日本は観光立国になれるのか
福澤善文(コンサルタント/元早稲田大学講師)
「福澤善文の考えるためのヒント」
【まとめ】
・激増のインバウンド、オーバーツーリズムが問題に。
・ガイドは日本政府認定制にし、人材育成を強化すべき。
・トルコなどの観光立国を参考に、日本での緩和方策実行を。
2024年の訪日外国客(インバウンド)数は36,869,900人と対前年比+47.1%を記録した。日本政府は2025年は4000万人超えを視野に入れ、2030年に6,000万人、消費額15兆円を達成するという壮大な目標を立てている。
国際収支の大きな柱である経常収支は貿易収支、サービス収支、所得収支からなる。その中で昨今の訪日観光客の増加によりサービス収支中の旅行収支の数字が2015年以降、激増している。確かに、訪日客が増えて消費が拡大することは日本の経済にはプラスになる。しかしインバウンドの消費拡大にポジティブな面がある一方、オーバーツーリズムの問題が生じている。
政府はインバウンド拡大へと鼻息ばかり荒いが、その為の準備は大丈夫なのか?落書き、動物虐待、禁止区域への立ち入りなど、これまででは考えられないインバウンドの行動への対応を見ているとその不十分さは否めない。今以上のインバウンド増加が続けば、これまでのようなその場しのぎの対応では対処しきれないだろう。
観光について経験の浅い我が国は、他国の例を参考に、学んだ対応策を早急に実行に移すべきだ。
例えば、トルコはアジアとヨーロッパの架け橋たる観光立国でもある。
筆者は初めて、このトルコを訪れた。これまで海外と言えば、単身での出張だったが、今回は参加者21名のグループでトルコの世界遺産を周る典型的なツアー旅行。この旅行で外国観光客を受け入れるためのトルコのインフラが如何に充実しているかをしみじみ感じた。
2024年のトルコへの国外からの観光客数は6,226万人、対前年比+9.8%と、観光客数は日本以上だ。2024年の観光収入は611億ドルで、対前年比+8.3%だった。しかしオーバーツーリズムの問題はなかった。ロシア、ドイツ、イギリスからの観光客数がトップ3で、インド、中国、米国からの観光客数も急増している。2024年の日本人観光客は134,697人と数字的には少ないが、それでも対前年比+70.9%、コロナ前の2019年と比べて+30.3%だった。この2月にはANAの羽田―イスタンブール直行便が就航し、今後は更に増えそうだ。
東京では銀座へ行けばインバウンドだらけ、京都では一般市民の生活にも支障をきたしている。トルコではそのような場面は見受けられなかった。
観光ガイドは全て写真付きの国家資格証明カードを首から下げており、そのカードを常に示していないと高額の罰金が課せられる。色によって、トルコ全体をカバーできるか、地域のみを専門とするガイドなのか区分けしてあり、当局から監視されている。この資格は毎年更新が必要で、質は維持されている。ガイドは十分な知識を有するのはもちろん、その国での観光客の行動規範についても常に目を光らせていた。カッパドキアの遺跡でガイドに喫煙を注意され、連行される他国からのツアー客を目撃した。ガイドが案内する観光地の公衆トイレは有料のところが多かったが、清潔で監視の目が行き届いていた。
日本では中国からの一行のガイドを中国人が行っているのを見かける。旅行社のガイド募集を見ると、経験不問とか、学生でも可とか、資格がなくても誰でも通訳案内業務を行え(2018年の改正通訳案内士法)トルコとは大違い!ガイドは日本政府の認定制にすべきであり、人材が不足しているのであれば、大学の観光学部を充実させて、人材育成を強化すべきだ。いや、もっと早くからやるべきだった。インバウンドが急増する中、このまま素人のガイド主導の観光で、最終的に迷惑を被るのは日本の一般国民だ。
イスタンブールのトプカプ宮殿は観光客が必ず訪れるスポットであり、トルコの一般市民にとっても憩いの場だ。驚いたことに入場料は2000トルコリラ(8000円相当、1トルコリラ=4円にて換算)と高額。しかしこれは観光客価格で、トルコ国民向け価格は350トルコリラ(1400円相当)で、そこから各種割引がある。18歳以下、65歳以上のトルコ国民は無料だ。イタリアなどのEU加盟国でも、ローカル料金、EU加盟国料金、その他料金と入場料を3段階に分けている観光施設が多い。国民であろうとインバウンドであろうと同一料金の日本についてトルコ人からは「観光客への日本の寺社の拝観料、美術館・博物館の入館料は安すぎる」と指摘された。インバウンドの増加の流れから一律に価格が上がり、自国民がなかなか行けなくなるようなことが起これば言語道断だ。
観光立国から学べることを日本で実行すれば、これから益々悪化することが危惧されるオーバーツーリズムのリスクを潰していける、或いは緩和できる方策を見つけられると思う。
国会閉会中に外遊する議員が多いが、そのような方々にはファーストクラス外遊は辞めて、一般のツアー、しかもエコノミークラスのツアーに覆面参加することをお勧めする。現場をよく認知して、得た知識を日本で活用すれば、現在の諸問題の解決の糸口になるだろうし、日本国民の一般生活に利することも多いはずだ。そうすれば、エッフェル塔前での記念撮影にも文句は出ないだろう。
トップ写真)タクシム広場 イスタンブール,トルコ 2023年6月30日
出典)Hakan Akgun/ dia images via Getty Images
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この記事を書いた人
福澤善文コンサルタント/元早稲田大学講師
1976 年 慶應義塾大学卒、MBA取得(米国コロンビア大学院)。日本興業銀行ではニューヨーク支店、プロジェクトエンジニアリング部、中南米駐在員事務所などを経て、米州開発銀行に出向。その後、日本興業銀行外国為替部参事や三井物産戦略研究所海外情報室長、ロッテホールディングス戦略開発部長、ロッテ免税店JAPAN取締役などを歴任。現在はコンサルタント/アナリストとして活躍中。
過去に東京都立短期大学講師、米国ボストン大学客員教授、早稲田大学政治経済学部講師なども務める。著書は『重要性を増すパナマ運河』、『エンロン問題とアメリカ経済』をはじめ英文著書『Japanese Peculiarity depicted in‘Lost in Translation’』、『Looking Ahead』など多数。
