不明だという。第8師団は精鋭の陸自の中でもエリート集団であるだけに、個人的にもショックは極めて大きい。とても心配だ。

 

〇アジア 

中国人民解放軍報道官は10日、台湾を取り囲む形で3日間続けてきた軍事演習が「成功裏に完了した」と発表したそうだ。台湾総統がカリフォルニアで米下院議長に会ったことへの報復として行われたようだが、当初中国側の動きは予想以上に鈍かった。共産党内で「弱腰過ぎる」とでも批判されたのだろうか。後出し的な発表に聞こえた。

〇欧州・ロシア

 ウクライナ戦争関連の機密情報流出について面白い議論がある。ウクライナ当局はロシアが偽情報キャンペーンを行っている可能性があるとするのに対し、ロシアを中心に軍事ブロガーたちは、今回の出来事はすべて、ロシア軍の司令官を惑わすための西側の画策の一環だと断じているそうだ。真実は一つのはずなのだが・・・。

〇中東

イランに続きサウジアラビアはロシアを通じシリアのアサド独裁政権との和解を試みていると報じられた。一部に「中露が主導して中東の勢力図を塗り替えている形で、大きな影響力を誇示してきた米国の地盤沈下が急速に進んでいる」と見る向きもあるが、筆者は単に中露が「招き入れられている」と見る。中露の評価は過大も過小もダメだ。

○南北アメリカ

米国の機密文書流出問題で、ニューヨーク・タイムズは韓国政府の通信を傍受したことを示す文書が含まれていたと報じたが、韓国大統領府関係者は「事実の把握が最優先だ。韓米同盟で形成された信頼関係に基づき、必要な場合は米国側に適当な措置を要請する」とのみ表明しているそうだ。アメリカは韓国に感謝すべきである。

〇インド亜大陸 

特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真:米、国防総省 2003年9月26日・バージニア州・アーリントン

出典:Photo by Andy Dunaway/USAF via Getty Images




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