トランプ再登場に身構えるキューバ、ブラジル、ベネズエラ 【2025年を占う!】中南米
山崎真二(時事通信社元外信部長)
【まとめ】
・トランプ前大統領の政権復帰はアメリカとキューバの関係悪化に繋がるだろう。
・また、ベネズエラでは次期大統領就任をめぐり緊張が高まっている。
・ブラジルはトランプ氏が政権を握ることで、中国との関係強化を模索している。
トランプ前米大統領の政権復帰は中南米にどんな影響を及ぼすのか。2025年の中南米各国の動きを対米関係を中心に予想してみた。
◇ 米・キューバ関係は逆戻りも
1月20日に発足する第2次トランプ政権がキューバに厳しい対応を取り、対立が高まる可能性がある。国務長官に起用される予定のルビオ上院議員は両親がキューバの共産主義体制から米国に逃れた亡命者であり、自身も対キューバ強硬派であることはよく知られている。ルビオ氏はかつてオバマ元大統領によるキューバとの国交回復にも強硬に反対を表明、今も対キューバ禁輸の緩和は許さないという立場だ。中南米研究者の間では、第2次トランプ政権下で米国の対キューバ関係が2015年の国交正常化以前のような状態に逆戻りするシナリオも取りざたされている。キューバのメディアは、ディアスカネル政権がトランプ再登板に全面対決する準備を整えているなどと伝えている。そのキューバを支持するメキシコは移民問題をめぐり米国との関係が緊張しそうだ。10月にトランプ氏とメキシコのシェインバウム大統領との会談が行われたが、米国への移民流入阻止に関して両者の見解の相違が露呈するなど、解決への道が開かれるかは不透明。不法移民流入などへの対抗措置としてメキシコに25%の関税を課すと表明しているトランプ氏が強引に出ればメキシコが反発するのは必至で関係悪化は避けられまい。
◇ マドゥロ大統領、3期目就任強硬か
当面の焦点はベネズエラの動向だ。ベネズエラでは1月10日、去る7月の大統領選で勝利したと主張するマドゥロ大統領が3期目の就任式を強行する方針である。一方、大統領選での野党統一候補でマドゥロ政権の不正操作を非難し、自分たちが勝利したと訴えるゴンサレス氏は亡命先のスペインから帰国する構えを見せている。当局の弾圧を逃れ国内に潜伏しているもう一人の野党指導者マチャド氏はマドゥロ大統領の3期目就任を阻止し、「ゴンサレス大統領」を誕生させるべく国民の結集を呼び掛けている。ゴンサレス氏が帰国すればマドゥロ政権によって直ちに拘束される公算が大きく、ベネズエラ国内では緊張が高まる。先の大統領選をめぐり「マドゥロ当選」を認めているのはキューバとニカラグアなどの反米左派政権とロシアおよび中国だ。米国やアルゼンチン、ペルー、チリ、ウルグアイなどの南米諸国は選挙の透明性に疑義を呈し、次期大統領に選出されたのはゴンサレス氏との認識を示している。こうした中、注目されるのは対ベネズエラ強硬派でもあるルビオ‶次期国務長官‶の出方。マドゥロ政権の退陣を目論み、制裁を一段と強化するかもしれない。
◇ 対中関係強化へ動くブラジル・ルラ大統領
ブラジルのルラ大統領がトランプ再登板に落胆していることは想像に難くない。ルラ大統領は先の米大統領選に際し、民主党副大統領のハリス候補への支持を公言していたからだ。アマゾンの熱帯雨林の保護など気候変動対策を最優先課題に掲げるルラ政権は「パリ協定」から再離脱するというトランプ氏とは真逆の立場にある。ブラジルは2025年、国連気候変動枠組み条約の第30回締約国会議(COP30)議長国を務めることになっており、トランプ次期政権の動きは大きな懸念材料だろう。ブラジルのルラ大統領は先ごろ、同国を公式訪問した中国の習近平国家主席と会談、経済協力分野で約40件の協定を締結するなど、外交関係の事実上格上げで合意した。中南米での中国の影響力拡大に警鐘を鳴らす次期トランプ政権が警戒を強めるのは必至。ブラジルと米国の関係冷却化を予想する向きは多い。中南米有力国の中でアルゼンチンはほぼ唯一、トランプ再登場を歓迎している。同国のミレイ大統領は‶アルゼンチンのトランプ”という異名をとるほど、政治手法がトランプ氏に似ているとの見方が専ら。外国首脳として初めて当選後のトランプ氏と会談し、注目を集めた。経済危機にあえぐアルゼンチンは国際通貨基金(IMF)の大型金融支援を必要としており、ミレイ大統領としてはIMF支援獲得に向けトランプ氏の助力に期待し、緊密関係の構築を図るとの見方も出ている。
トップ写真:ハバナ旧市街の道(2023年3月29日、キューバ)
出典:Photo by Giles Clarke for Getty Images