沖縄政治の地殻変動② 浦添市議選を襲った「新しい波」

【まとめ】
・本年2月9日の浦添市議選挙を襲った「新しい波」―女性と若手の台頭―は、沖縄政治の地殻変動を暗示する。
・沖縄政治に3つの流れ(無関心と選挙棄権、ポピュリズム、実務派首長の奮闘と若手と女性の政界進出)が生まれつつある。
・今後の課題は、女性と若手の議員たちが、実務派の行政関係者らと連携して、建設的な政策立案にどこまで関与できるかである。
本年2月9日に投開票された浦添市議会議員選挙で、議員の顔ぶれが劇的に変わった。特筆すべきは女性と若手の台頭である。人口12万人弱の浦添市の議会選挙結果が、沖縄政治全体に及ぼす影響は限定的かもしれない。だが、沖縄政治の将来を示唆する要素も窺える。
そこで、この記事では浦添市議選を襲った「新しい波」を検証し、その意義を考える。
出典:沖縄県
<浦添市議会の新しい風景:女性、若手、新人の躍進>
浦添市長選挙と同日選挙となった浦添市議会議員選挙(2月9日)では、女性、若手、新人が躍進した。その一方で、長らく浦添市議選で圧倒的な強さを見せてきた共産党と、市政与党の自民党が大幅に後退し、公明党以外の既存政党の存在感は一挙に薄くなった。
2001~21年に行われた6回の浦添市議選と本年(2025年)の市議選における、女性、若手、新人の当選者数を比較してみよう(定員は2001年と2005年が30、2009年以降は27である。25~45歳を「若手」とした)。
*浦添市選挙管理委員会事務局HP掲載の『選挙の記録』のデータを使用し、筆者が作成した。⬜︎で囲った数は比較するうえで注目すべき当選者などの数。
6期平均は、2001~21年の平均議席数。
まず目を引くのは、8名出馬した女性が全員当選したことだ。2001~21年の市議選の女性当選者は2名~4名(平均2.67人)だったことを考えると、劇的な変化である。しかも、前回までの女性当選者の多くは共産党と公明党公認候補であり、無所属はゼロか1名だったが、今回は、当選者8名のうち4名が無所属である(その他、れいわ、自民、共産,公明が各1名)。
若手の台頭も目立つ。松本哲治市長が誕生した2013年(注)ごろから、若手当選者が増加したが、今回は、2000年代では最多の11名である。しかも、33歳から41歳の若手が得票数1位~5位を独占した。
(注)松本哲治市長誕生の経緯とその後の市政については、拙稿『沖縄政治の地殻変動①』<https://japan-indepth.jp/?p=86882>を参照。
出典:浦添市市長室
高齢の候補者は苦戦を強いられ、当落すれすれの下位当選組11名の中に、65歳以上が7名も並んだ。女性と若手、新人が男性のベテランにとって代わり、市議会の風景は一変する。
<女性と若手、新人の躍進の背景>
なぜ、女性、若手、新人が躍進したのか。まず、支持母体の固い基盤にあぐらをかいた既存政党・勢力が、広範な市民層の声に真摯に耳を傾けなかった、との指摘が多い。
日本全体が、コロナが明けた後、経済の混乱に見舞われたうえに、ウクライナ戦争によるエネルギーや生活物資の価格高騰が重なった。島嶼県である沖縄は、輸送費急騰に直撃される。さらに県外や国外からの過剰投資が引き起こした地価の暴騰によって、県民の生活環境は急速に悪化した。
県民の生活苦をよそに、「オール沖縄」勢力は相変わらず「基地問題」に固執する。他方、保守本流は、有力企業や業界団体などと組んで、既得権益をむさぼっているように見える。過剰投資は不動産と土建関連企業を潤し、一部の地主は土地売却によって巨額の富を得るが、多くの県民は家賃の値上げに苦しむ。
浦添市は那覇市まで15~30分の通勤圏内に位置する。昨今、那覇に通勤する共稼ぎの子育て世代にとって、上記のような生活の困難に加え、子育てが難しい環境が大きな負担になっている。保育施設の確保から始まり、時間外保育や学童の制約への対応、さらには給食費の負担など、頭痛の種が多く、女性と若い世代は不満を募らせる。
