ボリビアのリチウム開発権獲得 中国影響力増大へ
山崎真二(時事通信社元外信部長)
【まとめ】
・ボリビアのリチウム開発事業の国際入札で中国企業連合が落札。
・ボリビア国内では、アルセ左派政権が天然資源を中国に譲り渡したとの批判あり。
・中国のプラント建設予定地では反対運動も。
■「リチウム資源が中国の管理下に」との見方も
南米のボリビアは世界最大のリチウム資源国である。
米国地質研究所(USGS)のデータによると、ボリビアのリチウム埋蔵量は推定2,100万トンで全世界の4分の1近くを占める。しかし、ボリビア政府の政策、技術的問題、資金不足などから開発が遅れ、同国のリチウム生産量は年間540トン程度にとどまる。生産量世界一のオーストラリアの55,000トンには遠く及ばない。
ボリビア政府はこのほど、同国のリチウム鉱床開発事業をめぐる国際入札で中国の企業連合が落札したと発表した。同企業連合とボリビア・リチウム公社(YLB)との間で具体的な協力協定が締結された。この企業連合は世界最大のEVバッテリーメーカー「寧徳時代新能源科技」(CATL)が率いており、その子会社2社が加わっている。
CATLは、世界的観光地として知られるウユニ塩湖のあるボリビア南西部のポトシ県と、もう一つの塩湖が存在する中西部のオルロ県の2カ所で直接リチウム抽出(DLE)技術を使用した複数のプラントを建設する予定だ。現地メディアの報道によれば、CATLは第1段階で約11億ドルを投じてプラントを立ち上げるとともに道路や電力供給などのインフラ強化、炭酸リチウムの開発と製品化を行うという。
締結された協定ではCATLが炭酸リチウム生産チェーンの所有権を獲得するとされ、「ボリビアのリチウム資源が事実上、中国の管理下に置かれることになり、ボリビア経済全体に対する影響力が増大するだろう」(現地政治アナリスト)との見方も浮上している。
■2年後のリチウム電池輸出が目標
ボリビアは2006年から2019年まで反米左派のエボ・モラレス政権時代、大型の経済支援などによって中国の存在感が増した後、2019年発足のアニェス暫定政権下で親米外交に転じたが、2020年にアルセ現政権が成立、再び親中路線が強まっている。
こうした事情から、中国が今回リチウム開発権を獲得したことについてボリビア国内では「アルセ大統領はわれわれの貴重な天然資源を簡単な契約で中国に譲り渡した」(ボリビア有力紙「エル・ディアリオ」)といった批判の声が上がっている。
ラパスのサンアンドレス国立大のある政治学者は「リチウムの採掘・抽出は100パーセント国家が行うことを大前提とし、外国企業が参加してはならないという法律に反する」としてアルセ政権が中国企業連合を選定したことは「違法である」と指弾する。
一方、ボリビア・リチウム公社は「2カ所のプラントが完成すれば、純度99.5パーセントの電池用炭酸リチウムをそれぞれ年間最大2万5,000トン生産することが可能になる」と予測。
アルセ大統領も「ボリビアのリチウム工業化の時代がようやく始まる」と強調、「2025年第1四半期に国産原料を使用したリチウム電池の輸出を開始することが目標である」と楽観的見通しを表明している。
■“リチウム・トライアングル”支配狙う中国
ボリビア政府は落札の経緯や協定の詳細について明らかにしていない。野党勢力は協定締結の条件をすべて公開するよう要求、公開しないなら協定の実施を阻止する構えを見せている。さらにプラント建設予定のポトシやオルロ両県では先住民を中心とする市民団体が反対運動を展開する動きもあると伝えられる。
リチウム鉱床開発によって先住民の伝統的な生活が破壊されるとの懸念や環境汚染問題も指摘されている。ボリビア憲法が「天然資源開発に関し所有権は国家の独占的な権限」とした上で「地域住民との協議の下でのみ実施される」と規定されていることも、地元住民の反対が強い理由とみられる。
実際、2019年にエボ・モラレス政権がリチウム開発に関しドイツ企業との間で協定を結んだものの、現地住民の間で猛烈な反対運動が起きたことなどから、同協定がご破算になったこともある。
ただ、アルセ現政権は中国との強い結びつきがある上、リチウムの工業化を急ぎ、2025年の総選挙での勝利に結び付けたいとの思惑もあるといわれ、力で反対派を抑え込む可能性も取りざたされている。
ボリビア、アルゼンチン、チリ3国の国境地帯には世界のリチウム埋蔵量の約半分が埋まっているとされる“リチウム・トライアングル”がある。中国がその独占的支配を狙っているといわれる中、ボリビアでの動向に関係各国の注目が集まるのは確実だろう。
(了)
トップ写真:「ボリビアのウユニ塩湖にあるリピパイロットプラントでバンドフィルタープレスを操作する作業員」出典:Photo by Gaston Brito Miserocchi/Getty Images
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この記事を書いた人
山崎真二時事通信社元外信部長
南米特派員(ペルー駐在)、