無料会員募集中
.社会  投稿日:2025/9/22

人生100年時代~渋川智明のタイブレーク社会に直視線⑧~日本の介護その2「外国人材の訪問介護解禁拡大と日本社会の介護」


渋川智明(東北公益文科大学名誉教授)

渋川智明の「タイブレーク社会を生きる」

 

【まとめ】

・外国人材の訪問介護拡大解禁の波紋広がる。

・大手の居住系「サービス付き高齢者住宅」(サ高住)などが進出・急増。

・訪問介護報酬の切り下げで、地域の小規模事業者は資金難で廃業、倒産増。

 

 

■厚労省が訪問介護解禁者に1年以上の実務経験など遵守事項を提示

前回、本欄で今年4月から外国人の介護人材として「技能実習」、「特定技能」の在留者に訪問介護サービスの提供が拡大して、解禁されことを紹介した。すでに施設介護や在宅介護の居住系サービスで国家試験の介護福祉士、旧制度のヘルパーらとともに「技能実習」や「特定技能」として在留していたが、訪問介護は解禁されていなかった。これからは日本人の自宅を訪問して、身体介護と生活支援の掃除・洗濯、食事・入浴介助などの介護サービスを提供できるようになる。

人手不足から、「ゴーサイン」が出たが、受け入れ側の事業者には、全体として、外国人の訪問介護拡大解禁に「異議はない」にしても、「時期尚早」という慎重論もある。日本人が外国人のヘルパーを自宅や居室に招き入れ、介護を受けることになる。認知症の利用者もいる。言葉の問題や日本人の生活習慣を理解してもらうには課題が多い。日本の介護現場で超高齢社会を今後どのように支えて行くのか、考えざるを得ない。

介護分野の「特定技能」外国人の国籍をみると、インドネシアが最も多い。次いでミャンマー、ベトナム、フィリピン、ネパールの順となっている。EPA介護福祉士候補者を受入れている。EPA(二国間協定)のインドネシア、ベトナム、フィリッピンを含む上位5か国で9割以上となっている。

出典)厚生労働省

厚生労働省は「技能実習」、「特定技能」に訪問介護を拡大解禁するに際して、下記表のような遵守事項を示している。

出典)厚生労働省

実際に訪問介護に入るには1年間の実務や基本研修=(上記表)などを経た後、受け入れ先の利用者の理解を得る。訪問介護は一人でサービスを提供するが、慣れるまでは日本人の経験者の同行ICTによる介護技術のマニュアル整備などが求められる。大企業経営の居住系「サービス付き高齢者住宅」(サ高住)や有料老人ホームなどは、厚生労働省から介護付きの「特定施設」指定されているところも多い。外部の訪問介護事業者のヘルパーに「依頼する」、或いは「併設する」システムのところもある。住宅型のタイプもある。資本力や雇用の形態も含め人的スタッフが比較的に充実している。このため「技能実習」、「特定技能」を訪問介護ヘルパーとして受け入れる場合、教育や養成システムが整いやすい。

これに対しNPO法人などが運営する小規模事業所は、在籍するヘルパーの高齢化や極端な人手不足で受け入れが難航するとみられる。外国人スッタフが多い事業所と、日本人スタッフが多い事業所の2極化が進むとの、予測もされている。

 

■大手資本の在宅介護ビジネスに急進出で「サ高住」などが建設ラッシュ

今回、「技能実習」、「特定技能」の外国人介護人材に拡大して解禁された訪問介護は在宅介護社会福祉法人など公益法人に運営が限られている特別養護老人ホームなどの施設介護とは、別扱いに分類される。自宅や居室を訪問するので、「技能実習」、「特定技能」はこれまでは見送られてきた。

在宅介護を運営する事業者は規制緩和で「株式会社」、「NPO法人」、農協・生協など法人格のある民間の組織・団体も都道府県の事業指定を受ければ参入できる。

訪問介護は基本的に、ヘルパーが高齢者の自宅などを訪れ生活を支えるサービスで、これまで訪問介護事業者は小規模事業者やNPO法人が多かった。日本人の生活習慣に応じて、一軒一軒自宅を訪問、きめ細かなサービスが期待され、外国人材には、地理的環境や個々の生活習慣に慣れる必要がある。

ところが、その基本構造に変化が起きている。「在宅介護」でも近年、生命保険会社など大手資本が歴史のある介護事業者の買収や自社の系列会社を興して介護保険ビジネスに多く参入している。建造物を建てて、居住系の在宅介護を提供する。居室で訪問介護をするシステムだ。有料老人ホームとともに、介護付きの特定施設として運営しているところもあるが、訪問介護ヘルパーは外部の事業所に依頼するか、近年は建物内に系列の訪問介護事業所を併設して、サービスを提供する介護ビジネスが急速に増えている。これはすでに紹介したが、公的介護保険における介護ビジネスの大きな変革期と捉えなければならない。

中でも、これもすでに紹介したが、国交省との連携で制度化された「サービス付き高齢者住宅」の建設ラッシュや、すでにある「有料老人ホーム」などの事業が急進出し、増えている。


出典)厚生労働省

2025年時点では、サ高住は全国に8300棟近く、29万戸が利用している。まさに急カーブで増え続けている。首都圏、関西圏、北海道などの都市周辺の立地が多い。介護付き有料老人ホームと、住宅型有料老人ホームを合わせると急カーブ(上記表)で増えていることが分かる。

居住系サービスは入居資金や家賃もかかる。家族が施設介護や居住系サービスを推奨しても、住み慣れた自宅で終生を過ごしたい人が多い。しかし小規模事業者が今、介護保険の事業所収入になる介護報酬の切り下げで、苦境に陥っている。

苦境の要因は事業収入にあたる介護保険の介護報酬のうち訪問介護の基本報酬が切り下げられたことが大きく影響している。次回、「日本の介護その3」で、今後の展望を詳しく分析してみたい。

(つづく)

写真)イメージ

出典) Photo by kazumaseki/ Getty Images

その1はこちらから

 




この記事を書いた人
渋川智明東北公益文科大学名誉教授

東北公益文科大学名誉教授。


早稲田大学卒業後、1971年、毎日新聞入社。東京本社社会部編集委員(厚生労働担当)。2005年、東北公


益文科大学公益学部(山形県酒田市)教授・公益学部長、大学院(山形県鶴岡市)公益学研究科長。


 定年退職後、法政大学社会連帯大学院、目白大学生涯福祉大学院非常勤講師を経て現


在は専門学校・社会医学技術学院=東京都東小金井市=講師(非常勤・社会保障論)。


 著書「福祉NPO」(岩波新書)、「介護保険活用ガイド」(保健同人社)、「賢い


患者になろう」(実業之日本社)「ソーシャルビジネスで地方創生」(ぎょうせい)=


以上単著、「認知症対策の新常識」(日東書院・共著)等。

渋川智明

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."