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.政治  投稿日:2025/8/6

石破進退 派閥主導の「おろし」に反発も 議員総会が命運握る


樫山幸夫(ジャーナリスト、元産経新聞論説委員長)

 【まとめ】

・石破首相は参院後初の国会論戦を、野党の〝協調姿勢〟にも助けられて無事終えた。

・「首相は辞める必要はない」が「辞めるべき」を上回っている世論調査も少なくない。石破おろしの風向きに変化も。

・首相は続投への自信ものぞかせており、自民党衆参両院議員総会を乗り切って政権存続に成功する可能性も。

 

■ 野党から思わぬ”援軍”も

参院選を受けて8月1日から開かれた臨時国会は、議長選出など「院の構成」のほか、衆参両院の予算委員会がそれぞれ1日開かれた。各党首らが質問にたち、日米関税交渉、物価高対策などで論戦が展開された。

関税交渉をめぐって、野党側が「合意文書がなければ、先方から拡大解釈される」と作成を迫ったのに対し、首相は、「実行が遅れることを懸念した」などと苦しい弁明を展開した。

物価高対策として自民党が選挙前に公約した2万円の給付について、「予定通りに行うのか」との質問には、「各党がいかにして責任を持って議論するかだ」「政府だけでは決められない」と国会に検討を押しつける無責任な姿勢を見せた。

選挙敗北を受けて軌道修正しようという意図があったのかもしれないが、「それなら政府は無用だ」(衆院予算委員会、立憲民主党の渡辺創氏)と批判されたのも当然だろう。

首相は、「問題意識は共通している」、「ほかの手法があるならそれをとることもやぶさかではない」とも述べ、野党の対案を受け入れる姿勢も見せ、「すり寄り」(8月5日、朝日新聞)と揶揄された。

もっとも野党側からも首相との連携を求める提案がなされた。

立民の野田佳彦代表は政治改革をめぐる企業・団体献金で、自民党に譲歩して従来の「禁止」から、受け手の「規制」へ転換、そのうえで、「私と協議しよう」と呼びかけた。

首相は「そうしたい。第1党と第2党の党首が話し合うことに意義がある」と即座に応じた。  

延命を画策する首相にとっては、退陣を要求されるのではなく、重要課題での協議をもちかけられたのだから、思わぬ援軍と感じたろう。

■ 長期の居座りも示唆

そうしたこともあってか、予算委員会を通して首相は、続投への自信を深め、時に不遜ともいえる言動も見せた。

関税交渉についての手厳しい質問を浴びせられると、「委員がこれまでどれだけ国際交渉に携わってきたか寡聞にして知らないが」などと相手議員を皮肉り反発を受けた。

外交に関わった経験がないなら黙っていろという発言は、場合によっては挑発として問題視されてもやむを得なかった。

「いつまで続投するのか」(国民民主党の玉木雄一郎代表)という質問に対しては、臆面もなく「いつまでとは断定できない」と答えて、長期の居座りをも示唆した。

■ 広がる石破おろしへの反発

こうした首相の〝高姿勢〟にはさまざまな背景が考えられるが、今回の選挙が惨敗とはいえ、与党獲得が47議席と、目標に欠けることわずか3議席の〝善戦〟だったことに加え、最近の世論調査では、「辞める必要がない」が「辞めるべきだ」を上回るか、拮抗している状況がある。

石破政権に厳しい論調の朝日新聞の調査では、「辞任すべき」が41%、「必要ない」が47%にのぼった。

7月28日に開かれた衆参両院議員懇談会でも首相擁護の意見が相次ぎ、退陣要求が決め手に欠いたことも首相の自信回復につながったようだ。

党内からは、首相だけに責任を押し付けることへ首をかしげるむきも広がってきている。

8月6日づけの朝日新聞は、旧安倍派解散報告会の記事で、「石破首相ではなく(裏金問題を引き起こした)旧安倍派が悪いと思っている国民がいる」と報じ、5日づけの日本経済新聞は、「石破おろし、派閥が主導」との見出しで、「麻生、旧安倍、旧茂木派が前面に出る石破おろしは、かえって首相を支持する声を増やす」と伝えた。

永田町関係者のなかには、「派閥政治を続けてきたことこそ、そもそもの敗因だ。退陣要求をめぐる風向きは変わってきた」という見方も広がっている。

首相の退陣を求める勢力が要求した自民党衆参両院議員総会では、退陣要求がどれだけ勢いを維持できるかが焦点となる。首相がこれを乗り切れば、いったんは水入りとなって、石破内閣は低空飛行ながら、しばらく存続する可能性もでてくるだろう。

ただ、世論調査では「辞めるべき」との声が必ずしも強くはないとはいえ、石破内閣を支持するかとなれば話は別だ。多くの調査では、不支持が支持を上回っている。

首相が、有権者は長期にわたる続投を望んでいるなどと考えれば、とんだ勘違いだろう。両院議員総会は8日に開かれる。

トップ写真:広島平和記念式典に出席する石破首相(2025年8月6日広島市)出典:Buddhika Weerasinghe/Getty Images




この記事を書いた人
樫山幸夫ジャーナリスト/元産経新聞論説委員長

昭和49年、産経新聞社入社。社会部、政治部などを経てワシントン特派員、同支局長。東京本社、大阪本社編集長、監査役などを歴任。

樫山幸夫

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