無料会員募集中
.経済  投稿日:2023/8/11

日本一超高層タワー「麻布台ヒルズ」11月開業 都市の磁力とは


安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

【まとめ】

・日本一の超高層タワー「麻布台ヒルズ」が11月に開業。

・次に「六本木5丁目プロジェクト」が控える。

・都心のオフィス需要は「二極分化」へ。

 

▲動画 “ヒルズの未来形”「麻布台ヒルズ」イメージムービー

六本木が大きく変わろうとしている。

7日、日本一高い超高層タワー「麻布台ヒルズ」が港区六本木に誕生した。高さ330メートル。東京タワーにほぼ匹敵する高さだ。

アークヒルズ、六本木ヒルズ、愛宕グリーンヒルズ、表参道ヒルズ、元麻布ヒルズ、オランダヒルズ、虎ノ門ヒルズなど、いわゆる「ヒルズ」シリーズに新しい仲間が誕生した。

森ビル株式会社が、約300件の権利者とおよそ35年かけて進めてきた「麻布台ヒルズ」。開業は2023年11月24日(金)に決まった。

「麻布台ヒルズ」のコンセプトは、”Modern Urban Village~緑に包まれ、人と人をつなぐ「広場」のような街~”。”Green & Wellness”人々が自然と調和しながら、心身ともに健康で豊かに生きることを目指す街を謳う。

計画では、約8.1haの広大な土地に、約24,000m²(2.4ha)が緑化される予定だ。敷地の約3割が緑で覆われる。

▲写真 グリーンイメージ©DBOX for Mori Building Co.,Ltd. – Azabudai Hills

建物の延床面積約861,700m²、オフィス、住宅、商業施設、文化施設、教育機関や医療機関など、都市機能を集積させた。

たとえば、「慶應義塾大学予防医療センター」や、都心最大規模のインターナショナルスクール「ブリティッシュ・スクール・イン 東京」、世界初となるアマンの姉妹ブランドホテル「ジャヌ東京」、ベンチャーキャピタル約70社が集結する「Tokyo Venture Capital Hub」、ラグジュアリーブランドや「麻布台ヒルズ マーケット」など約150の店舗に加え、お台場で人気を博した「森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボボーダレス」などが開業する。エクスパット(外国企業の日本駐在員)需要にも応えることができるようにした。一部施設は2023年12月以降、順次開業予定だという。

▲図「麻布台ヒルズ」見取り図 出典:森ビルプレスリリース

質疑応答では、働き方の変化がオフィス需要に与える影響について質問が出た。

辻慎吾森ビル社長は、「コロナ前のように朝一斉に出勤し、夕方一斉に帰るという働き方ではなくなる。すべてリモートにはならない」と述べた。

そのうえで、「アイデアを創出したり、人を育てたり、企業文化を作ったり、新しいビジネスを生み出したり、そういったことはやはりあるスペースの中でいろんな人が集まって利用して、その中で生まれてくる」とした。

実際、大手のIT企業はリモートワークを続けながらも、人が集まって議論できるスペースを拡張したい、という要望が強いとも語った。さらに、「人の本質も人を受け入れる都市の本質も変わらないだろう」とした。

▲写真「麻布台ヒルズ」の模型の前に立つ森ビル株式会社辻慎吾社長社 ©Japan In-depth編集部

こうした中、オフィス仲介最大手の三幸エステートは、10日、「最新オフィスマーケットレポート」を発表した。それによると、今年7月度の東京都心5区(千代田区、中央区、港区、新宿区、渋谷区)の大規模ビルの空室率は、5.15%と3月以来の5%台に乗せた。新築ビルや統合移転により生じた空室が上昇要因だ。

新しく設備の良いビルのオフィスは引き合いが強いが、古いビルに分散していたオフィスを統合して外に出る企業も多いと思われ、そうした動きが空室率を押し上げているとみられる。