彼らの切実な声に対する、浦添市議会の反応は鈍かった。議員の大半を中高年男性が大半を占めていたからだ。男性と高齢者優位の政治への怒りは限界を超え、子育て世代が直接声を上げるムードが生まれる。SNSによって必要な情報が格段に入手しやすくなり、発信も容易になったことも、その動きを後押しした。
浦添市議選の当選ラインは、1,000~1,200票程度だ。学校の同級生・同窓生やPTA、自治会関係者や知り合いなどから一定の支持が得られる人たちにとって、街頭での演説とSNSを組み合わせて主張を拡散し、票を上積みができれば、議席獲得も夢ではない。
最近の県内のいくつかの自治体首長選挙で実務派が当選し、有権者が政策重視の意思を示したことも、女性や若手の政治参加を促す契機になった。
大きな転機は、2022年の那覇市長選挙である。行政能力を高く評価された知念覚前那覇市副市長が、「オール沖縄」の象徴、故翁長雄志前知事の次男、雄治氏を破った。那覇市民は、人気抜群の翁長家の御曹司より、地味だが、実績のある行政マンを選んだのだ。
本年1月19日の宮古島市長選でも、元沖縄県知事公室長で、同市前副市長の嘉数登氏が「オール沖縄」系の現職市長などを制して当選。浦添市長選での松本市長4選と合わせて、沖縄政界における実務派の存在感が高まってきた。
<革新政党の弱体化と自民党公認候補の苦戦>
「オール沖縄」側では、共産党の凋落が顕著だ。2024年の県議選で大敗したうえに、同年の総選挙の比例区では、沖縄県内の得票数は、れいわ新選組の7割にも満たなかった。
2001年から17年にかけての浦添市議選で1位当選者を輩出し続けた同党は、今回(2025年)は、7位と22位に沈んだ。「イデオロギーより現実的な政策」を求める浦添市民の多くが、反基地と反政府ばかりを強調する同党を嫌ったのだ。
社民党、革新系ローカル政党社会大衆党、立憲民主党など、他の革新政党も、現実的な政策を打ち出せず、低迷が続く(立民と社会大衆が各1名、社民は候補者無し)。
「オール沖縄」勢力退潮の一方で、自民党もまた苦戦し、公認候補7人のうち、議長と副議長を含む3名が落選。惰性に流されてきた、中高年男性中心の同党への市民の視線は冷ややかだった。
<女性と若手議員たちの多様な政治的立場>
最上位当選者6名の顔ぶれは、1位から、自民、れいわ、保守系無所属、自民、保守系無所属、自民と続く。2位のれいわ以外は自民と保守系が占め、「オール沖縄」の地盤沈下が際立つ。
出典:下門あいか公式X
出典:又吉あいか後援会
他方で、自民や保守系無所属は、市政与党系(市長派)とされるが、市長との距離感や重視する政策は多様だ。
たとえば、積極的な活動が評価され、2期連続でトップ当選した自民公認の大城翼議員は、区画整理を重視して土建予算増を求め、民生予算を優先する市長には批判的だ。しかし、新人ながら創意工夫を重ねて3位に食い込んだ保守系無所属新人の又吉愛華議員は、大城議員とは対照的に、土建予算より子育て支援の充実を求め、民生重視を自負する市長の政策も不十分と考える。
また、与党内には、市長に近い立場の議員がいるが、革新基盤の強い地域から出馬している議員の中には市長と距離をとるケースもある。さらには利権がからみ、市長とは微妙な関係の議員も存在する。4月8日の市議会臨時会で行われた市議会議長選挙では、与党系が割れ、野党系の又吉健太郎議員(立民)が選ばれる事態となった。
ベテラン議員が相次いで落選し、与党系のまとめ役が不在になり、遠心力が働きやすい状況になっている。女性や若手の議会への進出によって、議会が活発になることが期待されるが、互いの主張が異なるために、連携がスムーズに進むかどうかは予断を許さない。
<沖縄における政治の3つの流れ>
昨年以来の重要選挙と浦添市長選、同市議選の結果を振り返ると、沖縄政治における3つの流れができていることがわかる。
第一の流れは、政治不信が高じて選挙を棄権する傾向だ。2024年県議選の投票率は45.26%、10月の総選挙は49.96%、同日選となった浦添市長選と同市議選の投票率は50.72%と、いずれも過去最低であった。政治に希望を感じない有権者は、投票所に足を運ばない。
