無料会員募集中
.社会  投稿日:2025/9/21

人生100年時代~渋川智明のタイブレーク社会に直視線⑦日本の介護その1「日本人ファーストと4月からの外国人材の訪問介護解禁拡大」


渋川智明(東北公益文科大学名誉教授)

渋川智明の「タイブレーク社会を生きる」

【まとめ】

・外国人技能実習、特定技能者も一定条件下で訪問介護OKになる。

・外国人ヘルパーが自宅を訪問して身体介護、生活援助の家事支援をする。

・日本人の生活習慣、介護技術や日本語習熟。受け入れる要介護者への理解と対応など課題が多い。

 

■ 今年4月から外国人材に訪問介護サービス提供者を拡大

今年4月から外国人の介護人材として技能実習」、「特定技能」在留者が、一定条件のもと訪問介護サービスを新たに提供する拡大策が決まった。日本人の自宅や居室を直接訪問する介護サービスなので、日本人の生活習慣や、行き届いた日本語、介護技術等の取得・習熟が求められる。課題が多く定着するまで時間がかかる。新たな具体的実施・実践例がまだ報告されていないが、訪問介護に変革と構造改革が求められる。

参院選で日本人ファーストを主張し、参政党が躍進した。外国人の行き過ぎた受け入れや、社会保障制度で優遇されているのではないか、との批判がSNSに発信された。

本欄で、これまでに外国人で生活保護制度の医療扶助を適用されているのは適法に在留している永住者らが、日本国民に準じて人道上の観点から生活困窮者に支給されていることを詳述した。不正受給や税、保険料の不払いは日本人ともども厳しく追及されなければならないが、超高齢社会において、介護人材の人手不足は深刻さを増している

■ これまでは原則、介護福祉士資格者か介護福祉士養成施設の修了者

厚生労働省などによると100歳以上の超高齢者が9万5千人、65歳以上高齢者が29・4%といずれも過去最高になった。まさに人生100年時代。要介護者も増えた。現在直面している団塊世代の75歳後期高齢者入りの2025年問題、団塊ジュニアが高齢化する2040年問題を見据えると、介護の現場に外国人材の受け入れが求められているという現実は、認めざるを得ないだろう。日本人ファーストを屈折させた排斥的発信と、外国人介護人材の受け入れは対照的だが、ある意味、日本社会の陰影を映し出している。

2017年、公的介護保険で外国人介護人材に日本の国家試験、「介護福祉士」の資格が原則、義務付けられた。施設介護、訪問介護は、これまでは東南アジアの「EPA(二国間連携協定)=インドネシア、ベトナム、フィリピン」と「介護就労」の在留資格=下表左=の介護福祉士、そして経過措置で介護福祉士養成施設の修了者など合計約1万3千人に認められていた。

■ 拡大が認められたのは「技能実習」・「特定技能」の在留者

今年4月から認められたのは冒頭で紹介した「技能実習」、「特定技能者」=下表右=。これまではバツ印だったが、1年以上の実務経験や初任者実務修了者など日本語習得、介護技術、日本人の生活習慣や暮らしぶりの把握など課題克服のための一定の条件下で認められる。介護分野の外国人在留者数は技能実習約1万6千人、特定技能は4万3千人近くいる。

  

▲図 上記2図ともに 出典:厚生労働省、外国人介護人材の訪問系サービスへの従事について(報告)

「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」がとりまとめた中間報告書、「外国人介護人材の業務の在り方に関する検討会」により、制度化された。引用技能実習と、特定技能は表のように、一定期間内に国家試験を受験し合格しなければ帰国を迫られるが、その間、訪問介護に就労できる。

■ 拡大される人材のサービスは「身体介護」と家事的「生活援助」

公的介護保険のサービスは大きく分けて①施設介護(特別養護老人ホーム、老人保健施設、介護医療院の3施設)在宅介護(訪問介護など)の2種類ある

今回、技能実習、特定技能者にも拡大して認められたのは、比較的軽度の人たちが対象の②の在宅介護の訪問介護サービス。ホームヘルパーとして自宅や居室を訪問しておむつの取り換えや身体の清拭など「身体介護」と、「生活援助」の掃除、洗濯、食事の補助、さらに「訪問入浴介助」など介護予防を含めた6種類が可能になる。軽度の人が多いが、自宅で終生過ごしたい重度者、認知症の人も多くいる。経験と高度な介護技術も求められる。

