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.政治  投稿日:2025/9/30

自民党の危機:「解党的出直し」の総裁選に募る不信 


 

目黒 博(ジャーナリスト) 

目黒博のいちゃり場 

 

【まとめ】 

・「石破おろし」以降の自民党の動きと政治報道は、国民目線から程遠い。 

石破首相より優れた新総理総裁は誕生しそうにもないと考える人は多い。 

・自民党は「声なき声」を聴く耳を持たず、同党への不信が渦巻いている。 

 

この記事では、筆者がこだわってきた「沖縄における政治と社会の関係」から離れて、自民党の参院選大敗と、その後の党内の動きについて、私見を述べる。 

 

■「石破おろし」から総裁選への流れへの疑問は多かった 

写真:日本記者クラブでの総裁選候補者討論会(2025年9月24日)  

出典:自民党本部HP 

 

参院選敗北を受けて激しい「石破おろし」が起き、石破氏の総裁辞任表明を経て党総裁選になだれ込んだ。解党的出直し」を叫ぶ議員は多いが、その意味は不明だ。 

 

政権と党のトップや幹部を別の有力者に交代させるだけなのか。業界を代弁する族議員たちが政府と党を牛耳る体制がむしろ固まるのか。党内融和を優先し、裏金議員も重要ポストに起用すべきとの発言が複数の総裁選候補から出て、国民は呆れる。 

 

参院選大敗後、「石破おろし」から総裁選に至る流れは盛んに報道され、テレビでも連日「有名な」政治記者たちが、延々と「政局解説」を行った。総裁選が前倒しになるのかどうか、ポスト石破の有力候補は誰か、などが主な内容だったが、国民の多くが、このような政治報道には冷ややかだったことを、彼らはどこまで認識していただろうか。 

 

自民党敗北の原因は何か。即ち、どのような物価対策を打ち出すべきだったのか。米価をどう抑えるべきだったのか。裏金問題は本当に「解決済み」として良かったのか。反社会的な宗教団体だった旧統一教会に深く関与した議員に対して、党はどのような処分を下すべきだったのか。 

 

自民党大敗の要因に関するこのような論点についてはほとんど語られず、ともかく「石破は辞めろ」の大合唱が党国会議員や地方有力者たちから出た。そして、主流メディアもまた、その動きに「加担」したと言える。 

 

多くの国民は、そして自民党員の一部ですら、現在の自民党は「腐っている」と考えている。その象徴は「裏金議員」たちだ。しかも、「石破おろし」を先頭に立って主張したのは、この「裏金問題はもう終わったことだ」とうそぶく議員たちだった。 

 

主流メディアの政治記者たちが、国民目線から遠く離れた感覚で「政局談義」に興じたことは、民主主義の根幹に関わる深刻な矛盾だ。市政の人々を地道に取材せずに問題をえぐらなかったからこそ、伝統メディアは信頼されなくなったのだ。SNSの跋扈を嘆く前に、主流メディアこそ自身の政治報道の在り方を検証すべきではないか。 

 

■石破首相の国連演説への賞賛の嵐と、新総裁の資質への懸念の声 

写真:国連総会で演説する石破茂首相(現地時間2025年9月24日)  

出典:首相官邸HP 

 

9月23日(日本時間では9月24日)に、石破首相が国連総会で演説を行なった。ごく一部の人(保守系右派など)からは批判されたが、高く評価した人が多い。 

 

石破氏は、ウクライナ戦争を続けるロシアと、ガザで残酷な戦争を遂行するイスラエルを激しく非難した。また、原爆の悲劇を広島の生々しい例を挙げて紹介し、国連安保理改革も提唱した。トランプ大統領への忖度はなく、格調の高い内容だった。 

 

石破首相の後を継ぐ人物がこのレベルの演説ができるだろうか、これほどの教養を身に着けた人物がいるだろうか、との声がSNSにあふれた。 

 

総裁選候補を見渡すと、まず、「実力者」とされる「自信家」や「野心家」たちに、利用しやすいと見られて担がれた人気者がいる。そのほかに、中国は言うに及ばず、韓国や東南アジア諸国や、米国の穏健派から警戒される国粋主義者もいる(この候補の応援団には裏金議員や旧統一教会協力者が多い)。もっぱら、自らの存在感をアピールするために「石破おろし」に狂奔した人物もいる。見識豊かな候補もいるが、覇気がない。 

 

今、日本は深刻な状況にある。外交だけ取っても、「アメリカファースト」の旗を振り回し、同盟国ですら他国が困ろうが一向に構わないトランプ大統領に、どう対応すべきか中国の硬軟両面での攻撃や介入に苦しむ台湾に対して、日本は何ができるか。日米同盟を維持しつつ、韓国や東南アジア諸国、インド、EUを始め、トランプ関税の攻勢にさらされている国々と、どう連携すべきかなどなど。 

 

だが、総裁選候補者たちは、世界観や見識においては、石破氏よりはるかに見劣りするが、「80年談話を出すべきでない」などと、同首相をけん制するほど傲慢だ。総裁選の有力候補が日本の明るい未来を切り開ける、と期待する国民は少ない。 

 

■自民党は一般国民からかけ離れた存在になっている 

日本政府のトップは、国民生活の課題に取り組みつつ、難しい外交のかじ取りも迫られる。その責任は重い。だが、今回の総裁選は、その任に堪えられるだけの経験と資質、そして教養を持たない者同士の争いになってしまった。 

 

このような権力闘争中心の政治劇は、「地べた」に生きている人々から見れば、エリート政治家や有力者たちによる「空中戦」、つまり、「別世界の出来事」に過ぎない。 

 

社会を見てみれば、株価が史上最高を更新し続け、一部の大企業が巨万の富を得る一方で、下請けの中小企業はしぼり上げられている。一般国民の生活も苦しい。富裕層はますます富み、貧しい層の生活レベルは以前より下がっている。だが、政治は、その矛盾とは無関係なエリートたちによって動かされている、というイメージが定着してしまった。 

 

ちなみに、今回の自民党総裁選の候補者は、生活苦とは無縁のエリートばかりだ(その点では、石破氏も同じだ)。生活苦を経験した人だけが政治家になるべき、とは言えない。しかしながら、総裁選の候補者たちが、社会の末端で何が起きているかをあまりにも知らないと「庶民」は感じている。そこに自民党の危機がある。 

 

要するに、自民党は、社会の課題を発見して政策立案につなげるボトムアップ型のシステムを失い、社会への対応能力を失ったと言える(既存の野党も同様だが)。 

 

備蓄米放出への抵抗、裏金議員には穏便な対処、不動産市場への投機マネーの流入とマンション価格高騰の放置、東京オリンピックでのスポーツ貴族たちの暗躍と不透明な決算。政治・行政と業界との癒着の例は数えきれないほど多いが、長い間にたまった膿を出し切ろうとする総裁選候補は見当たらない 

 

今回の総裁選を機に、自民党の立て直しを図るとの建前だが、むしろ、国民の不信感を増幅することになりかねない。はてさて、誰が新総裁に選ばれ、何を語り、どう行動するのか、じっくり見てみよう。 

 

トップ写真:自民党本部外観  

出典:自民党本部HP 




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