第二は、面白さや尖った主張への同調である。既成政党に失望し、行き場を失った有権者の一部は、政治への「うっぷん晴らし」に走る。この流れは、第一の傾向の裏返しである。
派手な公約を並べる維新系無所属の下地幹郎氏や、既成政党を激しく非難するれいわや参政党は、目立つ表現やパフォーマンスを前面に押し出し、一定の支持を集める。沖縄では、本土とは異なり、「NHK党」などの影響は現段階では少なく、、革新系はれいわへ、保守系は参政党に流れる傾向が見られる。(注)
(注)沖縄の総選挙で、れいわと参政党が、既存政党の基盤に食い込んだ状況については、拙稿「2024年の沖縄政治を振り返る(下)」https://japan-indepth.jp/?p=86126を参照。
「オール沖縄」勢力は、寄せ集め集団であるため、内部対立を恐れて方針があいまいになり、フラストレーションをため込んだ支持層の一部がれいわ支持に回っている。また、保守本流から疎外されたと感じる人々は、下地幹郎氏の既成政党批判や、参政党による利権批判に魅力を感じる。
政党に期待できない以上、面白ければよい、という有権者の投げやりの気分が広がり、歪んだポピュリズムが生まれかねない。都知事選における石丸現象や、兵庫県知事選における「NHK党」の陰謀論の拡散は典型的な例だ。
そのような危うい事態を招いた責任は、既存政党だけでなく、主流メディアにもある。当局や特定の団体などの見解を、踏み込んだ取材も検証もないまま伝えてきた既存メディアは、信頼を失い、SNSの跋扈を招いたと言える。これは本土と沖縄の共通の問題である。メディアは今や変身を迫られている。
第三の流れは、女性や若手の政界進出である。既存の政治家にまかせられないとの、彼らの意思は強い。ボトムアップ型の政治参加の動きは、ますます盛んになるのではないか。
沖縄では、自民党は主に土建関連業界を、革新系は基地反対派を代弁してきた。ところが、今や社会全体が複雑で、困難な状況に陥っている。既存政党は伝統的な支持基盤依存を脱却できないまま、幅広い市民層の新しい要求に応えていない。女性や若手が直接声を上げるようになったのは、自然の流れだったと言える。
昨年以来の重要選挙で、「オール沖縄」を圧倒してきたかに見える自民党だが、浦添市議選の結果を見る限り、その前途は盤石とは言えない。社会のニーズに向き合う政党に転換できなければ、伸び悩むのではないか。
<今後の課題と注目点>
今後注目されるのは、議席を得た女性や若手たちが、実務派の首長や行政職員、政策研究の専門家などと対話を重ね、未来を切り開く、現実的な政策を提示できるかどうかである。
個人的な主張の枠を超えて、ネットワークを築けるかどうかも彼らに課された宿題である。さらに、政治に自らの声を反映させるために議会に進出した彼らは、今や議員として、地域にアンテナを張り、市民の声を拾う役割を負うことになった。その転換を果たせるかどうか。
実務派の市長や行政サイドのイニシアティブも重要だ。女性や若手の議員たちとの双方向のやり取りを通して、市民からの切実な要求を踏まえた政策を立案し、幅広い市民との合意形成を達成できるかどうか。
課題は多いが、本年2月の浦添市長選と同市議選の結果に、建設的な変化の兆しが見られる。まかれた種が花を開き、実を結ぶのを期待したい。
トップ写真:浦添市議会議場 出典:浦添市議会映像配信
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この記事を書いた人
目黒博ジャーナリスト
1947年生まれ。東京大学経済学部(都市問題)卒業後、横浜市勤務。退職後、塾講師を経て米国インディアナ大学に留学(大学院修士課程卒)。NHK情報ネットワーク(現NHKグローバルメディアサービス)勤務(NHK職員向けオフレコ・セミナー「国際情勢」・「メディア論」を担当)、名古屋外国語大学現代国際学部教授(担当科目:近現代の外交、日本外交とアジア、英文日本事情)、法政大学沖縄文化研究所国内研究員などを歴任。主な関心分野:沖縄の「基地問題」と政治・社会、外交・安全保障、日本の教育、メディア・リテラシーなど。