制度が複雑で混同しやすいのでさらに説明がいる。

施設介護の

1. のサービスは上記3施設のみで、社会福祉法人、医療法人など広い意味の公益法人が運営者。この介護は原則、介護福祉士などの資格がいる。

2. の今回、「技能実習」と「特定技能」に拡大してサービスが解禁された在宅の訪問介護事業は、株式会社、NPO法人を含む民間法人が運営に参入。NPO法人など小規模事業者は一軒一軒、地域の自宅や居室を訪問する。資本力のある生命保険会社などの事業者は建造物の伴う居住系の「サービス付き高齢者住宅」(略称・サ高住)や「有料老人ホーム」などを主に運営している。

他にも居住系サービスがあるが、利用者が多いのはこの2つで、首都圏に多い。バリアフリー、広さなど一定の建築規制がある。厚労省から認められた「特定施設入居者生活介護」は介護保険適用の介護付きだが、外部の訪問介護事業者に依頼する、或いは併設する方式もある。サービスの提供と言っても、要介護を前提としない、または介護の条件が異なる方式や、元気高齢者向けの住宅型もある。入所の一時金、家賃などこれも色々あり、チラシや広告内容は分かりづらいので、要望に沿ってよく検討することが重要になる。

■ 建造物居住系在宅介護サービスの急増

訪問介護は、基本的に介護保険利用者の自宅、居室を訪問してサービスを行う。このため掃除、洗濯などの生活・家事援助や、身体の清拭などの身体介護は、日本人の生活様式や暮らしの習慣などを理解し、キメ細かなサービスを行う必要がある。

短期間の実務や初任者研修で、利用者の求める十分なサービスが出来るか、疑問点や不安視する声も多い。また受け入れる側の日本人利用者が、自宅に外国人材を招き入れることに躊躇する人がいた場合、どのように理解してもらいサービスの提供を受け入れてもらえるかも課題になっている。

大規模、小規模事業者の2極化

外国人材を派遣する事業者は行き届いた日本語教育、介護技術の伝達がこれまで以上に重要になる。要介護の利用目的によって異なるが、経済的に余裕がある高齢者層が、入居金や家賃があるサ高住など居住系に契約する傾向が出ている。

小規模事業者は年金生活者などを主な対象にして、一軒一軒自宅を訪問して、地域で信頼を得て事業を続けている。事業収入になる公定価格の介護報酬切り下げで、効率よく巡回できるサ高住に併設された事業所などに比べて経営効率が上がらない上、経営不振が深刻になっている。廃業や倒産も増えている。この2重構造的業界の縮図は、事業規模や運営のシステム、形態によって、それぞれメリット、デメリットがある。

大規模事業者は日本人スタッフが豊富で、外国人材もプラスすると人的スタッフが強力になる。しかし小規模事業者の廃業などで、終生住み慣れた自宅で過ごしたい人たちとの介護格差や、特に地方における介護難民が顕在化しないか。外国人材の訪問介護解禁はまだ始まったばかりなので、経過や推移を見守る必要がある。介護保険料を負担している40歳以上の被保険者(事業者との折半)、要介護者(原則65歳以上)の選択肢は幅広く確保しなければならない。

外国介護人材の介護現場における現状や今後の課題と、受け入れ側の介護事業者や国の介護政策が抱える問題点、課題解決への取り組みや、見通しなどについても、次回、さらに見てゆきたい。

(続く)

写真:イメージ 出典:Nattakorn Maneerat/GettyImages




この記事を書いた人
渋川智明東北公益文科大学名誉教授

東北公益文科大学名誉教授。


早稲田大学卒業後、1971年、毎日新聞入社。東京本社社会部編集委員(厚生労働担当)。2005年、東北公


益文科大学公益学部(山形県酒田市)教授・公益学部長、大学院(山形県鶴岡市)公益学研究科長。


 定年退職後、法政大学社会連帯大学院、目白大学生涯福祉大学院非常勤講師を経て現


在は専門学校・社会医学技術学院=東京都東小金井市=講師(非常勤・社会保障論)。


 著書「福祉NPO」(岩波新書)、「介護保険活用ガイド」(保健同人社)、「賢い


患者になろう」(実業之日本社)「ソーシャルビジネスで地方創生」(ぎょうせい)=


以上単著、「認知症対策の新常識」(日東書院・共著)等。

渋川智明

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."