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.政治  投稿日:2025/10/22

高市首相は、ただちに総選挙で新内閣の信を問え なりふり構わぬ数合わせは国民にどう映る


 樫山幸夫(ジャーナリスト、元産経新聞論説委員長)

 

【まとめ】

・高市新内閣は、日本維新の会との〝連立〟という予想と異なる形で発足した。

・選挙で得票を大幅に失った政党をあらたに政権に加える是非については議論があろう。

・高市新首相は早急に衆院を解散、総選挙で新政権に対する国民の信を問うべきだ。

 

 維新から補佐官、実質的な連立内閣

 

 高市内閣は、維新が閣内に加わる連立内閣が予想されていたが、今回、維新の遠藤敬氏が首相補佐官(連立合意政策推進担当)に就くだけにとどまった。しかし、首相補佐官は、首相の側近、れっきとした政府の一員であり、実質的には連立政権というべきだろう。

 

 新内閣の顔ぶれをみると、党役員人事とあいまって、総裁選の論功行賞の色合いが強い。

 

 一方で、茂木外相、林総務相、小泉防衛相など、自民党総裁選で争った各氏を重要ポストに起用するなど党内融和にも重点がおかれた。

片山さつき財務相など、財政再建を重視する財務省との対立をいとわない大胆さもみせた。女性閣僚は予想より少なかったものの、初入閣が10人にのぼり、可能な限りの清新さも印象づけた。

 

■ 維新にとっては「渡りに船」だが、スジ通らず

 

 ご祝儀気分に水を差すわけではないが、高市内閣発足の経過に対して、不明朗さ、割り切れなさを感じた国民も少なくなかったのではあるまいか。

 

 維新は従来、自民党との連立を否定してきたにもかかわらず、公明党が離脱した後、態度を一転させた。自民党との協議の当初、企業団体献金の禁止を絶対条件としながら、交渉の過程で突然、論点をぼかすかのように衆参両院議員の削減を持ち出した。

 

 自民党がこれを受け入れると、政治資金問題については、「高市総裁の任期中に結論を出す」(自維合意)とあいまいな表現にとどめた。

 

 連立を離脱した公明党は、企業団体献金を認めながらも、受け入れ側の規制強化に対する自民党の対応が不十分であることを、その理由にあげている。

 

 維新より緩やかな方針の公明党が自民の対応を不満とし、よりきびしい条件の維新が妥協したことをどう説明するか。

 

政権入りは、党勢挽回にとって、渡りに船だったろうが、「自民党に協力するなら最初から言ってほしかった」(玉木国民民主党代表)という批判が出たのも当然だった。

 

 維新は7月の参院選で1議席こそ増やしたものの、比例代表の得票数、率は437万票、7・39%。2022年の784万票、14・8%から大幅に

減少し実質的に大敗北だった。

 

 1年前の総選挙でも6議席減、比例の得票数、率はそれぞれ前回下回っているから、自民党同様、連敗だ。

 

 与党に身を置いていて、選挙で敗北した後も、とどまるというケースはこれまでの自公同様、みられるケースだが、選挙で負けた直後に政権入りするのはスジが通らない。

 

■ なりふり構わぬ高市自民の多数派工作

 

 高市首相の実現だけをめざして後先考えずに維新を連立に引き込んだ自民党に驚き、失望した国民も少なくあるまい。

 

 高市総裁選出の翌日、公明党との連立協議前に、密かに国民民主党の玉木代表と会談、不調とみるや今度は維新に接近。維新が急遽突き付けた議員定数削減の条件を丸のみにして、他党に諮ることなく今臨時国会への法案提出を約束した。

 

 小会派にも触手を伸ばし、参院ではNHK党出身の議員と院内会派を組む念の入れようだったんだ。

 

 初の女性首相という清新、鮮烈な印象とは程遠く、維新の判断を曇らせ、強引に政権に引き込んだ罪は重い。

 

■ 首相は恐れずに民意問え

 

 こうした党利党略、憲政の常道を無視した数合わせは国民の目にどう映るか。この際、総選挙で直接国民に問うてみるのが最良だろう。

 

 自民党、維新が勝利すれば連立政権は支持されたことになるし、敗れれば、連立組み直しも迫られるだろう。いずれの結果でも、国民の意志が示されなければならない。

 

 日本での衆院解散・総選挙は、解散権を持つ首相が、自らにとって有利な時を選んで自由に断行するのが常だが、本来は、それが許されるいくつかの政治状況が想定されている。

 

 ひとつは、内閣不信任案が可決されたとき。憲法にも規定されている。もうひとつは、重要法案で与野党が対立、審議が暗礁に乗り上げた時、有権者の意志を直接聞いてみようと行われる場合だ。

 

 さらに、国会で与野党勢力が伯仲し、政権運営が困難になった場合、勢力分野を変えて安定を図るケースがある。現在の永田町の状況はこれにあてはまるだろう。

 

 国民民主、参政党など夏の参院選で躍進した政党を除き、与野党とも議席減を恐れて解散を警戒しているとも伝えられる。しかし、理解しがたい連立政権を強引に作り上げ、維持するほうがよほど危うい。

 

 国家国民を想うなら、高市首相は恐れずに国民の意志を聞いてみるべきだろう。

 

写真:新首相に選出された高市早苗総裁

出典:Photo by Tomohiro Ohsumi/Getty Images

 




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