人生100年時代~渋川智明のタイブレーク社会に直視線⑨~日本の介護その3「草の根介護の経営支援と介護難民救済」
渋川智明(東北公益文科大学名誉教授)
【まとめ】
・介護人材不足は2040年問題で、今後も加速する
・良質な外国人介護人材の処遇・就労環境の改善なければ、海外流出も
・自宅で訪問介護を受けたい人が介護難民にならない経営支援を
介護人材60万人分が不足
団塊世代の2025年問題は今、まさに直面している。現在時点でも約240万人の介護職員が必要で約25万人が不足する見込み。団塊ジュニアが高齢化する2040年問題も控え、介護分野の人材は増えたが、要介護者が上回り人材不足はより深刻になる。今後、介護人材270万人が必要で60万人分近くが不足するとの予測もある。
これまで前2回にわたり、2025年4月から「技能実習」、「特定技能」の外国人介護人材を新たに訪問介護にも拡大解禁した政策を詳細に報告してきた。
日本人の居宅や居室を訪問する訪問介護は日本語の問題を始めとして、生活習慣や暮らしのスタイルにどう適応できるか、という問題、課題も検証してきた。「時期尚早」との意見もあるが、極端な人手不足に直面して、外国人材の訪問介護参入拡大策が推進された経緯から、受け入れる側の体制整備と理解が必要なことは言うまでもない。
2017年から、原則、介護福祉士の資格取得が必要になったが、現在は経過措置として、介護福祉士養成施設を卒業した人は、介護現場で働き続ければ、特例で時限的に登録の継続ができる。特例延長の議論もあるが、養成施設の入学者数は特例の廃止が近づき、志願者の減少傾向が続いている。低賃金、重労働など、介護の就労環境も影響している。
良質な外国人介護人材の待遇改善と流出防止策 外国人介護人材は、EPA(二国間協定)のインドネシア、ベトナム、フィリッピンを含む上位5か国で9割以上となっている。東南アジアの介護人材は勤務状況や人当たりが柔軟で、介護ヘルパーを求める国も多い。アジア人は家族観や親を介護する生活スタイルが残っている国も多く、日本人の家族観に比較的近い。
しかし給与や就労環境の厳しさに不満を抱いて、帰国する、或いは、もっと待遇の良い海外の国への流出者もいる。世界的な少子高齢化で、ヨーローッパなども外国人の介護人材を求める国も多い。とくに英語圏の国出身者は需要が多い。
これからは外国人の介護人材が就労したい国を選ぶ時代になるかも知れない。また日本人事業者、要介護者が、国による言語、生活習慣、暮らし方の違いを超えて、どのように外国人介護材と接し、受け入れるか、本格的に問われることになる。克服しなければならない課題は多い。
受け入れのための体制整備をする際、スタッフや資力に余裕のある大手企業の居住系サービス、具体的にはサービス付き高齢者住宅(サ高住)や有料老人ホームは外国人の受け入れも前向きにとらえる傾向が出る、との予測もある。小規模事業者は受け入れにさらに時間がかかるのではないか。事業規模が大きく、日本人ヘルパーが多く、さらに教育の行き届いた外国人ヘルパーもいる事業者に、富裕層の要介護者が集中する二極分化が進むのではないか、との懸念もある
訪問介護の報酬切り下げが、小規模事業者の経営を直撃
介護保険の事業者収入になる公定価格、「介護報酬」の改定で、訪問介護の基本報酬が、切り下げられた。訪問介護報酬切り下げの影響が最も大きかったのが、NPO法人などが運営する「福祉NPO」と呼ばれる地域経営の草の根介護を担う小規模事業者で、経営が立ち行かず大きな影響が出ている。
訪問介護の基本報酬は大きくは「身体介護」と家事援助の「生活支援」がある。各サービスは時間ごとに報酬が定められている。ケアマネジャーが要介護者の介護度に応じて一日ずつ、週ごとのケアプランを立てて、サービスを提供する。
原則65歳以上の要介護者(要介護認定者)は、提供されたサービスにかかった費用合計の原則1割(所得によって2~3割)を自己負担する。介護報酬で、サービスごとに公定価格が定められている。この訪問介護の基本報酬が概ね2%以上の減額になった。
介護保険の財源は40歳以上の保険料と、国・地方自治体が各50%で賄っている。高齢化に伴い要介護者は3倍近くに増えている。サービス量が増えれば保険料負担が上がる。介護報酬は長年、実質的に抑制されてきた。使命感が事業を支えている。
