【103万円の壁】「デフレに戻るか、経済の好循環に移行するか、今まさに分岐点にいる」国民民主党古川元久税調会長
安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)
【まとめ】
・「103万円の壁」引き上げを巡る与野党協議、始まる。
・協議の最重点は、103万円の壁引き上げとガソリン減税。
・日本は、もう一回デフレに戻るか、経済の好循環に移行するか、今まさに経済の分岐点にいる。
安倍:昨日(19日)与党と合意しました。ただ、何も数字は書いてない。これからですよね。
古川:玉木代表も「壁が動いた」って言ってますけど、要するに登山口に立ったみたいなものですよ。これから登る山は、エベレストみたいな8000m級の山で、しかもこの山登るとき、我々だけじゃなく与党にも一緒に登ってもらわないといけない。与党もとりあえず登山しようということだけは約束した、というのが今の状況です。
安倍:今後のタイムスケジュールなんですが、年末まで時間ないですよね。どういうタイムスケジュールで進めるんですか。
古川:歳入の部分が決まらなきゃ歳出も決まりません。与党は予算編成の前に税制改正大綱をまとめなきゃいけない。だからこの1ヶ月間でこの山を登れるか、登れないかということです。
安倍:マスコミからはいくらだったら妥協するのか、みたいな質問が来ますよね。128万円ですか、138万円ですか、とか。
古川:バナナのたたき売りじゃないんですよ。うちは根拠なく178万円と言ってるわけではないんです。最低賃金のこの30年間の上昇率で計算して178万円を出しているので。だから昨日も、最初の3党協議をやった時、うちは最低賃金を基準にして178万円を出したので、そちらが違うと言うのなら、いくら下げるとかじゃなくて、こういう根拠でこうだ、というのを示してくれと。そうしたらそこは話を聞くと。どちらの根拠がいいのかとか妥当なのかとかそういう議論はできるけど、根拠なくいくらならどうか、という話はないですよ、と申し上げました。
安倍:与党側は178万円を飲みそうな雰囲気なんですか。それとも固い感じなんですか。
古川:これは全くわからないです。ぜひ理解してもらいたいのは、今回のこの協議というのは、過去にやったことがないものなんです。我々は与党ではないし、閣外協力でもない。野党なんですよ。普通、野党と与党は税制協議なんかしないのです。与党は税制改正大綱という歳入全体の協議をするのですが、我々はその協議に入るわけではないんです。
■ 協議の重点
安倍:与党との協議の重点は?
古川:最重点は103万円の壁とガソリン減税です。あと重点項目で所得税の減税とか、この前の選挙で重点として打ち出した20項目とか税に関わるところを出しましたが、全部議論しろということではない。こちらも時間ないですし、与党の協議に入るわけじゃないんで。だからこちらメニューを出したので、これだけは最低限協議をさせてもらいたいと思っています。そちらとして協議をしてもいいというものを打ち返してくれ、というのを昨日出したんです。
安倍:次の協議はいつですか。
古川:まだ決まってないです。来週のどこかです。
安倍:178万円を自公が呑まなかったら国民は怒ると思いますよ。
古川:メディアの方は役所のレクをそのまま流すわけですよ。本当にメディアの皆さんも考えないと。これは問題ですよ。まだ協議も始まってなくて、うちが言ってる約178万円というだけで具体的な中身が決まってるわけでもないのに、何兆円も減税になるとか、税収が穴が開くとか。これ、単純な計算をしてやってるわけですよね。税制度をいじるのは所得税の話だけで、そこの増減でしょう。こっちで穴が開くんだったら、こっちを増税しようとか、考える責任は与党にあるんです。
私が「考えるのは与党の責任でしょう」と言ったら、「それは無責任だ!」とか言われるのですが、与党は全部まとめる責任も権限もあるわけです。我々は全部に関わる権利も責任もない。うちの提案を(与党が))税法に対する賛否を考える参考にさせてもらう、ということで協議してるだけです。歳入全体をどうするんだとかは与党が考える話なので、これもみんなメディアが霞ヶ関から言われたことをそのまま垂れ流しています。
安倍:知事会も反対していますね。
古川:知事会が税収が足らなくなる、と言ってますが、制度的に言ったら基礎的行政需要(編集部注:地域住民の暮らしに密着した行政サービス)に必要な経費は、減ったらちゃんと地方交付税で補填します。地方交付税の算定になって、ゴミ収集者が収集できなくなるとか、保育サービスができなくなるとか、制度上、理屈的にないはずなんです。国の問題であって、地方の税収が減って行政サービスができなくなるなんていうのは制度上おかしい。