辻氏は、麻布台ヒルズのオフィスの契約の見通しについて、「現時点で約5割は埋まっており、年度内に100%にしたい」と自信をのぞかせた。

▲写真 麻布台ヒルズ全景©DBOX for Mori Building Co.,Ltd. – Azabudai Hills

■ 六本木5丁目プロジェクト

一方、森ビルはもう一つの巨大プロジェクトを同じ六本木地区に抱えている。それが「六本木5丁目プロジェクト」だ。

下の図をみると、麻布台ヒルズから六本木交差点に向かって、バブル時代に一世を風靡したロアビルから鳥居坂を下って麻布十番方面に伸びる一角だ。六本木ヒルズに隣接している。正確には「六本木5丁目西地区再開発」、通称「第2六本木ヒルズ」とも言われる。

森ビルと住友不動産が開発事業主となり、麻布台ヒルズよりもさらに大きい10ヘクタール程度の超大型プロジェクトだ。2025年度に着工し、2030年度の竣工を目指している。A街区からE街区に分かれており、A街区とB街区に建つ超高層ビルにもオフィスが入る。

2027年には、三菱地所が進めている、地上63階、高さ約390メートルの「Torch Tower」が東京駅前に竣工する。それまでは、都内に大きなプロジェクトはない。今後は六本木地区や渋谷地区、それに大丸有(大手町、丸の内、有楽町)地区など、交通利便性が高く、かつ耐震性や環境に配慮した新しいビルが多い地域のオフィス需要は高止まりし、それ以外は空室率が増えるという「二極分化」が進むと思われる。

▲図 森ビル主要プロジェクト 出典:森ビル

■ 都市の磁力

「麻布台ヒルズ」は街としての多様性が醸し出す、人を惹きつける魅力を高める設計となっている。森稔社長の時代、筆者がフジテレビで立ち上げに携わったBSフジの「プライムニュース」に財界人として真っ先に出演してくれた。その時主張されていたのが、「ヴァーティカル・ガーデン・シティ」構想だ。立体緑園都市と訳される。住む、働く、遊ぶ、学ぶ、憩う、など多様な都市機能が集約された、人を惹きつける「磁力」のある都市を作ることが必要だと説いておられた。そのフィロソフィーは今も森ビルの街づくりに生きている。

もう一つ、都市の最大の課題と言ってもよい災害対策に対する森ビルの姿勢も特筆すべきだ。「逃げ出す街」から「逃げ込める街」へ、のスローガンの通り、地域の防災拠点としての機能を重視しているところが他のデベロッパーと一線を画す。

かつて六本木ヒルズで災害対策について港区と協議したら、区は災害時に港区民以外の人には対応しない、との回答だったという。自治体としては確かにそうだろう。それならばと森ビルはヒルズに入居しているテナントの従業員やオフィスで働く人、ショッピングや遊びに来ている人も、帰宅困難者となったらすべて受け入れる体制を構築した。

非常用食料、水はもとより、防寒用毛布などを常備、六本木ヒルズでは 5,000 人、虎ノ門.ヒルズでは 3,600 人の帰宅困難者受入れ体制を確保.していることは我々メディアの世界ではつとに知られている。なぜなら、避難訓練などを定期的に行い、それをメディアに公開しているからだ。

麻布台ヒルズが完成すれば、森ビルが運営する施設全体で約1.4万人の帰宅困難者の受け入れが可能になり、備蓄食料は約36万食に上るという。知らない人もいるかもしれないので敢えてここに記す。

官が動かなければ民が動く、東京を魅力的で住みやすい街にするためには、民による多角的な街づくりが必要なのだ。

▲写真 52階オフィスフロアからの眺望 ©Japan In-depth

都市は生き物だ。絶えず変化し成長もするし衰えもする。ただ便利なだけでは、人が集うことはない。

都市の持つ「磁力」とは一体何なのか。そこに住み、働く我々がその問いを考え続けることが、東京の未来を明るいものにするのではないだろうか。都市とはただのコンクリートの塊ではなく、私たちひとりひとりの集合体なのだ。高さ330メートルの麻布台ヒルズ最上階から都心を見下ろし、そんなことを考えた。

Azabudai Hills movie 2023|GREEN, LIFE, TOKYO.

トップ写真:麻布台ヒルズ外観(森ビル提供)




この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."