介護難民救済の必要性
今回の改定で、ほかのサービスは微増したが、訪問介護だけは減額になった。訪問介護以外のサービスに比べると収益がアップしたため、との理由が挙げられている。
NPO法人などで組織する地域の小規模訪問介護事業者は、以下のように反論する。
サービス付き高齢者住宅(サ高住)などが建物内の併設型か、近くに設置された訪問介護事業所を利用している。このため効率的に巡回できる。一方、一軒一軒巡回する小規模事業者は移動に時間がかかる。収益は赤字が続いている。
サ高住は前回までに紹介したが、建物内の居室を提供する住宅型の居住系サービスで、2011年に国土交通省との連携で創設された。建設会社や資本力のある企業が参入して8400棟、29万戸近くが建設された。まだ増え続けている。併設型などは同じ資本系列が多く、建物内の要介護居住者を巡回するので効率的にケアが出来る。収益も効率がアップする。
これに対し福祉NPOは2000年の介護保険創設時から家庭で介護経験のある主婦らを中心に、ボランティア的に地域の要望に応えて事業を続けてきた。いわば草の根介護を担ってきた。移動に時間がかかり、介護報酬に算定されない。ヘルパーの平均年齢が60~70歳代と高齢化した事業者が多い。人材不足でヘルパーを募集しても集まらない。介護報酬カットで減収が大きく、移動用の車やガソリン代など必要な事業経費の高騰、人材不足などが重くのしかかる。小規模事業者の廃業、倒産が増えた。年間100社規模の小規模事業者が倒産した、との調査結果もある。廃業を含めるともっと多いデータもある。
自宅で訪問介護を受けたいとの介護希望者は多い。特に地方では、事業者が多くない。自宅介護の要望、期待に応えられない。長年、地域で草の根的に地域の信頼を得て福祉NPOとして事業を続けてきた事業者の代表はこう警鐘を鳴らす。「訪問ヘルパーがいなくなる!」。
介護保険は40歳以上が毎月平均5000円超の介護保険料(40~64歳は会社との折半)が給与や年金から天引きされる。40~64歳は若年性認知症や難病など特定疾患の人は要介護の対象になるが、原則は65歳以上で要介護認定者が対象になる。介護の必要がなく、元気高齢者のままでいると、介護保険料は言わば、掛け捨てになる。いざ介護が必要になる。施設や居住系に入るお金がない。自宅で訪問介護(かかった費用の原則1割)を受けようとしても、事業者がいない。これでは介護難民、保険料負担の掛け捨てと言われても仕方がない。要介護者の要望に沿って、幅広い選択肢を残すことが重要だ。
小規模事業者の経営改善策を要望
厚労省は小規模事業者の要望を受け、「処遇改善加算」という名目で、ヘルパーの賃金改善策を導入したが、小規模事業者の経常経費や物価高騰で経営環境の改善には至っていない。
サ高住や有料老人ホームなど大手資本が経営する居住系サービスは、ビジネススキルやスタッフのICT技術などが進んでいる。雇用形態も賃金水準も、安定している。介護ビジネスを活発化させて、若い有能な人材を正規雇用するパワーもある。ヘルパーとしての処遇はサ高住を含め経営規模に関わらず、いずれも全体的な底上げ、改善が必要だが、福祉NPOなど小規模事業者の事業形態や立地する地域性の違いなどによる大きな収益格差、地域への貢献度などを考慮した介護報酬の改善策も必要だろう。
介護保険の介護報酬など制度の見直しは3年に一度と定められている。切り下げられた訪問介護報酬は次期改定まで現状のまま続くのか。小規模事業者は適宜、制度の見直しを提言しているが、この要望をどう受け止めるか。超高齢社会の進展、物価高騰など激変する経済社会。もっと柔軟な制度の見直しが検討されても良いのではないだろうか。
介護現場の事業者や、利用者の心構えや考え方を変えることだけでは、解決には及ばない。
「技能実習」、「特定技能」外国人介護人材の訪問介護拡大解禁の受け入れをきっかけに、国の介護政策、介護保険の保険者である地方自治体が、日本の介護の現状と未来の課題を模索し、展望を見出す積極的な取り組み面から向き合う必要がある。




