それに知事会は、毎年、政府与党に対して税制改正要望を出して地方の取り分を増やすよう要求してるけど、増やす財源をどうするか、何も言ってません。どう増やすかは、国が考えてやることだって言う。うちが言ってることが無責任だというなら、知事会もこれから国・与党に要望を出す時には増やす分はこちらの税を上げてください、とちゃんと財源を示して言わないといけないですよね。
安倍:社会保障の壁についても検討しなくてはいけない、という意見については。
古川:我々は税の話しかしてないんです。もちろん社会保険の壁もあります。しかし、税と社会保険を一体的に、と言ってる限り、結局何も変わらないんですよ。まずは税は税でやって、一つずつ片付けていかないと。全部セットでないとやらないというのは、(税を)やらないための理由としか私には思えません。
私も与党の立場だったとき、税と社会保障の一体改革があって、全体まとめようとして一気にセットでやろうとすると、税収も、これは国が、地方が、となり、微妙なバランスを崩すのはすごく大変になります。新しいバランスに持っていくのが本当に複雑怪奇で、結局この微妙なバランスをずっと保ってきているのが今の状況なんです。
でもこれがずっと続くのかって言ったらもう続かないわけですよ。であれば、こっちを動かせば(バランスが)崩れます。壊れます。でも、壊れたら、次どうするかと一つずつ考えていけばいい。税の話をするところに社会保障の話も一緒に加えて議論するとわけがわからなくなります。
安倍:まずはこの103万円の壁をどうするかが、国民の手取りを増やす一合目だということですね?
古川:特に今回、働いている人たちもそうだけど、雇ってる側は人手不足が深刻なんです。今の経済は需要不足じゃなくて供給不足なんです。供給力、労働力不足。せっかく需要があるのに人がいないから、ホテルなんか最近人がいないから満室にできない。深刻な労働力不足は今後もっと進みます。こんな安い給料だと外国人すら来ない。逆に、今日本の若い人が外国で働いた方が給料が高いからって外に行く時代になっちゃった。
写真)国民民主党古川元久税調会長 2024年11月21日 東京・千代田区
ⒸJapan In-depth編集部
安倍:若い人に人気のあるワーキングホリデーですね。
古川:今、ようやく30年ぶりのデフレから脱却して物価が上がり始めた。賃金もちょっと上がってきて、この状況でとにかく物価を少し落ち着かせて、実質賃金が継続して上がる状況を作れるかどうか。そういう状況になれば現役世代の賃金が上がります。
2004年の100年安心の年金プランという年金改革の時は、現役世代の保険料収入が減れば年金も下げる制度にしました。その時私は、「国民感情を無視したそろばん勘定はありえない」と言ったのです。確かにそろばん勘定の上では年金制度は破綻しない。「入るを量りて出ずるを制す」をしてるのですから。今もそういう年金制度だから結局上がらないわけです。現役世代の給料は、ちょっとだけ今年上がったのですが、年金が増えるのも含めて実質賃金が上がる状況にまではなっていません。要するに手取りが増えるような政策的な支えをしないと。
今もだんだん消費が弱くなってきていて、いろんなところが値引きセールを始めています。大手がまず最初に値引きセールをやる。そうすると結局、中小も儲けが減るのを覚悟で値引きせざるをえない。そうすると、そこで働いている人たちの給料を上げられなくなるから当然消費が上がらない。もう一回デフレに戻るか、あるいは経済の好循環に移行するかという、今まさに経済の分岐点にいます。だからここは短期的な財政の収支とか考えるのではなく、経済が本当に好循環に行けるか、また戻るか、ということだとおもう。車でいうとギアがバックに入って後ろに下がっていたのが、ようやくニュートラルに来て、バックが止まったところです。止まってる車を動かすのにはガソリンがかかるわけですよまずね。まず動かさなきゃいけない。今はその段階だと思っています。
アベノミクスみたいなことをやれる余力はもう日本経済にはないから、この最後のチャンスを生かすしかない。やはり中長期で考えたら目先少々赤字になろうとアクセル踏んでとにかく経済を前に回す時だと思っています。
安倍:今ようやく富士山の一合目に来たと。五合目まで登りたいといった時にアクセル踏まなかったら登れないどころか、また下がっちゃうということですね。
古川:そういうことです。そういう経済の認識だから、政治は公務員の給料上げられても民間の給料は上げられません。(民間が)儲からないと(給料は)上げられない。時間がかかるんですよ。時間がかかる間、政策的にできるのは何かといったら、減税とか生活コストの負担を軽減することでしょう。だからそこでやっていこうということなんです。
トップ写真:国民民主党古川元久税調会長 2024年11月21日 東京・千代田区
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(了)